第10話-傷付くことを恐れない勇気が、俺には足りない。-
訓練場でミキさんと向き合う。そこには訓練用のかかしがたくさんあり、いつも大勢が汗を流している様子が想像できる。だが今は俺達以外誰もいない。
「準備は大丈夫?」
「バッチリ」
ミキさんは1mくらいの木の棒を下段に構えている。エイコムに師事したらしく槍のように扱っていて、すごい威圧感を感じる。いつもどおり徒手のまま構えると棒の先端が下から鋭く突き出された。
後ろに仰け反りながら下がる。ミキさんは棒をさらに頭の上で棒を1回転させながら踏み込んでくる。右から棒が振るわれ、頭を狙われる。右腕でガードすると、衝撃で体がよろめいてしまう。素早く棒を引き戻したミキさんに、続けて右足を狙われる。
さらに後ろに飛び下がる。空を切った棒は、そのまま上段に構えられる。脳天に思い切り振り下ろされたので、両手をクロスしながら頭上に構え受け切った。
「そこまで」
ミキさんは棒に加えていた力をゆっくりと緩めながら下がっていった。痛む腕、特に右腕を気にしながら戦いを振り返る。以前よりはマシになったような気もするが、防戦一方となってしまったと思う。終わったのを見計らって近付いてくるエイコムとルーサさんを目の端で確認すると、ミキさんが感心したような声で話しかけてくる。
「なんかすごいじゃん。九十九って、本当に弱くなったの?最後なんて、かなり力込めたんだけどなぁ」
「まぁ、おかげでこの通りだけどね」
腕は赤く腫れ上がっていて、これ以上まともに戦えるかと言われると怪しい。対応自体が出来ているのは確かなのだが、これでいいのかと問われるとあやしい。
「エイコムさんはどう思います?」
「少々、お待ち下さい」
エイコムは腕を組んで考え込んでしまっていた。ここまで回答に困るガーダンを見るのは初めてだ。ルーサさんが腕の治療をしようとするのを断りながら返事を待つ。しばらくすると、おもむろにエイコムが見解を述べ出した。
「確かに、以前と比べると動きは良くないですね。ほとんど精神的なものが原因だと思います。失礼ながら反撃の意思が感じられないといいますか、攻撃を受けることを過剰に嫌っているように感じました」
「エイコムさん、前の九十九ってもっと強かったってこと?」
「はい。攻守一体の洗練された動きでした。先程の動きは、守りに重きを置き過ぎています」
要するにビビっているだけと言われた気がした。アレンの様にはなれないということなのか、単に臆病風に吹かれているだけなのか。
「どうやったら元に戻れるかな?」
「なんとも言えません。戦う上で攻撃に対する恐怖心というものは誰しもが持っているものです。一度克服すれば、そうそう戻らないものですが、一方で乗り越えるのことが難しいことでもあります」
そこまでいうと口ごもってしまっていた。恐怖の克服と言われてもピンと来ない。きっとアレンが修行の成果として魂に刻んでいたもので、この体には継承されていないのだろう。話を聞くに克服することは難しいらしいが、それでもやるしかない。
「克服出来ると思う?」
「尽力いたしますが、こればかりはトキヒサ様しだいとなりますので。ですが運動能力自体は衰えていないようですので、さほど悲観することでもないと思われます」
運動能力は変わっていないのか。右腕を見ると内出血していて、打撲痕となっている。今までの戦いで、こんな状態になることはなかった。そう考えると運動能力自体も衰えてしまっているのではと考えてしまう。
「これを見てもそう思う?」
打撲痕を見せながら尋ねると、エイコムは首をかしげる。見た目は痛々しいのでルーサさんは心配そうに見ていたが、気にしないようにした。
「失礼ながら、正面から受ければそうなるかと。受けきること自体は出来ていましたので、能力としては衰えていないと判断しました。鍛錬も続けておられるのではないですか?」
そう言われると耳が痛い。正直に言うと鍛錬を怠っていた。昔から戦闘をした日はやっていなかったが、最近は毎日やっていない。とはいえ長老の村に初めて来た時くらいだからなので、本当につい最近ではある。
「エイコムと初めてあった時から鍛錬はサボり気味なんだよね」
「左様ですか?そのような印象はありませんでしたが。であれば、早めに鍛錬は再開したほうがよろしいかと」
それはそうだと思いながら、いつもやっていた鍛錬方法を思い浮かべる。それと同時に、真っ先に再開すべきだったと後悔もする。
テルペリオンの腕輪を眺めながら、教えてもらったことを思い出していた。
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