第6話 「初恋の味」お題・甘くない

 どきどき、どきどき。

 もうすぐ、彼がここを通る。

 まだかな、と思い、電信柱の陰から顔をのぞかせて辺りを見るが、人っ子ひとり通ってない。

 私は大きくため息をつきながら、今日の出来事を思い返していた。


「あんたの好きな彼さ。付き合ってる子いるらしいよ」

 昼休み、友だちとご飯を食べていたら、突然そんなことを言われた。

 思わず、食べてたパンを落としそうになった私に、友だちが言う。

「ま、初恋は実らないっていうし。そんな、甘くないんだって」

 よしよし、と頭をでてくれるが、それどころじゃない。急いでパンを飲みこみ、彼のクラスへ向かった。


 彼は、と様子をうかがうと、他の女の子と食事中だった。……とても仲良さそうに。それは見て私は、友だちが言ってたことは本当なのだと確信してしまった。

 授業が始まっても、内容が入ってこない。さっき言われた、初恋は実らないとか、甘くないとかいう言葉が頭の中をぐるぐる回る。


 ……そんなのイヤ。どうすればいいんだろう。彼と結ばれるためには。

 一時間考え続け、授業が終わるころ、そうだ! といい考えが浮かんだ。

 これしかない。この手でいこう。

 私は授業が終わると、部活をサボり、その足で買い物に行った。

 そして今、こうして彼を待っている。


 そろそろ彼も部活を終え、ここを通るはず。ここは元々人通りの少ない路地で、日が落ちた今は、近所に住む人間くらいしか通らない。

 彼の家もこの近所だから、毎日通学に使ってるってことは、既に調査済みだ。


 ──来た! 彼だ!!

 辺りを窺って何度目に、やっと彼がやって来た。

 私は電信柱の陰から飛び出すと、彼の前に飛び出し、そして──。

「う、うわああぁっ!!」

 彼は腕を押さえ、逃げて行った。

 ……失敗した。彼を殺せば、私だけのものにできると思ったのに。

 私の手には、さっき買ったナイフ。

 そこからしたたりり落ちる血を指で取り、口に含んでみる。

 それはただ、生臭いだけだった。

 私はナイフを放り投げ、つぶやく。

「あーあ。やっぱり、初恋って甘くないんだなあ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る