第45話-勘づかれていること-

 「いやぁ、大忙しだよ」

 「パトォ?だらしないですよ?」

 「もういいだろ。王族でもなんでもないんだから」

 パトリックは約束通りエルフの里で同級生8人の面倒を見てくれていた。エルフから要請されて、俺の手伝いをしてくれる4人と準備をしてくれていたらしい。

 急いで準備しているらしく、夜になってやっと落ち着いて話せるようになった。 ソファに寝そべりながら話すパトリックを見ながら、クレアさんが注意している姿が仲睦まじい。俺とパトリックとクレアさんの3人しかいないのだから、だらしなくとも問題ないとは思う。

 「そんで、何がわかったんだ?みんな気になって仕方ないみたいでさ」

 「そうだな。会った直後に俺も聞かれたよ」

 来たばかりのことを思い出しながら、あれからのことを話した。ケイ君と出会い、同級生がトレントと化し、アレンの記憶を再び辿り、同級生の体の持ち主を知り、魔源樹の怒りに触れ、白の賢者を見て、ケイ君がサナギとなった。話を聞きながらパトリックはいつの間にかキチンと座りなおしていた。口元に手をやりながら、かなり深刻な顔をしている。

 「なんというか、盛りだくさんだな。とりあえず俺が考えないといけないことは、体のことを知ってしまったら、そのケイって子と同じ選択をしかねないってことか」

 「まぁな。特にヨシエさんについては慎重に考えた方が良いと思う。他の7人は悪魔に乗っ取られたとはいえ貴族の体だけど、なんていうか犯罪者の体っぽいから」

 「みたいだな」

 犯罪者の、しかも夜這いをしようとした人間の体というのは、かなりショッキングな事実なはずだ。他の7人も予断を許さないが、特に心配であることに変わりはない。

 「お二人に言っておきますが、ヨシエさんは勘づいていますよ?」

 「えっ?そうなの?」

 「パトは鈍感すぎるんですよ。聡い人ですから。あとはダイスケ君は元からだとして、マコト君も勘づいてはいますね。こちらは直感的にわかっているんだと思います。あぁ、カオルさんも違和感を感じていますね。必死に目を逸らしているようなので、カオルさんにも慎重になった方が良いと思いますよ」

 「クレアさん、まさか」

 「ご安心ください、トキヒサ様。流石に犯罪者などというのは、気づくわけもありません」

 「そう、ですか」

 クレアさんの方がパトリックより同級生のことをよく見ているらしい。まぁ皇太子として育てられてきたことを考えれば、その辺りの機微に疎いのは仕方がないかもしれない。

 「クレアさん。実は来た時に問い詰められてしまって、ケイ君が地球へ帰ろうとした結果サナギになったと説明したんですよ」

 「サナギ?あぁ、なるほど。嘘ではないですね」

 そう、嘘ではない。だが、一番肝心な所は話しておらず、騙されたと受け取られても仕方がない。

 「良いと思いますよ?実際、話せない理由はいくらでもありますし、ある程度納得はしてくれるはずです」

 「えぇ、それで、あとどれくらい我慢してもらえそうですか?」

 「そうですねぇ」

 クレアさんは考え込んでしまう。当初の予定では、生活の基盤が整って、立場が安定してから地球には帰れないことを伝えようと考えていた。どうやっても地球に帰れないことは変えられないが、アキシギルでの人生が無事に遅れるのがわかっているか否かで話が全く違うのだから。

 とはいえケイ君の一件で、それで大丈夫なのかと不安を覚えてしまう。他人の体を与えられているということに対する嫌悪感は、人によって大きくことなるだろう。いつかは伝えないといけないし、いつまでも誤魔化しきれるとは思えないのも悩みの種ではある。

 「いつまでと言うより、次に戻る時には答えを出さなければならないと思います。落ち着いたら全て話してくれると期待していますし、その時には全員揃うことにもなるので」

 「まぁ、そうなりますよね」

 すごく納得のいく答えではあった。そもそも、無事に帰れたらある程度伝えようとは思っていたわけで、ケイ君のことを持ち出したのも苦し紛れに過ぎない。

 「いや、その辺は俺らで整理しておく。トキヒサは帰ってきてから考えればいい」

 「パトォ?」

 「おいおい、話を聞いていただろ?そもそも1人で抱えすぎだし、なにより白の賢者が一番ヤバい。これから戦いになるかもしれないなら、集中した方がいい」

 割って入ってきたパトリックに対し、初めは文句を言いたげだったクレアさんもすぐに考えを改めたようだった。

 「白の賢者ってそんなになのか?」

 「まぁな。言っておくけど俺とは比較にならないぞ。というかどうにもできないから話さなかっただけだ。テルペリオン様で無理なら、俺らに出来ることはない。悪いこと言わないからトキヒサは集中した方が良い。無事に帰りたかったらな」

 久しぶりに見る真剣な表情だった。

 「まっ、まぁそういう心づもりでいた方が良いってことさ。テルペリオン様のことだし、無謀なことをするはずないしな。だから、あの4人も連れていくことになったんだろうし」

 「あ、ああ」

 誰もがテルペリオンのことを、いやドラゴンのことを信頼している。もはや崇拝にも近いもので、実際にそれだけのことをしてきた実績があると聞く。だから、4人を連れていくことを承諾したことを含めて、そこまで心配がいらないというのもその通りのはずだ。

 でも頭の隅に引っかかるものがある。何故なら俺は、ハルファウンの話すテルペリオンの想いというものを理解できていないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る