最終章 勇気を出して立ち上がり、俺は
前編
真・プロローグ
大切なものを手に入れて大切なものを失う物語が終わってしまった。
異世界アキシギル。
異世界に来たということ。それは異世界で生きるということ。
異世界に来たからといって全てをやり直せるわけではない。
異世界で生きているのだから。失敗することだってある。
俺は何もわかっていなかった。
ただの異世界転移だと思っていた。
何不自由もなく、満ち足りた幸せな生活。
10年もの歳月を無為に過ごしてしまった。
だから、やっと手に入れた大切な人を亡くしてしまった。
考える時間はいくらでもあったのに。
テルペリオンの目にはどう映っていたのだろうか。父さんからはどう見えていたのだろうか。
特別な力を持っていたり、血統に何かがあったり、自分の力で困難に立ち向かったりする。俺はそんな、主人公のような人間ではなかった。
たまたま巻き込まれただけの凡人だ。
アキシギルで出会った様々な人たちのおかげで幸せに生きられただけ。
テルペリオンが逝ってしまった今となっては、父さんを亡くした今となっては、非力で平凡なただの人間に過ぎない。
残っているのは後悔だけ。
こんな物語のどこが面白いのか。
みんなが読みたがる物語はこんなんじゃない。俺が紡ぎたかった物語はこんなんじゃない。
もっと前向きで、自信に満ちていて、行動力がある。そんな主人公の物語のはずだ。
俺には無理だということはわかっている。理想的な主人公になれるはずもない。
だとしても。
一つだけ許されるのならば。許してくれるのならば。最後に一つだけ。
テルペリオンが最期に任せてくれたことだけでも。父さんが最期に託してくれたことだけでも。魔王を倒すということだけも。
成し遂げる決意をさせてくれないだろうか。
そして立ち上がる勇気の物語を始めさせてくれないだろうか。
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