第4話-勇気と無謀の境目はどこにあるのだろうか。-
「そうか、テルペリオンがそう言ったのか。至れたのだな。そうかそうか」
ハルファウンは1人で盛り上がっている。どうしたものかとルーサさんを見るが、こちらは対照的に険しい表情だった。
「えっと」
「あぁ、トキヒサ君にはわからないだろうな。事が済んだら説明しよう。私が、適任であろうからな」
「はい。それで同じ質問になるのですが、エルフはどうするのでしょうか?」
「我々か?」
俺が知りたいのはそれだ。任せてもらえないのであれば、やり方を考えなければならないかもしれない。3ヶ月の過ごし方が、大きく変わってしまう。
「もちろんトキヒサ君に協力するとも。魔王だったか?戦えるよう手配しよう」
「ちょっと待って」
ルーサさんはハルファウンの回答を予期していたのかもしれない。それほど早い反応速度で異を唱えてきた。
「あのね、トキヒサ。敵討ちしたい気持ちはわかるけど。今のあなたには無理よ」
「敵討ちじゃない。テルペリオンに頼まれたんだ」
恨みで魔王を倒したいんじゃない。恨みが無いわけではないけれど、理由ではない。テルペリオンに後を頼むと言われた。それに、応えたいと俺が決めただけだ。
「それはわかったけど、無理よ。だって、トキヒサにはもう。そんなの、ただ無謀なだけよ」
そこまで言ってルーサさんは口ごもってしまう。言いたいことは理解できた。俺は力を借りて戦ってきたのだから、テルペリオンがいない今、出来ることなどない。加えて言うと、アレンの体とわかってから格闘も満足に出来なくなっている。
「いや、俺は戦う」
「ダメよ、敵うわけないわ。死にに行くだけよ。ハルファウン、あなたも何を考えているのよ。他の子を戦わせようってのもそうだけど、勝手に決めないでちょうだい」
ルーサさんから絶対に行かせないという意志を感じる。だが、悪いとは思うのだが俺も譲る気はない。
行かせたら死んでしまうと、確信しているのだろう。ルーサさんも必死の形相だ。でも引き下がらない。短い付き合いだというのに、こんなにも心配してくれるのはありがたい。でも俺は本気で、魔王を倒すつもりでいる。やれることを全てやって、諦めるとしてもその後だ。
「どうにもエルフのことを誤解しているようだな。我々とて無駄死にさせたいわけではない」
「だって」
「今のままでは勝てない。相手は白の賢者であり、ドラゴンをも打ち倒した魔王なのだから。それは当然のことだ。であれば、あと3ヶ月で戦えるようになればいい」
「そりゃ、そうかもしれないけど」
理屈ではそうなるし、俺もそのつもりだった。それでも、可能なのかと言われると別問題なのも間違いない。
「じゃぁ、テルペリオンの代わりに私が力を貸してあげるわよ。ドラゴン程じゃないけど、それなら戦えるでしょ?」
ルーサさんの提案は、とてもありがたいし合理的に思えた。でも違う。
「ありがとう。でもそれじゃダメなんだ」
「な、なんでよ」
「俺はさ、今まで借り物の力で戦ってきたんだ。アレンの格闘とテルペリオンの力。だから肝心な時に何もできなかった。今度は、自分で手に入れた力で戦いたいんだ」
「そんなの、しょうがないことじゃない」
しょうがない。俺が悩むたびにいろんな表現で励まされてきた。このままでいいのかと考えるたびに、テルペリオンを含めて全員からそう言われてきた。
実際、それは正しいんだと思う。人は完璧になれない。俺も完璧ではないし、全て自分で出来るという傲慢な考えは捨てるべきだ。それでも、ここでまた借り物の力で戦うのはどうなのだろうか。
最初は仕方がなかったのかもしれない。テルペリオンと出会うまで、アレンに助けられなければ生き延びられなかった。でもその後はどうだろうか。自惚れていただけではないだろうか。
「ルーサさん。俺は、ただテルペリオンの頼みに応えたいだけじゃない。ちゃんと自分と向き合いたいんだ」
「向き合うって何によ。それに今じゃなくてもいいじゃない」
「いや、今じゃないと意味がないんだ。第一、他人の力でどうにかなるなら、テルペリオンは俺に頼んだりしないだろ?」
それが一番しっくりくる理由だ。テルペリオンがハルファウンやルーサさんの名を出さずに俺に頼んだのにはきっと意味があるはずだ。
ルーサさんはしばらく黙ってしまう。なんか言おうとするが、結局は何も言い出せないようだった。そんな時間が続き、やがてルーサさんは俺の意思が固いと諦めてくれたようだ。
「まったく。その様子だと、私がいなくても勝手にやっちゃうんでしょうね。いいわ。ただし、無謀なことは許さないんだからね」
「わかってます。よろしくお願いします」
最後の忠告は、俺だけに向けたものなのか、それともハルファウンにも向けたものなのか。一応は納得してくれたようで一安心ではあった。
「さて、では方針を決めておこうか」
「ちょっと待って」
「まだ何か?」
「その前にトキヒサはやらないといけないことがあるわ」
そして教えられたことは、俺にとって衝撃的なことで、今までのことが根底から覆るほどのことだった。
これで本当にいいのかと、テルペリオンの腕輪に問いかけている自分がいた。
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