第7話-先が見通せなくても進み続ける勇気を振り絞りたい。-

 「帰ったわね」

 「ああ」

 急ぎ長老の村へ戻り、ルーサさんと共に魔王と戦うための準備を進める。アリシアの所へ戻ったことは、決して無駄とは思わないし実際は3日程のロスでしかない。それでもテルペリオンにもらった貴重な時間を使ってしまったことに変わりはないので、内心焦りは感じていた。

 なので時間を惜しむように行動を開始する。乗り越えるべきことは、もうわかっている。それを整理するために、ルーアさんと話しているところだ。

 1つ目は、テルペリオンの力をもう借りることができないということ。ルーサさんの力を借りることで代用はできるかもしれないが、それではダメな気がする。そんなんでいいのならルーサさんが対処すればいいだけだし、俺だけが手に入れることのできる何かを探さなければならないと思っている。

 2つ目は、アレンの体を再び使いこなせるようになること。今までトキヒサの体だと思っていたものが、アレンの体だと知ってから上手く動かせなくなってしまった。正確には格闘をしようとすると以前のように戦えない。

 3つ目は、同級生たちにも協力してもらえるようにすること。直接的に言われたわけではないのだが、俺だけで解決しようとするなというのはそういう意味だろう。そもそも、テルペリオンがいない状態で俺だけでどうにかできるとは思えないので、そうするしかないという面もある。

 「私の力は借りられないのに、みんなの協力は求めるのね」

 「いや、あっと、それは。でもルーサさんにも協力して欲しいです。直接、力をもらって戦うのは違うってだけで」

 「ふ〜ん」

 やや非難するような目で見られ、内心焦っていた。俺の都合だけで話してしまっているのは確かであるが、ここで協力を得られなくなってしまうと色々と困ってしまう。

 「えーっと。そんなこと言っても、みんなから力をもらうわけでもないじゃないですか。あくまで協力してもらうだけで」

 「まっ、そういうことにしておいてあげましょ。心配しなくても、ここまで来たんだから最後までやるんだけどね」

 「あ、ありがとうございます」

 そんな話をしていると、ノックが聞こえてきた。誰だろうかと不思議に思う。ガーダンは呼ばれないと部屋に入ろうともしない種族であるし、かといって来客も思い浮かばない。

 「どうぞ」

 「突然失礼します、ルーサ様。パトリックです」

 「あら、いらっしゃい」

 数少ない、というより唯一と言っていい友人だった。妖精であるルーサさんに勧められるがままに、そそくさと部屋に入り近くの椅子に座る。

 「全員に事情は伝え終わりました。トキヒサも、大変だったな」

 「ああ」

 わざわざ説明するまでもなく事情は全て知っているようだった。長老の村のガーダン達があれだけ騒いでいるのだから当たり前と言われれば当たり前だ。何があったのか聞かれたら全て答える。それがガーダンという種族なのだから。

 「そう、わかったわ。それとちょうど良かった。これからどうすべきか、意見を聞かせてちょうだい」

 「意見、ですか?」

 そして俺から正確には何があって、これからどうするつもりなのか説明した。賢者が魔王を名乗ったことを訝しがり、テルペリオンのお陰で3ヶ月ほどの猶予が出来た話に驚愕し、その魔王に俺が挑むつもりと聞いて唖然としていた。

 「おいおい、本気か?」

 「本気」

 簡潔に伝えるとついさっきルーサさんと話していた3つの課題についても伝える。戸惑いはあるようだが、それでも真剣に考えてくれていた。

 「まぁ、話はわかったけど、2つ目の体の動かし方と3つ目の協力してもらうっていうのは俺にはどうしようも出来ないな。1つ目のテルペリオン様に代わる力は、心当たりはあるけど」

 「え、そうなの?」

 「へ〜。聞かせてちょうだい」

 一番大変なんじゃないかと思っていたものだったので、よく思いつくなという感想だ。ルーサさんも興味津々のようだった。

 「あんまり期待しないで欲しいんですが、要するに俺達アキシギルに生きる人間と同じことをすればいいんじゃないかなと」

 「どういうこと?」

 「魔源樹から魔力をもらって、魔法を使えばいいって話。まぁテルペリオン様の力に匹敵するかと言われると難しいだろうけど、無いよりはマシだろ」

 期待するなというのはそういう意味か。仮にパトリックと同じだけの魔力量を得られたとしても、テルペリオンの力には遠く及ばない。ましてや、俺が王族と同じだけの魔力量をもらえるとは到底思えない。

 ルーサさんも同じことを思っているのか、納得しつつも難しい顔をしていた。加えて言うと、問題はそれだけではない。

 「魔王は、全ての魔源樹の王って言ってたけど、それにアレンは含まれないのか?」

 「そんなの、魔王が勝手に言ってただけだろ?話を聞く限り、アレンって人がテルペリオン様を殺すことを喜んで手伝うとは思えない」

 「それは、そうだな」

 アレンはテルペリオンに強い恩義を感じていたのは間違いない。だからこそ、最期の瞬間にテルペリオンに頼ることを決意していた。そのお陰で今の俺があるといっても過言ではない。

 「いいんじゃない?やってみる価値はあると思うわよ」

 「でもな、俺の体が元々アレンの魔源樹だったんだけど。どうなんだ?」

 「おいおい。肝心なことを忘れてないか?アレンの魂は杖の形になっているはずだ。心当たりがある。探してやるよ」

 「お、おう」

 かなり説明を端折られてしまったが、要するに魔源樹はアレンの魂を目印に魔力を供給してくれるはずなので、アレンに中継役になってもらえれば魔法を使えるのではないかということだった。

 果たして上手くいくのかと疑問は残る。理屈としてはできないとも言い切れないだろうが、もしアレンが協力的であったとしても、アレンの父親を含む先祖達がどうなのかは全くわからない。

 加えて言うと、これは俺の感覚的なものなのだが、もう杖にアレンの魂は無いのではと感じている。何故なら、アレンの最期の記憶は今使わせてもらっている体を操作していたものなのだから。

 そこまで伝えたのだが、だとしてもアレンの杖を探した方が良いだろうという結論になった。ルーサさん曰く、仮に魂がそこになかったとしても、逆にこちらから根の国のアレンの魂を探し出せるかもしれないらしい。

 普通ならそんなことできない。根の国の魂は全て溶け合い混ざりあっているから。だが魔源樹となった人間の魂はその限りではない。アキシギルにその形を残している魂は、根の国でもある程度の独立を保てているはずだ。そのせいで俺たちは殺されアキシギルに連れてこられたわけでもある。

 「よし、決まりだな。じゃぁ、王城に忍び込んできたメンバーにも手伝ってもらうけど、問題ないよな?」

 「ん?まぁ良いと思うけど」

 あの時にいたのは、ヨシエさんにマコトに、カノンさんとダイスケだった。言い方からしてどこかに忍び込むつもりなのかと思うが、そんなに無茶をするとも思えないし問題ないだろう。

 任せろといった雰囲気でパトリックは出発した。俺は俺でやらなければならないことがあるので、果たしてどうなるのか気になりながらも自分のことに集中することにした。


 テルペリオンの腕輪を触りながら、いよいよ父さん抜きで戦うことになるのかと不安を感じていた。

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