ルールの穴をズッコンバッコン




「……二人撃破。素晴らしい手際ですわ」

「天才のオレにかかれば、こんなもんチョチョイのちょいだぜ」


 まあ、それもこれもヴィルゴの協力があってこそなのだが。

 ヴィルゴの功績は多岐に渡る。敵の魔術の解析、位置情報の把握、ハーブによる判断能力の鈍化。そして、何よりも…………。


「この魔法のステッキスタンガン凄えな」

「落としてはいけませんわよ。それが貴方の魔杖ペニスですわ」


 〈魔術決闘ペニスフェンシング〉において、魔杖ペニスを失った方は敗北する。

 つまり、初めから魔杖ペニスを持たず、加えて代替魔杖ディルドも持たないオレは決闘空間が構築されてしまうと、自動的に敗北してしまう。

 その対策としてオレに与えられたのが、この魔法のステッキスタンガンだ。


 代替魔杖ディルドの条件とは。

 一つ、魔術師の魔力が篭っていること。

 二つ、棒状であること。

 この二つだけらしい。


「むっ」

「どうした?」


 右眼で周囲を警戒していたヴィルゴが何かに気づく。

 それは、もちろん吉兆であるはずもなく。


「実働隊の二組……四人全員がこちらに集まってきていますわ」

「四人か……さっきの初見殺しが決まっても、まだ二人残るな」

「いえ、〈黄金の天球The Golden Sphere〉のメンバーが全員同一の顔をしているということは、『類感』により視界や記憶も共有していると思った方がいいですわ」

「…………りょーかい」

(となると、プロジェクターと音楽プレイヤーはもう警戒されているか……。なら他の──)



 直後。


 ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 天井をブチ破って一人の魔術師が落ちた。


「見ツケタゾ‼︎」

「なッ⁉︎ わたくしの眼に映らなかった⁉︎ 透明化ですわねッ⁉︎」

「クハハハハハハハハハハハハハハハ‼︎ 我コソハ貴様ヲ殺ス死兆星アルコルナリッ‼︎」


 その男は全裸にローブ一枚だけを身に纏っていた。

 その服からは吐き気がするような甘ったるい匂いがした。


「テメェ‼︎ 〈⁉︎」


 オレ達を見つけてから瓶を割るのではない。

 オレ達と遭遇する直前に、その身と服に〈媚薬香水チャームフェロモン〉を染み込ませる。もしかしたら、宣誓自体も既に終えているのかもしれない。


「コレナラバ貴様ナンゾニ手出シハデキマイ‼︎」

「そんな────」


 そんな、まさか。



「──まさか、本気でそう思ってんのか?」

「エ」




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の四。制限時間は使用した媚薬香水チャームフェロモンの量で決定され、制限時間内に勝負が決まらなかった場合は挑戦者の敗北となる。




 ◇◇◇◇◇◇




 持っているスプレーを全裸ローブ男にぶっかけた。

 多分、これも一度使えば次からは警戒されるのだろう。ならば、ここで全てを使い切る。


「キッ、貴様ァ‼︎ 何ヲ……‼︎」

「完全消臭スプレー。既に〈媚薬香水チャームフェロモン〉を使われていようが、臭いを打ち消せば終わりだろ?」


 時間切れタイムオーバー魔力枯渇テクノブレイク

 ヴィルゴの眼を掻い潜った実力者が呆気なく倒れた。

 転がる女体に脇目もふらず、オレはヴィルゴに呼びかけた。


「ヴィルゴ‼︎」

「分かっていますわ!」


 左右、そして穴の空いた天井。

 残りの三人の魔術師が同時に現れる。


 恐らく、全員が既に〈媚薬香水チャームフェロモン〉を使用している。

 しかし、完全消臭スプレーを振りかけるには距離が遠く、一人なら打ち消せても三方向には対処できない。そして、口の動きから宣誓もすぐに終わることを観測する。


 決闘空間の構築まであと1秒。

 魔術師達の眼がオレに集まる。


 




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の二。対戦相手の指定は、挑戦者が決闘空間内にいる相手を宣誓時に視認することで決定される。




 ◇◇◇◇◇◇




 オレの手にあるのは古いカメラ。

 そのフラッシュの光量をちょっとだけ弄った改造品である。


 決闘空間を構築されたとしても、相手を視認できなければ対戦相手と見做すことはできない。

 故に、失明した彼らがオレと対戦することはできない。


 そして、打ち合わせ通り、ヴィルゴは彼らに掃除機を投げつけた。オレが改造し、空気中の臭いを密封することに特化した一品である。

 ヴィルゴの魔術も手伝って、〈媚薬香水チャームフェロモン〉の匂いが掃除機の中へと収まっていく。




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の五。戦闘区域は地形によって決定され、制限時間終了か勝敗が決まるまで出ることはできない。




 ◇◇◇◇◇◇




 ギュオンッ‼︎ と。

 三人の魔術師が掃除機の中へ引き摺り込まれて行く。


 戦闘区域は地形によって決まるとあるが、アドゥルテルとの戦闘では室内全てが戦闘区域となった。つまり、オレは戦闘区域とは匂いが充満した部分だと考えた。

 ならば、後は単純。匂いさえ密封すれば、


 そして、彼らは出ることができない。

 

 



「…………終わっ、た……?」

首領リーダーが一人残っていますが、取り敢えずは六人撃破ですわね。大金星ですわ‼︎」


 魔術を使わない魔術戦。

 決闘規則を悪用する決闘。

 作戦にはアナも多いが、アドリブで結構上手くいってるんじゃねぇか?


 そう油断していた時、ヴィルゴがあることに気がついた。


「空が暗くありませんこと?」


 空は既に太陽が沈み、暗い夜になりかけていた。

 オレ達がデパートで散策していたのがだいたい正午ごろ。太陽も真上にあった。そこからどれだけ多く見積もったとしても、三、四時間しか経過していない。

 ここまで暗くなるはずがない、ヴィルゴはそう考えているのだろう。


「ヴィルゴ、お前もしかしてAIランド標準時間を信じてんのか?」

「え?」

「この島はさ、島というよりは船に近い。太平洋赤道域に位置してはいるけど、そこから動くことは出来るんだ。そうでもなけりゃ、宇宙エレベータはスペースデブリを避けられなくなるからな」

「…………つまり、AIランド標準時間にも振れ幅があるってことですの?」

「太平洋って言っても、最東端と最西端じゃ時差が10時間以上あるしな」


 AR携帯電話コンタクトレンズを操作して、AIランドの位置情報から正確な標準時を計算する電子ツールを確認する。


「だから今は……18時半くらいか?」

「…………マズイですわっ‼︎」


 ぶわっ、と。

 ヴィルゴが鳥肌を立てて慌て出す。

 その雰囲気の豹変について行けない。


「なっ、何が……?」

「〈黄金の天球The Golden Sphere〉は星座を利用した魔術を得意とする魔術結社ヤリサーですわ‼︎ ですからっ、ここからが敵の真骨頂でしてよっ⁉︎」

「でっ、でも! 一対一ならお前が勝てるんだろ?」

「その前提は全員の顔が同一な時点で破綻していますわ‼︎」


 ヴィルゴは心の底から焦っていた。

 本来は、あと数時間はこちらが有利な状況の予定だった。だからこそ、宗聖司そうせいじの作戦にも乗っていた。

 だが、ボーナスタイムはここで終わり。


「つまりッ、七人の合計でハーレム500を超えているのではありませんわ! 他の六人はお零れに預かっただけの代替可能な部品‼︎ 首領リーダーのテスティスだけでッ、魔術世界の1%に匹敵する──‼︎」



 ──直後。

 放物線を描いて〈媚薬香水チャームフェロモン〉の瓶が降ってきた。

 今まで撃破した六人の魔術師が投げていた瓶と同じデザイン。まるでオレに引き寄せられたかのようなその軌道を見て、反射的にキャッチしようと手を広げて──



「ダメ……‼︎」



 ──そして。


 ‼︎‼︎ 

 〈──



「……………………………………は?」



 煙のように舞う血飛沫。

 弾け飛ぶ肉片、剥き出しの骨の断面。

 吐き気を齎らす人体の生焼けの臭い。

 あるはずの場所にあるはずのモノが無い違和感。


「なんで、なんでだよ」


 だけど、オレは何の痛みを感じちゃいなかった。

 オレの目の前で起こった爆発は、オレを傷つけることはなかった。

 だから。血も、肉も、骨も、オレから見える全ての惨劇は目の前いる誰かの状況だった。


 そう、つまり。



ッッッ‼︎」



 


 厳密に言えば、完全消滅したのは膝から先の両脚。

 だけど、太腿ふとももは原型が分からないほどぐちゃぐちゃになり、傷跡は腰元まで刻まれている。

 手遅れ、そんな言葉が頭に思い浮かんでしまう。

 それを信じたくなくて、オレは自分の頬を殴った。



時間切れタイムオーバー狙いなんテ、ソンナ使い古された手ニ俺様が対処法を考えテいないはずがナイだろウ?」

「…………ッ‼︎」



 そして、そいつは現れた。

 Tシャツにジーパンという魔術師とは思えない格好を身に纏い、片手でずっとチンポジを調節している男。

 髪も、目も、ゴツいアクセサリーも。様々なギラギラとした黄金に身を包み、何処か成金のような印象を受ける『黒』の刺客。


 〈黄金の天球The Golden Sphere首領リーダー、テスティス。



「だガ、解せないナ。『黒』の俺様が宗聖司そうせいじを殺さなイ……殺せなイことは分かってイタだろウ? 何故庇っタ? 戦闘不能になっタのが貴様でなけレば、まだチャンスがあっタというのニ」

「…………借りをッ、……返しただけッ……、ですわ…………‼︎」

「ふム、誇り高いナ。やはリ貴様は美しイ、俺様の花嫁に相応しイ‼︎」

「………………………………あ?」


 今、なんつったコイツ?


「はな、よめ?」

「アア。俺様の正統なル後継者を産むたメのアナを探していてナ。顔も魂も美しク、何よりモ処女。俺様ニ染め上げル価値があル」

「キショいんだよ、処女厨ユニコーンが……‼︎」

「足が吹き飛んデ気持ち悪イが仕方がなイ。顔と子宮ガ傷ついていナイだけ良しとしよウ」

「…………ッッッ‼︎‼︎‼︎」


 チンポジを弄りながらそう言った男に、オレの頭が沸騰した。

 強さなんざ関係ない。コイツの事情なんてどうでもいい。

 最速最短でコイツをブチ殺してやる‼︎



「ヴィルゴはテメェには勿体ねぇよ、粗チン野郎‼︎」

「魔術も使えなイ不能むのうがほざくナァ‼︎」




 ◇◇◇◇◇◇



〈Tips〉


◆ハーレムとは、保有する雌奴隷の頭数を表す指標。同時に、魔術決闘ペニスフェンシングにおける勝利記録も示す。

魔術決闘ペニスフェンシングで勝利すると、対戦相手のハーレムを全て寝取ることができる。敗北すれば、ハーレム0まで落ちる。

魔術決闘ペニスフェンシングは神の力を奪う儀式であり、理論上ハーレム100000に到達すれば神そのものと成れる。ただし、今までの最高記録はハーレム15000である。


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