第3話-反対されることに、意を唱えるのは勇気といえるだろうか。-

 長老の村に到着しテルペリオンの最期を伝えると、落ち着きかけていた様子だった長老の村は再び騒然となる。いつもなら手厚く歓迎してくれるガーダン達も、もはやそれどころではない様子だ。

 「行きましょ」

 ルーサさんに先導されて、村の中を進んでいく。どこに向かっているのかはすぐにわかった。その先にあるのは、ハルファウンが滞在している家。魔王のことを伝えるのであれば、確かに同席してもらったほうがいい。

 「帰ったか」

 ハルファウンは家の前に立っていた。どうやってかはわからないが、もしかしたら俺が来ることを予期していたのかもしれない。そのまま家の中に案内され、客間に通される。以前にも座ったことのある場所のはずなのに、テルペリオンがいないとなんとなくソワソワしてしまった。

 「では、詳しく教えてもらおうか」

 全員が座ったところで、魔王城の顛末を語る。魔源樹でできた城があり、そこに白の賢者と4人の人間が待っていたこと。白の賢者の目的が栄光がどうとかいう俺にはよくわからないものであったということ。白の賢者が魔源樹の王、つまり魔王を名乗ったということ。テルペリオンが逝ってしまったこと。その時にハルファウンなら俺の知らないことを教えてくれると言われたこと。 

 「王?ずいぶんと思い上がった言いようだな。実際テルペリオンまで倒してしまっていることを考えれば、おざなりに出来んのも悩ましいところだ」

 そう言いながらも、ハルファウンはとても落ち着いているように見えた。エルフだからというのは知っているが、それでも危機感を全く感じない姿が気になってしまう。

 「あの」

 「ああ、心配することはない。人間の感情で表現するのであれば、私は焦っているよ」

 「ならいいのですが、それでエルフはこれからどうするのでしょうか?」

 「私達か?」

 魔王、つまり白の賢者は人間である俺が代表して対応するという話になっていた。でもそれは、テルペリオンがいるという前提があったからこそだ。逝ってしまった今となっては、話は白紙に戻ってしまったと考えたほうがいい。

 テルペリオンがいない状態で、テルペリオンにも倒せなかった魔王に立ち向かう。もちろん俺はそのつもりだが、他の種族からするとどう見えるのだろうか。妖精もエルフも巨人も、それにドラゴンも長老を殺されているのだから、犯人が人間だとして人間に全て任せられるのだろうか。全ての力を失ってしまった俺に任せてくれるのだろうか。テルペリオン程の信頼を得ているわけもない俺に。

 「トキヒサ君はどうしたいのだ?」

 「俺は、戦うつもりです」

 「えっ?ちょっ」

 俺の意思を聞き、黙って話を聞いていたルーサさんが一番驚いていた。口をはさむつもりもなかったのかもしれないが、どうにも我慢できなかったらしい。

 「トキヒサ?それはちょっと」

 「待て。先に話を聞いてからにしようではないか」

 「だって」

 話をやめようとしないルーサさんを、ハルファウンは目で制してくれた。反対されるであろうことは薄々わかっていたので、ハルファウンの姿勢はとてもありがたかった。

 「続けてくれたまえ」

 「えっと、テルペリオンに最期に頼まれたんです。魔王をどうにかしてほしいと。俺は、それに応えたい」

 「ほう」

 ハルファウンの表情が明るくなったのは気のせいだろうか。ルーサさんの驚愕している顔も気になるのだが、それ以上にハルファウンの目がすごく輝いているようで、ほとんど無表情のままのはずなのに目が釘付けになってしまう。

 「詳しく聞かせてくれ。テルペリオンはなんと言っていたんだ?」

 「えっと」

 予想以上の食いつきではあった。もっと詳しく聞きたいらしいのだが、あの時の会話を誰かに話すのはどうにも照れくさい。これで最期という時だったので、お互いに普段は絶対に言わないようなことを話していた気がする。

 どこまで話すのか迷ってしまったが、目をそらそうとしないハルファウンを見ているとなるべく詳しく全て伝えたほうがいいのではと直感した。

 「俺は、最期にテルペリオンのことを父さんと呼んで、それが願いだと言われたんです。父と呼ばれるのが願いだったと。そんなんでいいのかと思ったんですけど、だって俺は何も返せていないから。でもテルペリオンは満足したみたいで、魔王のことを頼むと言って、銀色のドームになって、時間を稼いでくれているんです」

 「なるほど。他には何か言っていなかったか?」

 「他は、ドラゴンらしくないとは言っていました。ドラゴンなら時間稼ぎなんてしないで、無理してでも自分の力で倒そうとするところだって。あとは、勇気を出したほうがいいとか」

 これでほぼ全てのはずだ。その前にアキシギルの歴史のことを言っていたが、それは流石に関係ないように思えた。

 そして話を聞き終えたハルファウンが、喜んでいるように見えるのは決して気のせいではないはずだ。目の輝きはさらに増していて、無表情の顔しか見たことがなかったので印象がより強くなる。


 そんなエルフを見ながら、テルペリオンの腕輪も照れているような気がした。

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