金玉十二宮(2)
「……
テスティスはチンポジを──金玉を触りながらそう言った。
白濁色の光の矢、それは彼の
射手座の由来、半人半馬の賢人ケイロンを射殺した毒矢の再現。その毒の苦痛は、
とは言っても、人間が直撃すれば痛みを感じる前に即死するのだが。この魔術の本命は痛みではなく、光速の矢が超遠距離から正確に膝を撃ち抜くという精密性。そして、瞬時に死滅させるその致死性である。
テスティスは
十二星座の魔術──
人物探知術式はヴィルゴの位置座標を示した。
その横には、微動だにせず体育座りでヴィルゴと話す
距離は戦闘地点とそう遠くない場所。
彼らはそこで話をしていた。
初めは罠かと警戒していたが、そんな様子もなく、気の抜けた会話が耳に入る。何かを準備する様子もなく、ただ彼らはぐだぐだと馴れ合っていた。
舐められている、そうテスティスは思った。
だから、本気を出した。
感知すらできない超遠距離からの一方的な攻撃。
反撃する暇も与えず、一撃で殺す
その結果がこれだ。
まるで初めからいなかったかのように。
「俺様を侮ったナ。隙ヲ突かれタ、逃げられタ。それがナンだ。その程度デ俺様に勝てルとでも思イ上がったのカ? 俺様が本気ヲ出せバ貴様ナゾ一瞬で殺せル──」
「──とでも思い上がったか?」
「────ア?」
ズバヂィッ‼︎‼︎‼︎ と。
背後から雷光がテスティスの肉体を貫いた。
「なッ……、……ガッッッ⁉︎⁉︎⁉︎」
何故貴様がいる、とでも言おうとしたのか。
しかし、その言葉は紡げない。
咄嗟に、テスティスの右手が金玉へ伸びる。
その手を再び
「あがア⁉︎」
(俺様ノ不随意魔術……魔除けの術式ヲ貫いタ⁉︎ この短イ時間で成長しタとでもイウのか⁉︎ コレはアラン・ベネットの『
「もうタマキンを触るのは止めようぜ。礼儀ってもんを知らねぇのか?」
宗聖司は……五体揃って怪我一つないオレはそう言った。
「何故ここにいるとでも言いたげな目だな? いいぜ、答えてやる。
電撃を流しながらそう言った。
ヴィルゴに聞いた話だが、口撃もまた魔術戦の一つ。精神的に優位に立つことで、相手の魔術を弱めることができるらしい。
ならば、ここでオレが煽れるだけ煽ることが最適解‼︎
「そもそもオレは逃げていない。ヴィルゴを巻き込まれない場所に移動させただけで、その後はテメェの後ろでずっと隙を伺っていたぜ」
「……っ⁉︎」
「ヴィルゴの横にいたのは、プロジェクションマッピングで映し出しただけの立体映像。声が聞こえたのは指向性スピーカー。まるでその場にいるかのような会話も、カメラで見えてたから出来た。テメェの攻撃を受けて消滅したのだって、衝撃の余波でプロジェクターが壊れただけだ」
『目覚めてすぐにアドリブで会話を合わせた
耳元……イヤフォンからヴィルゴの声が聞こえる。
これは実質ヴィルゴを囮に使った作戦だった。テスティスがヴィルゴの位置座標を探っていたことは〈
だけど、万が一ということがあった。それでも、ヴィルゴはオレから何の説明を受けずとも、見捨てられたとは思わずにオレを信じてアドリブで話を合わせてくれた。どれだけ感謝してもし足りない。
「そろそろ視界も暗くなってきた頃じゃねぇか? テメェが花嫁になって一から女性の扱い方を学びやがれ‼︎」
「…………ッッッ⁉︎⁉︎⁉︎」
オレの蹴りがテスティスの金玉に炸裂する。
オレが
だけど、
強烈な痛みでテスティスの精神が揺らぐ。
それに伴って魔術の効果が急激に落ち始める。
だけど、まだテスティスの心は
「ナ・メ・ル・ナァアアアアアアアアアアッッッ‼︎」
ドビュッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
金的を蹴られた時の男の反応は二つ。
痛みでチンコが萎えるタイプと、むしろ怒りでイキり勃つタイプ。
……言うまでもない。テスティスは後者であった。
『避けなさい‼︎ 掠めただけでも死亡しますわ‼︎』
「うおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」
金玉が潰されたからと言って、テスティスの脅威度が下がった訳じゃない。天球に星々を投射することはできなくなっても、既に投射した星が消えることはない。
最悪最低の超遠距離光速生命抹殺術式。
テスティスにはまだそれが残されていた。
テスティスは腰を振ってチンコを振り回す。
見た目こそちんちんぶらぶらソーセージだが、その凶悪さは言うまでもない。無軌道に暴れ回るチンコは、射精上にある全ての生物を殺戮する。
(スタンガンが思ったより効いてる……‼︎ 足腰がフラフラしてて、こちらを狙うこともできちゃいない! これなら……‼︎)
一瞬、希望を持った。
それが失敗だった。
「………………は?」
ソラを埋め尽くす白濁色の流星群。
ソラに手を伸ばす不遜な少年を蹴落とす容赦なき天蓋。
100を超える
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ⁉︎⁉︎⁉︎」
叫ぶしかできない。
今なお生きているのが奇跡だった。
考えてみれば当然だ。
〈
そして、『類感』によって彼ら
AIランドにいなくとも問題はない。超遠距離攻撃であり、位置座標が分かっているのならば、障害は何一つとして存在しない。
そうだ、初めから一対一なんかじゃなかった。敵はハーレム500、一対五〇〇の魔術戦。
これこそが、テスティスの切り札。
魔術世界の1%を占有する
正真正銘、全力全開の魔術だった。
(…………これ、死んだ)
逃げ場はない。
散り散りに降り注いでいた光が、オレの元へ収束していく。
やがて、視界は白濁色に染まり────
──ぱっ、と。
白濁色の光は消え失せた。
「…………ナニ、が……」
「危ねぇ、ギリ間に合ったか」
テスティスはすぐさま異常に気がついた。
周囲が余りにも明るい。空が白濁色の
反射的に、テスティスは空を見上げた。
そして、ようやく彼は思い知った。
夜空に浮かぶ星々の全てが消滅していることを。
「
ババババババババッ‼︎ と。
スポットライトが夜空を眩く照らす。
それこそは宇宙エレベータ〈ネオアームストロング〉。
雲を貫く塔がライトアップしたことで、空はまるで昼になったかのように明るくなった。
「テメェの魔術は星そのものじゃなく、地球から見える星の光こそが術式の要だ。だったら、夜空を照らせば星も見えなくなるよなぁ?」
端的に言えば、光害。
本来なら天体観測に影響が出るから忌避される側の現象なのだが、今回ばかりはそれを逆手に取った。
「……ありえ、ナイ。俺様は宇宙エレベータのスケジュールを把握してイル‼︎ 点灯式はマダのはずダロう⁉︎ 無理矢理ハッキングすルことモ不可能の筈ダ……‼︎」
「何言ってんだ、そもそもテメェが何故オレを狙っていたか忘れたのか?」
「…………ッ‼︎」
オレこそが世界に名を轟かせた天才。
〈ネオアームストロング〉の設計者。
誰よりも深く宇宙エレベータを知る者。
管理AIである〈
ライトアップさせる程度、朝飯前だ。
もはや、負け犬の遠吠えなんぞ聞く気にならない。
「……そう、カ⁉︎ 貴様こそが宇宙エレベータに世界をひっくり返す『爆弾』を仕掛けた張本人カッ‼︎」
だけど、テスティスの発言に釘付けになる。
だって、それは、あり得るはずのない言葉だった。
「おい、待て」
「アレこそ
「テメェッ、それを誰から聞きやがった……⁉︎」
それは直接仕掛けたオレと、開発メンバーの一部しか知らない情報。AIランドの上層部ですら知らないんだぞ……⁉︎
テスティスは笑っていた。
敗北を確信した顔で、それでも表情に諦めの感情は浮かんでいない。
「コノ決闘、貴様の勝ちダ。だがナ、貴様にはナンの情報も与えナイ。俺様の負ケは俺様が決めル‼︎」
直後。
テスティスは空高く吹き飛んだ。
最期の足掻きとばかりに、魔力を噴射して。
それと同時、決闘空間が解除される。
もちろん、オレとヴィルゴの勝利だった。
だけど、敗北者であるテスティスはこの場にはいない。
「何が、起きてんだよ……‼︎」
応える者はいない。
手がかりは海の底へ。
ならば、初心に立ち帰るしかない。
オレが何故狙われているのか。
『黒』の目的は何なのか。
刺客を倒しているだけじゃそれは見えてこない。
だから……
「なぁ、ヴィルゴ」
『……何ですの?』
オレは意を決して呟いた。
「オレの研究室へ向かおう。きっと、そこに全ての黒幕がいる」
◇◇◇◇◇◇
〈Tips〉
◆ネオアームストロングとは、AIランド中央に建設された宇宙と地球を繋ぐ宇宙エレベータ。設計者の名前は
◆名前の由来は、人類史上初めて月面に足を踏み入れた宇宙飛行士のニール・アームストロングから。宇宙を踏破・開拓するという思いが込められている。
◆宇宙・地球間での物資の運搬だけでなく、電波塔としての機能も持っている。また、その莫大な電力を賄うために、原子力発電・火力発電・水力発電・風力発電・地熱発電を併用している。
◆〈
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