第46話-妖精の憤慨-
「本当っにもう、あなたたちは何を考えているのよ」
翌日。いよいよ出発しようとしたとろで、朝からルーサさんに怒られてしまっていた。というのも、同級生も連れていくということをすっかり伝え忘れてしまっていて、それに不満があるようだ。
「ごめん。最近、誰に何を話したのかわからなくなっちゃって」
「そこじゃないわよ。ちょっと来なさい」
自分でもヒドイ言い訳だとはわかっていた。でも伝えるべきことと伝えるべきひとが多くて混乱してしまう。それを正直に話したのだが、ルーサさんが怒っている点は違うようだった。半ば強引に引っ張られ、人目につかなさそうな場所に移動する。
「この辺でいいわね。あのね、あの子たちを戦わせるだなんて、なんで勝手に決めちゃったのよ?テルペリオン、聞いてる?」
「さてな。私はハルファウンの意見を聞き入れただけだ」
「あ~もう。どいつもこいつもぉ」
地団駄まで踏み出してしまった。余程気に入らなかったのか、ルーサさんにしては汚い言葉を発してしまっている。
「何をどうしたらそうなるのよ。訳がわからない。だって白の賢者が黒幕かもしれないんでしょ?」
「だから我々だけで調べに行く。問題なかろう?」
「何が?それで賢者が敵だったら、あの子たちを巻き込んだりしないってこと?違うでしょ。そんな危険なことを、私が許すとでも?」
「少し落ち着け」
「黙りなさい。どういうつもりなのか、今すぐ言え。返答次第では」
想像以上に怒っている。髪の毛が逆立ち、光の球をいくつも作り出している。もはや戦闘態勢になっていて、納得できなければどうあっても引き留める意志を感じる。
「困ったものだ。これで納得できるか?」
テルペリオンが何をしたのかわからなかった。だがルーサさんの表情が激変し、怒りから驚きのものへと変わっていく。
「ちょ、いきなりなんてものをよこすのよ」
「こうでもしなければ納得せんだろう。どうだ?」
「どうって、まぁこれなら」
それほどのものだったのだろうか。疑問に思う気持ちを、察してくれたようだった。
「簡単に言うと、4人分の力よ。あの皇太子並みのね」
「パトリックと?」
「そう。つまりトキヒサ以外にも手を貸すって意味なのね」
「ならば問題あるまい?」
「ま、まぁね」
そんな簡単なことでいいのだろうか。それほどにルーサさんの態度が劇的に変わっていた。
「ルーサさん、そんなにすごいことなの?」
「あのねぇ。トキヒサはよくわからないかもしれないけど、ドラゴンが群れて行動するなんてありえないことよ。そこまで言われたら、納得するしかないじゃない」
そう言われるが、これについてはなんとなく察することが出来た。テルペリオンは今まで頑なに俺以外に手を貸すことがなく、何かしらの理由があるのはずっと聞いていた。
納得する一方で、同行する4人のことが気になってしまった。どこまでどう伝えているかにもよるのだが、もしかしたら恐怖しているのではないだろうか。
「あのさ、落ち着いたところで聞きたいんだけど、4人にはなんて伝えてあるの?」
「え、ああ、そうね。心配いらないわ。とりあえず訓練の一環だって言ってあるから。もう魔物には飽きたとかで、むしろ嬉しそうにしていたわよ」
「あ、飽きた?でもそれなら問題なさそうですね」
流石はルーサさんというか、心配するようなことではなかったようだった。だが怒ってはいないとはいえ不満はまだあるようだ。
「あなた達はもっと気を使いなさいよね」
「ごめんって」
「まぁいいわ。よくよく考えれば、トキヒサが一番振り回されてるわけだし」
「あはは」
振り回されている。その言葉が胸に突き刺さる。やろうと決断したことに変わりはないのだが、未だに独り立ちできていない気がしてならない。
「笑っているけど、トキヒサは大丈夫なの?まともに戦えないんでしょ?」
「あ、ああ」
そこを突かれると何も言えなくなってしまう。未だにアレンの体を上手く動かせない。正確には日常動作は特に問題ないのだが、格闘となると何も出来なくなってしまう。今までは自然に動いていたのだが、きっとアレンが習得していた技術で勝手に動いていただけだからだろう。
「まぁ、方法はあるよ。一応ね」
戦う方法もないことはない。テルペリオンの力を借りて魔法を放つことくらいなら出来るし、またドラゴンのオーラを作り出してもいい。
「ならいいけど。本当に、どうしてこうなったのかしら」
それは自分でもそう思う。真相を確かめるのが目的だったはずが、いつの間にか黒幕を倒すことが目的となっている。
何も問題が解決していないというのはわかるし、人間の問題は人間が解決すべきというのも理解できる。解決できるのも適任なのが俺しかいないということもわかるし、そのためにテルペリオンたちが協力してくれるのもありがたい。
でも何か、一番大事なことをしていない気がしてならなかった。
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