復元の魔女の愛し子は氷の魔術師の心を復元する
柏陽シャル
氷の魔術師との新生活
第1話 婚約
「お嬢様!お嬢様に婚約の申込みが!」
「……はい?」
扉を勢い良く開けたメイド長のリサは刺繍をしている私にとんでもない話を持ってきた。
婚約?私が?確かにもう婚約をしなければならない年齢だ、二十代の令嬢なら普通はもう政略結婚をしているはず…だが私は違う、伯爵という高い地位にいながら未だに恋愛結婚というものに夢を見ている。
「お嬢様刺繍をしている中、申し訳ありませんが今すぐに伯爵様が話をしたいとの事で…」
「分かったわ、リサは先に行っといて頂戴、刺繍の片付けをしてから行くわ」
「分かりました。伯爵様にはお伝えしときますね」
リサはそう言い、下がっていった。
にしても、婚約かぁ結局、政略結婚かな。
まあお父様に無理強いはしないつもりだから良いのだけど。
「お父様、ミアです」
「入ってこい」
私はお父様の声に合わせてゆっくりと扉を開ける、そうするとお父様とリサは勿論、お母様まで居た。
私は椅子に腰掛け机にある紅茶を飲んだ。
「それで、婚約の件だが…お相手はノア・リザール殿だ」
「っ!ノア様ですか…」
ノア・リザール、目にしたことはないが冷酷無慈悲と噂で聞いたことがある…そんな彼の所に私は行かなければならないのだろうか。まるで自ら炎の中に入り込んでいるようなものだ…
「婚約は…破棄する事もできる、ノア殿が自らミアの意見を尊重し決めて欲しいと仰った」
「私の…意見、ですか」
「あぁ、ノア殿はミアが破棄を希望した場合は清く受けると申した」
冷酷無慈悲と噂されている彼がそんな事を言うのだろうか、私は少し彼に興味が湧いた。
「ミアちゃん、あなたはどうしたい?」
お母様が私の様子を伺うように顔を見る。
「私は…その婚約、承ります」
「…家の事は気にしなくていいんだ、お前の意見が聞きたい」
「いいえ、これは私の意見です、彼は冷酷無慈悲と噂されておりますがもし本当に冷酷無慈悲なら彼は私の意見を聞かずに婚約をしたはずです…ですが、彼は私の意見を聞いて婚約を決めると仰っいました、私は本当に彼が冷酷無慈悲なのか確かめたくなったのです」
これは本心だ、お父様は私が恋愛結婚をしたいという事を知っている…だからこそ家という言葉を出したのだろう。だけど大丈夫ですよ、私はただ彼に興味が湧いただけですから。
「そうか、ならば今すぐにノア殿に返信をしてくる、すまないな刺繍をしていた最中に」
「いえお父様は悪くありませんから」
私は自室に戻りベッドに横たわる、何故か疲れていた…ノア様の事は噂では聞いたことがあるが見たことはない、伯爵令嬢という事もあり舞踏会には良く出るがノア様だけではなくリザール家の者を一度も見たことがない。
もちろん辺境伯という地位にいるため事情があるとは思うのだが…それだとしても一回も見たことがないのは不思議だ。
それに何故彼は私を選んだのだろうか、もしや私の力を何処かで聞いたのだろうか。
私には昔から力があった、魔法や魔術とは違い言わば超能力と呼ばれるものだ。
5歳の頃に教会に行き自分が何の魔法、魔術が使えるのかを調べる行事があった、その行事では主な魔法である地・水・風・火この四つが水晶に色が付き使える魔法が発覚する。
私以外にも教会には子供がおり、次々と子供達が水晶に手をかざす。
水晶には地なら茶色、水なら青、風なら緑色、火なら赤と色が付く他の子に続き私も水晶に手をかざすと水晶には赤でもなく青でもない融合した紫色に水晶が変わった。
それを見た司祭は唖然としておりお父様とお母様が呼ばれ、話をすることになったのだ。
話をすると私には『復元』という力があるらしく、古代に存在した復元の魔女と呼ばれる女性が残した力と司祭は言った。
子供だった私にはその重大さが分からず、ただ凄い力なんだという認識しか無かった。
当時はそれで良かったのだろう、今思えばこの力は戦争で優位に立つ怪我をした人間を治すことも可能なのだから…でも私がこの力を使うのは物を直すことだけ、そしてこの力の事は他言をしてはならないという風になっている。
学生のころ自分の力のことがどんなものなのか気になり調べた事があった。
調べると復元の魔女が当時、書き下ろした特徴に当てはまる子を復元の魔女の愛し子として『復元』という力を与え後世に残していくそうだ…呪いのようなものだと私は思った。
もしこの力の事をノア様が知っているのであれば私は良いように使われるのだろうか、でもこの力を知っているのなら何故私に選択をする権利を与えたのだろうそれだけが引っかかったのだ。
翌日、私はお父様から一週間後にノア様から迎えに来て婚約を正式に行う事となった事を伝えられた。
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