ヤリサー襲来‼︎
「忘れちゃいねぇよ」
「それならば構いませんが」
話は戻って現在。
ヴィルゴの注意を突っぱねる。
でもまあ、気を抜いていたのは確かだ。
そんなオレに釘を刺すように、ヴィルゴが口を挟む。
「油断禁物ですわよ。次の刺客は既に来ていますわ」
「はあ⁉︎ 言えよ‼︎」
いつの間に⁉︎
反射的にキョロキョロと辺りを見回しそうになる頭をぐっと堪える。魔術で追跡を誤魔化したからと言って、普通に目立って良い理由にはならない。
代わりに、ヴィルゴを非難するように睨む。
対して、ヴィルゴは片手で右眼を抑え、虚空を見つめるように目を凝らす。眼を抑える手の指の間からは、青白い光がほのかに零れていた。
「目から光? それも外送理論とかいうヤツか?」
「正解ですわ。
発光バクテリアみたいなものだろうか。
視線を別の生物の光で代用できるのならば、機械的に視線の光自体を再現できるかもしれない。
「『白』からは
「何も分からねぇわ」
「あー……、
「…………マズイんじゃねぇのか?」
魔術無効……魔術師の天敵か。
これは天才科学者たるオレの出番かな?
「ですが、魔術が使えませんのでそもそもAIランドに不法入国できませんわよ。空港の検問で引っかかっているのが見えますわ」
「馬鹿なのか?」
オレの出番じゃなかった。
当たり前と言えば当たり前なのだが、
ましてや、剣や鎧を持った不審者が検問を通れるはずもなく。
「
「ってことは、残るは『黒』の…………あ? ヤリサーっつってたか、お前???」
「
「待て待て待て待て、まだ飲み込めてねぇぞオレは」
ヤリサー? 何でヤリサー?
謎の魔術用語に紛れ込んでいて反応するのに遅れてしまった。だが、明らかに頭のおかしい下ネタがそこにはあった。
「現代の魔術とは即ち『射精魔術』なのですから、魔術結社がヤリサーになっても不思議ではないですわよね?」
「不思議だぞ⁉︎ 聞いてるだけで性病とか怖くなるわ‼︎」
「細菌やウイルス由来の病気であれば、虫除けの術式で死滅させられますわ。魔術師は基本、病気に罹らないですわよ」
もういいですか? と、迷惑そうに瞳が語る。
良くはないのだが、これ以上聞いた所で理解できそうにないので諦めて頷く。
「〈
「うん」
「
「うん。…………うん??? やっぱ説明してくれ。ハーレムってなに???」
ハーレムって、確かアドゥルテルも言っていたような。
確か、アイツは自分を元ハーレム50の実力だと言っていた。文脈的に言えば、戦闘力みたいなものだろうか。
「はぁ……面倒くさいですわね。ハーレムとは、保有する雌奴隷の頭数を表す指標ですわ。つまり、〈
「500人の魔術師を下したヤツらってことか……⁉︎」
「加えて、敗者たる雌奴隷はその魔力を勝者に供給しますわ。『射精魔術』使いは世界中に5万人程いると言われていますので、〈
「…………ッッッ‼︎」
強力な敵、加えて一対七。
敵を倒す
思わず、弱音が零れ落ちた。
「勝てる、のか……?」
「楽勝ですわよ」
あっさりと。
ヴィルゴはそう述べた。
「強いと言っても、それは〈
「だっ、だけど一対七だぞ⁉︎」
「決闘空間内では強制的に
「…………‼︎」
そう、か。
そうだな、オレたちは一蓮托生。
ヴィルゴが勝てると言ったのならば信じる他あるまい。
「あっ、この位置でしたら……ここから見えますわよ。窓の外、ビルの屋上にいるのが〈
「確かに見え──────オイ、ヴィルゴ」
「?」
「アイツら、全員顔同じなんだけど」
「────ええっ⁉︎」
ええっ⁉︎ じゃねぇよ。
既に想定外が起こってんじゃねぇか‼︎
「兄弟……? それにしちゃあ、全員似すぎてるな。クローンか?」
「なっ…………なぁッ⁉︎ 同一人物判定を誤魔化していますわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
「うるせぇッ⁉︎」
あっ、ヤバ。目が合ったんだけど。
流石に騒ぎすぎたか。
「どどどどどどどっ、どうしましょう⁉︎ 『
「オイオイ、その場合〈
「決闘に介入可能ですわ‼︎ 作戦変更ッ、決闘空間を構築されたら二対七になって終わりですわよ⁉︎」
逃げるか? いや、既に見つかっている。ヴィルゴがやっていた小細工が、見つかってからも効くのかは分からない。
それに、振り切って追撃をビクビクと怖がるよりも、ここで叩いておいた方がいいか。
「ディルド壊した時みたいに、一人撃破したら他のヤツも倒せないか?」
「そんなの相手も分かっていますわ‼︎ ですからッ、呪いやペナルティは波及しないように調整してあるに決まってますわよ‼︎」
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
今ある手札。既に得た魔術の知識。オレが生涯をかけて学んだ『科学』を掻き集めろ。
戦えねぇ癖に頭さえ働かなかったら、本当にオレは邪魔なだけのデクの棒だ。天才と呼ばれた頭脳を
──そして、天才的な直感が働く。
あらゆる過程を無視して、結論を引き摺り出す。
(魔術的な
〈
思い返せば、
オレたちだけが律儀にルールを守る必要はない。オレは『
「なぁ、ヴィルゴ。アイツらが来るまでの猶予は?」
「3分ほどなら誤魔化せますが…………は⁉︎ 迎え撃つ気ですの⁉︎」
3分……ギリ間に合う、か?
いや、やるしかねぇ。
「3分クッキングだ。デパートから材料を現地調達すりゃあ大丈夫だろ、多分」
ヴィルゴは不安な顔をする。
それはそうだ、魔術師の脅威を知らない素人の言うことなんてすぐには信じられない。だけど、今は作戦を説明している暇はない。
だから、オレは安心させる為に強気の台詞を吐いた。
「ルールの
◇◇◇◇◇◇
〈Tips〉
◆
◆規模は大小様々で、3人の所もあれば100人を超える所まである。表社会では会社として存在している結社も多く、拠点は世界各地を転々とするのがスタンダード。
◆基本的に
◇◇◇◇◇◇
「次ハ何処デ曲ガル⁉︎」
「アッチダ‼︎」
ドタドタドタドタ‼︎ と。
慌ただしい足音がデパートに響く。
二人の男が廊下を走っていた。
男の片方は
そんな彼らこそ、
男達の顔は双子のようにそっくりであったが、彼らに血縁関係も何もない。彼らは整形して
そして、それは『類感』によって同一人物判定を誤魔化すためであった。この裏技による強制的な物量戦こそ、彼らが魔術世界の1%を占有するに至った理由である。
「気合イガ入ッテルナ」
「他ノヤツラニ先ヲ越サレルワケニハイカナイ!」
二人の男は
そこは人のいない寂れたゲームセンターだった。埃こそ被っていないが、人がいないのにも納得できるほど薄暗くて寒い。
しかし、男達は怪訝な顔でそのゲームセンターを除く。ゲームセンターの中には、誰もいなかった。
「本当ニココナノカ?」
「…………ソノ筈ダ。首領ノ魔術ハオ前モ知ッテイルダロウ?」
〈
そんな〈
今回の襲撃にもその魔術は使用されており、一時的に妨害されるも、視認によるマーキングと合わせて成功したはずだった。
にも関わらず、その位置座標には誰もいない。
周囲を警戒しながら、男達は一歩ずつ歩みを進める。
一歩、一歩。ゆっくり、ゆっくり。
やがて、
あと三歩、二歩、一歩。
そして───
「マサカ天井ニッ────⁉︎」
「────よお、待ちくたびれたぜ」
バヅン‼︎ と。
男の足元で眩い雷光が瞬いた。
奇襲。
それも、こちらの魔術を完全に理解された上で、相手の戦術に取り込まれた。
いつの間にか、男の足は
いいや、いつの間にかではない。
雷光の正体は
魔術師を包む強力な加護さえ貫く、法規制を完全に無視した致死性たっぷりの改造品である。
男達がその一撃で沈むことはなかったが、後一撃食らえば終わる。そう確信するほどの威力だった。
男達の思考は止まった。
もう少しでも距離があれば、また違ったのかもしれない。だが、
突然の危機的状況と考える時間の無さ、二つが合わさって男達から冷静さは奪われた。
片方の男──股間丸出しの方──は何もできずに硬直した。いわゆる
もう片方の男──チンコ蝶ネクタイの方──は反射的に〈
チンコ蝶ネクタイ男の行動は、咄嗟の判断としては満点に近かった。
決闘空間を構築することで他者からの攻撃を無効化し、自身の魔術を底上げする。投げた瓶が即座に割れるように、最短距離の真下を狙って投げたことも、いつもならば最適だった。
ただし、一つだけ減点箇所があるとするならば。
その真下に宗聖司がいることを忘れていたことであった。
「────ア?」
「まずは、一人」
そして、一滴だけ床に垂らして瓶に封をした。
◇◇◇◇◇◇
〈ルール参照〉
◆規則の四。制限時間は使用した
◇◇◇◇◇◇
瞬間。
蝶ネクタイが床に落ちた。
男は全身に気怠さを覚え、何故だろうと落ちた蝶ネクタイを目で追う。
しかし、床を見るまでもない。即座に視界に入った
そして、彼は少し遅れて現実を理解した。
つまり、彼はチンコを失っていた。
もはや、彼をチンコ蝶ネクタイ男と呼ぶことはできない。その姿は何処からどう見ても全裸の女性だった。
即ち、
男は雌奴隷へと
「ナッッッ⁉︎⁉︎⁉︎ 何ヲシタ……⁉︎」
「たった一滴の〈
「挑戦者ヲ押シ付ケッ、
「カタコトで喋んな、聞き取りづれーよッ‼︎」
そんな相方の醜態を見て、股間丸出し男は硬直から解放される。
同時、
しかし、股間丸出し男の行動はそれよりも速かった。
目の前で起こった失態を反面教師にし、後方へ〈
「聞ケッ、我ガ目ヲ────、────ッッッ⁉︎」
「声が出ねぇだろう?」
◇◇◇◇◇◇
〈ルール参照〉
◆規則の一。決闘空間は挑戦者の宣誓と、
◇◇◇◇◇◇
「ッ──、────ッッッ⁉︎」
「声ってのは声帯を震わせて出すモノだからよ。それを相殺するような逆位相の音波をぶつければ、テメェの
地面に転がっている音楽プレイヤーと、それと有線で繋がった指向性スピーカー。
天井に設置されたプロジェクターやスタンガンと共に、
宣誓できなければ、決闘は始められない。
「とっとと
「────ッ‼︎」
バチィッ‼︎ と電撃が弾ける。
…………しかし。
電気が体表を避けるように流れた。
これこそは魔除けの術式。
虫除けの術式と同じく、意識せずとも常時展開される不随意魔術の一種。
股間丸出し男は魔力の大半を注ぎ込むことで、その無意識の
(
股間丸出し男は右腕に全ての魔力を込め、力一杯振りかぶり──
──パシャッ、と。
股間丸出し男は頭から透明の薬品を被った。
「────ッッッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ⁉︎⁉︎⁉︎」
「うわー、えぐ……」
薬品を投げたのはヴィルゴだった。
股間丸出し男はこの戦いが一対一ではなく、一対二だという事を失念していた。そもそも、〈
「うえッ、視界をズームしたらカビが生えてねぇかコイツ⁉︎」
「虫除けの術式の応用ですわ。腸内細菌や皮膚の常在細菌のような、人間にとって必要な微生物を死滅させる術式ですわよ」
(ソンナモノジャネエ‼︎)
股間丸出し男は心の中でそう叫んだ。
必要な微生物が死滅したとしても、不随意魔術である虫除けの術式がカビを防ぐ。そもそも、こんな一瞬でカビが繁殖するわけがない。
つまり、この薬品は不随意魔術の働きを阻害した上で、人間に利益のある微生物を死滅させ、人間に害を与える微生物を繁殖させる魔術だ。
(コレガ〈
意識を失う最後まで、股間丸出し男はその目でヴィルゴを睨み付けていた。
そして、何処かである男がカビに埋もれゆく視界を盗み見ていた。
「アア、麗しき乙女ヨ。〈
Tシャツにジーパンという魔術師とは思えないラフな格好でビルの屋上に佇む男は、チンポジを微調整しながら呟いた。
「貴様こソ俺様の花嫁に相応しイ」
◇◇◇◇◇◇
〈Tips〉
◆
◆源流は魔女のハーブにあるが、現代の形に整えたのは神働術師である『白の賢者』。材料は希少であり、精製法には手間がかかる。
◆完成の際に使用者の体液を混ぜる為、個々人によって成分が異なる。その為、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます