第7話 「理解者」お題・握手

 僕は事故に遭い、右手が義手になった。

 仕方がない。命があっただけでも、物種ものだねだ。

 だがリハビリを始め、今の姿を人の目にさらすことが多くなると、周りの視線に気づいた。

 それはまるで、あわれむような、怖れるような視線だということに。


 人間は、自分と違う者を恐れ、遠ざけようとするのだろう。

 それに気づくと、僕は誰かれ構わず、握手を求めるようになった。

 誰かに、奇異の目で見られるというのは、とても不快で、……悲しいものだ。

 だったら僕も、彼らが怖れるようなことをしたっていいだろう。

 ほんの意趣返いしゅがえしだ。


 ところがある日、僕が差し出した義手を、笑顔で握り返してきた男性がいた。

 彼の目からは、同情も怖れも感じられない。

 本心から、僕を受け入れてくれているようだった。

 例え、世界中の誰が僕を恐れようと、たったひとりだけでも理解してくれる人がいるのなら。

 

 僕は喜び勇んで、彼の手を握り返す。

 彼はにこにこしながら、自己紹介をしてきた。

 僕も同じように、名前、年齢、症状などを話す。

 そして彼は最後に、

「ほら。俺の場合、こっちなんだ」

と、ズボンのすそをめくり上げながら、それを見せてきた。

 銀色に輝く、右の義足を。

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ここで終わり、もしくは始まりの物語・七編(2023年文披31題) 明日月なを @nao-asuzuki

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