第49話-思い出:結婚式-

 「そういえば、初めて戦闘以外で協力してくれたのって、アリシアとの結婚式だったね」

 「協力?私はそこにいただけだ」

 「いや、まぁそうなんだけど」

 アキシギルでは天涯孤独の俺にとって、アリシアとの結婚式をどうするのかは悩みの種だった。両親のいない貴族という、アキシギルの人間社会では貴族としても一般人としても扱われないという不安定な立場だったアリシア。

 テルペリオンの後ろ盾もあり、結婚自体は特に反対されなかった。生きていたら反対したであろう両親が他界していて、貴族の親戚達はドラゴンとの縁が出来るとむしろ喜んでいた。

 「ダメ元で出席してくれないか頼んだんだよね。まさか出てくれるとは思わなかったけど」

 「気まぐれだ」

 あの時はまだ、心の何処かでテルペリオンを恐れていた。でも結婚式に誰も来てくれないというのは、どこか寂しいというか、アリシアがみすぼらしく見えてしまうのではと思った。

 俺がどう思われてもいいのだが、アリシアがかわいそうな人だと思われてしまうのはどうしても嫌で、もしテルペリオンに参加してもらえればそんなこともなくなると思って、まさか承諾してくれるとは思わなかったが頼むだけ頼んでいた。

 「そういえば、あれから仲良くなったよね」

 「仲良く?」

 「いやまぁ、結婚前ってあんまり喋っていなかったなって」

 「そうだったか」

 テルペリオンとは必要最低限のことしか喋らない関係が続いていた。依頼を受けて、その内容を説明し、力を貸してもらいながら仕事をこなす日々。結婚式に参加してくれたからこそ、気軽に話せるようになったんだと今では思う。

 「役に立ったのなら良い」

 「すごく助かったよ」

 アリシアも貴族出身ではあるので、結婚式の出席者は多かった。ほとんどがアリシアの親戚筋だったが、物珍しさからかほとんど話したことのない貴族も出席していたらしい。

 そんなところに突然ドラゴンが現れたので、式場が騒然となったことをよく覚えている。それまで憐れむような目でアリシアを見ていた貴族たちの目が、それ以降羨望の目になったこともよく覚えている。

 当時は、俺の体がアレンのものだとは誰も知らず、ましてや死んで魔源樹になれる保証もない。魔源樹となることがわかっている今となっては、ある程度問題は解決しているし、ドラゴンとの縁が深いという意味もあってかアリシア達は普通の貴族として一夫多妻状態にできると思っているようだ。

 でもそんなことを知らない人達から見れば、両親がおらず、なんだかよくわからない男と結婚することになったアリシアを憐れむのは無理もない。それもこれもテルペリオンの登場で吹き飛んだわけだ。


 いつしか、テルペリオンが一緒にいるのが当たり前になっていった。


 当たり前のように力を借りて、魔法を発動し、仕事をこなしていく毎日。いつしか手伝ってくれと頼むこともなくなり、ただ単に仕事の内容を報告する毎日。アリシアとの楽しい日常を話す毎日。

 頼りすぎていたのかもしれない。そんなものだろうと、軽く見すぎていたのかもしれない。もっとテルペリオンのことを知ろうとすべきだったのかもしれない。いや、すべきだったんだ。

 「そういえばさ、テルペリオンにも家族とかいるのか?」

 「家族?ドラゴンにそんなものはいない。我らは常に孤高なのだからな。だからこそ」

 「どうした?」

 途中で言葉が途切れてしまった。続きを話そうとしないテルペリオンを見ながら、突然どうしたのかと思う。その言葉の先に、テルペリオンの願いが隠されているような気がしたが、気がしてしまったからこそ聞き出そうとはしなかった。

 「まぁ、良いんだけどさ。じゃぁアリシアとの話とかはツマらなかったかな?」

 「何故だ?」

 「えっと、家族の話とかわからないかなって。黙って聞いてくれていたけどさ」

 「そんなわけがない。退屈なはずがない」

 何気なく言っただけなのだが、思いのほか反発が大きかった。よくよく考えれば、聞きたくないのならそう出来たはずだ。ずっと一緒にいなければならないわけでもなく、一緒にいなくても何も問題がないのだから。

 「じゃ、じゃぁまた聞いてもらっちゃおうか」

 「そうだな。妻も増えたのだろ?」

 「あはは」

 正直に言うとそこには触れないでほしかった。目を逸らしたいわけではないのだが、いや逸らしているのかもしれない。あれから会えていないのはその通りで、ほったらかしにしていると言われても仕方がない。

 「私との旅の前に、やるべきことだな」

 「まぁ、その通りだよ」

 その指摘をしっかりと胸に刻みながら、旅の前にやるべきことを考えていた。覚悟を決めて話さなければいけないことがたくさんありすぎると思いながら。

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