異世界転移してから10年経った～いまさら当時のクラスメートも転移してきたんだが？～

第48話-思い出：出会い-

　「今さらだけどさ、最初に合った時、どう思ってたの？」

　「どうと言われてもな」

　出会ったばかりの頃の話で盛り上がる。

　俺はあの時、逃げ出した先にいたドラゴンを見て絶望していた。もう完全に自棄になっていた。勝てるわけがないということは目に見えていたというのに、石なんて投げつけたところでどうにもならないことなんてわかりきっていたのに、それでも抗うことを止められなかった。

　今思えば、テルペリオンから見れば突然現れた人間に、突然石を投げつけられたことになる。俺はあの時、殺されても文句は言えなかったはずだ。羽虫のように叩き潰されてもおかしくなかったはずだ。

　「人間とは昔から縁が深かったからな」

　「へ〜。アレン以外とも仲良かったの？」

　「仲良しどころではない。私は、人間に育ててもらったのだ」

　驚きのあまり言葉を失ってしまった。ドラゴンの話は色んな人からよく聞くが、人間に育てられているなどとは聞いたことがない。ましてや、テルペリオンがそうであれば誰かが教えてくれていたはずだ。

　「このことは、内密にな」

　「えっと、理由は聞いてもいいのか？」

　「聞いたとして、正しく理解できん。そういう意味でも歴史を知ってもらわねばな」

　「そうか、残念だな」

　本当に残念に思う。アキシギルの歴史を知らないせいで、テルペリオンのことも理解できない。無理に聞き出すことはできるだろうが、きっと話そうとはしないだろうし、そんなことをしても意味がないだろう。

　「もっと早くに聞くべきだったな」

　「そんなことはない」

　「でもさ」

　「少なくとも、あの頃の私にそこまで話す気は全くなかった。仮に聞かれたとしても、何も語らなかったろうな」

　出会ったばかりの頃を思い起こした。あの時は、というか出会ってから最近までずっと戦闘以外には非協力的だった。つい忘れそうになってしまうのだが、最近が変なのであってテルペリオンにとってはそれがスタンダードだ。

　「これも今さらだけどさ、戦い以外に手を貸さないっていうのは、どうなったの？」

　「どうと言われてもな」

　困っている様子も珍しい。俺にとっては都合の良いことなので放っておいてしまったが、これからはどうなるのだろうか。元に戻るのか、それともこのままでいてくれるのか。

　「制限を作ったのは、私の都合だ。もう必要ない」

　「ということは、ずっとこのままってこと？」

　「でなければ旅の話を承諾したりせん」

　「それも、そうか」

　旅のことは納得できる。何も考えずにお願いしてしまったが、歴史を教えて欲しいというのは戦闘とはかけ離れている。

　テルペリオンに、どれだけ感謝しても足りない。

　静かな時間が訪れる。こんなに長い時間話をするのは今までなかったことだ。もっと語り合いたいという気持ちとは裏腹に、何を話せばいいのかわからなくなってしまう。困っているとテルペリオンから話しかけてくれた。

　「ふむ。最初に会った時のことを思い出していた。あのときはトキヒサのことを懐かしく感じていたが、今となってはアレンの面影を見たのだろうな」

　「ただ石を投げつけていただけなんだけどな」

　「そうなのだが、どことなくな」

　うまく説明できないようだが、感覚的なことだろうし無理もない。テルペリオンは遠くを見ながら何かを思い出そうとしていた。

　「思えば、出会った直後というより、戦い方を教え始めた頃から感じていたことかもしれん。上達が早いとも感じていた」

　「まぁ、そうかもね」

　俺の戦いは、アレンの体に染みついたものを使っているに過ぎない。だからこそ、自分の元々の体ではないと自覚してから上手く動けなくなってしまっている。そう考えれば、俺の戦い方とアレンの姿が被るのはしっくりくる。

　「上達したっていうより、アレンのおかげでしかないからね」

　「うむ」

　どうして俺は、変だと思わなかったのだろうか。いくら丁寧に教えてもらったとしても、あんなに早く上達するわけがない。異世界だからと、都合よく考えてしまっていたのかもしれない。

　「人間に戦い方を教えることになるとは思わなかったがな。魔法も上手く発動するか疑問ではあった。初めての試みだったのでな」

　「ああ」

　初めて魔法を発動できた時のことを思い出した。どうしても魔法なしで戦うには無理があって、見かねたテルペリオンが試しにやってみようと言ってくれたのが始まりだ。

　「魔法を使えた時の嬉しそうな顔は、今でも目に浮かぶようだ」

　「ははは」

　そんな顔をしていたのだろうか。そんなことを、わざわざ覚えてくれていたのだろうか。なんだか恥ずかしくもあるが、同時に頬が緩んでいる自分がいた。