第50話-思い出:世間知らず-
「まぁでも、テルペリオンにはアキシギルのこと、少しは教えてもらっているんだけどね」
「ん?」
「だって、魔源樹を傷つけちゃいけないとか、教えてもらえなかったらわからなかったよ」
「ふむ」
アキシギルを知るための旅というが、最低限のことは教えてもらっている。魔源樹というか、木を切ってはいけないというのはピンとこなかった。地球でも勝手に切ったりはしないが、それほど大事なものとも思えない。
「まぁ、パトリックには世間知らずって思われてたみたいだけどさ」
「彼のことか」
異世界から来て、しかもドラゴンに育てられた俺は、誰からも距離を置かれていた。アリシアと結婚してからもそれは変わらず、若干孤立気味ではあった。
まぁアリシアとの生活が楽しかったので、あまり気にしなかったというのが本当のところだ。そのせいか浮世離れした存在だったんだと思う。自分から知ろうとしなかったのが悪いのだが、婚姻制度すら知らなかったほどだ。
「最低限のことだけだ」
「ハハハ。まぁある意味そのお陰でパトリックと仲良くなったんだけどね」
「そうなのか?」
キッカケは一つの魔物討伐だった。その魔物はかなりの強敵で、王族の力を持ってしても倒すのは難しいと判断されるほどだった。
多くの貴族が集まる中で、俺だけがパトリックのことを知らなかった。王城ですれ違ったことはあるかもしれないが、皇太子だとは知らなかった。だから、かなり気軽に話しかけてしまったことを覚えている。
流石に王族に軽く話しかけるほど世間知らずではなかったのだが、知らないものはどうしようもない。言ってしまったものは仕方がないと、開き直っている自分もいた。
そしてそれから、パトリックとの不思議な関係が始まった。2人で遊ぶわけでもなく、2人で語らうわけでもなく、互いに相談したりするわけでもなく。ただの仕事仲間のような、主従関係があるような、でも身分差をお互いに意識することもない。
普通だったら、なれるはずもない関係。実現したのは、テルペリオンがいたからに違いない。でなければ単なる無礼者として追いやられたに違いない。ドラゴンと行動を共にし、制限があるとはいえ王族を超える力を扱えるのだから特別扱いされていただけだろう。
パトリックから直接仕事を受けるようになり、生活はかなり安定した。条件の良い仕事を持ってきてくれるし、自分から探す必要もない。パトリックにも感謝しているが、テルペリオンにも感謝しなければならない。
テルペリオンのおかげで、幸せな日々を送ることができた。
それは間違いない。疑いようがない。テルペリオンに助けてもらえなければ俺は、魔法を使うこともできないのだから。いくらアレンの格闘能力を持っていたとしても、パトリックと肩を並べるなど不可能なのだから。
魔法のことを考えると、ふと思うことがあった。この体がアレンのものなのであれば、アレンの祖先の魔力を使えないのは何故だろうか。
「そういえば、俺はどうして魔法が使えないんだ?」
「ん?」
「いや、だって。この体はアレンのものなんでしょ?俺はともかく、アレンの先祖はちゃんといるわけで」
これは今聞くべきことなのだろうか。後でいくらでも聞く時間がある気もするし、今さら過ぎる気もする。でもどうしてだか、今日はもっとテルペリオンと語り合いたい気分だった。
「それは、魂がアレンのものではないからだな」
「魂?」
「根の国は魂のみの世界。魂を介して子孫かどうか判別は可能だろうが、トキヒサの魂ではそれはできん。アレンの体が見えていたとしても、アレンの体だとわからないということだ」
「そういうことか」
とても長い時間のはずなのに、一瞬で過ぎ去ってしまった時間。明日に備えて寝ないといけないのが、とても残念でならない。また、何度でも、これからずっと、テルペリオンと生きていけたらと、そう願いながら、そう期待しながら、そう信じながら、俺は眠りについた。
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