第2話 魔術師との対面

 もうすぐだろうか…ノア様が迎えに来る時間だ。

何気にワクワクしている自分がいた。気になっているの?そう自分に問いかけながら髪の毛を整える。


 「お嬢様!ノア様が来ましたよ」

扉越しのリサの声に反応し私はノア様の下へと歩いていく。


 私は玄関に着き、顔を上げると暖かいふんわりとした空気に包まれ目の前には穏やかな顔をしている魔術師が居た。

 彼がノア・リザール?そう思わざる負えなかった、何故なら彼は私が今まで舞踏会で会ってきた何百という人の中で一番表裏が無い、優しい顔をしていた。


 「こんにちは、レディ。先程まで仕事をしておりまして遅れてしまいました…申し訳ありません」

「い、いえ!お気になさらず」

彼は深く頭を下げた、あなたの方が立場が上なはずなのにこんなに頭を下げるなんて…彼は本当に冷酷無慈悲なのだろうか


 「それでは、此方にお手を…」

彼が手馴れている様に差し出してきた手のひらに私は手を置き、馬車までエスコートされた。


 馬車に乗ると彼は静かに外を見ていた。私は彼に話しかけたいその気持ちでいっぱいだった。


 「あの…」

「どうかしましたか?もしや、酔いましたか?」

私が声をかけると彼は心配をしてきた…

「いえ、少し話が出来ればと思いまして」

「話、ですか?良いですよ。なんでも聞いてください、貴方になら…」

貴方になら…?ど、どういう事なのかしら?

だめよミア、彼は冷酷無慈悲なのよ?きっと何かを企んでるんだわ、そうよそうだわ………流石に失礼ね


 「ノア様は一体何故、私を婚約者に選んだのですか?」

「……流石に覚えて無いですよね、」

「あの、何か言いました?」

「いいえ。何も言ってませんよ?」

彼は笑って誤魔化した、私の気の所為かしらね

「私は元々、婚約者は貴方にすると決めていたのです」

「は、はい?」

「貴方は次期王妃様であるヨア様に口答えをした記憶はありますか?」

「……はい、あります」

うぅ、凄く気まずいわね。もしかしてその件で私を……!?そうよ、だって彼は王家に使える王宮魔術師よ!?私を陥れるなんてお安い御用だわ!

「…私は貴方のあの姿を見て、一目惚れしたのです」


え、今。彼は何て言ったの?ヒトメボレ?一目惚れってあの一瞬で恋に落ちるとか言うあれよね?

ノア・リザール様が?私に!?


 「すみません、突然こんな事を言われても困るかと思ったのですが…」

「い、いえ…だ、だ、大丈夫です…」

彼の顔が見れないわどうしましょう、私は今どんな顔をしているのかしら。




 「着きましたよ旦那様」

馬車の外から別の人の声が聞こえ、我に返る私は羞恥心でいっぱいだった。

はぁ、結局あの後何も話せなかったわ。


 馬車から降りると豪邸が建っていた。

さすがと言うべきか当然と言うべきか、そこらの辺境伯でもこんな豪邸は無理だろう…


 「旦那様、お待ちしておりました」

「「「「「「お待ちしておりました」」」」」」

ノア様と共に豪邸に入ると、執事長らしき方が一言言いそれに続いて周りのメイドやシェフの方々がお迎えをしてくれた。


 「そちらの方が、旦那様の奥方ですね。わたくし、執事長のフィンと申します。ご質問が御座いましたら何なりとお申し付けくださいませ」

「フィンさんですね、こちらも宜しくお願い致します。そしてメイドの皆さんもこれから宜しくお願い致します」

 恋愛経験の無い私は奥方という言葉にドキドキしながら令嬢として当然の挨拶をする。

私等わたくしらには敬語は必要ありません」

「いえいえ!こちらは良くしてもらう側ですから」

遠慮をしているとフィンさん改め周りのメイドの皆さんはキョトンとしていた。

「くくっ…」

声の方を向くと、そこには静かに笑っているノア様が居た。

私何かおかしいことをしましたでしょうか。


 「旦那様、とても良い方を見つけましたね」

「…そうだろう、私の自慢の婚約者だ」

私はノア様のその言葉に胸がドキドキして、今すぐ穴に入りたいほど羞恥心が限界まで来ていた。

その言葉を発している当の本人は誇らしげに話していた。



 あの後一通り部屋を紹介され、私はノア様の自室の隣の部屋に住むことになった。

私の荷物が少なかったせいで広い部屋に必要最低限の物しか置けていない、質素な部屋になってしまった。

せっかく広いし豪華なんだからもう少し飾れれば良いのだけど……




 「旦那様、あの御方が初恋のミア様ですか?」

「あぁ、そうだ。どうだ?会ってみた感想は」

「旦那様から聞いた通りとても心が透き通った方だと思いました、それと…旦那様が溺愛している事も」

執事長、フィンの言葉を聞いたノアは少し頬を赤らめ惚気ていた。


 「ミアはあの約束を覚えていなかった」

「何と!それは残念ですね。だからあのような反応を」

「反応?」

「はい、自室に案内した時ミア様はわたくしに「旦那様は何故私を選んだのかしら」と聞いてきました。勿論、わたくしは旦那様はミア様の事が大好きだからと答えておきましたよ」

「…おい!なんてことを…」

フィンは悪そうな笑顔をノアに返しノアは大きなため息を付いた。

「ミアは馬車でも同じような事を私に聞いてきた、あの時は別の事で誤魔化したが、やはり今になると少し悲しいな」

「旦那様がミア様を早く迎えなかったからですよ、これはあるべき罰です」

「よく言うな」

フィンは面白そうに笑った








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復元の魔女の愛し子は氷の魔術師の心を復元する 柏陽シャル @black_person

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