第44話-再会と嘘-

 「やっほ~。久しぶりね」

 エルフの里まで一気に移動した。入り口にはヨシエさんやマコトも待っていて、そのまま案内役になってくれた。全員揃っているわけではなく、パトリックもいないのが少し気になったが、大したことではないだろう。もっと監視されているのではと心配していたが、里の中であればある程度自由に過ごせるようにしてくれているらしい。

 事前に、エルフの里の同級生がどこまで知っているのかは確認していた。知っているのは、新しく来た同級生があろうことか長老を惨殺してしまったということだけだ。この体のことや、魔源樹のこと、ケイ君のことなどは全く知らない。

 俺は長旅で疲れてしまっているのに、元気に飛び回っているルーサさんを眺めていると、1人の女性が隣に来た。

 「九十九君、無事で良かった。どうかした?」

 「いや、なんでもない」

 ヨシエさんと会うのは本当に久しぶりだった。以前と全く変わらないはずなのに、まるで別人に見えてしまう。パトリックの祖先であろうパルメリオに、あろうことか夜這いをしようとしていた元貴族。

 今、使っている体がまさにその元貴族の体であるということ、その影響を少なからず受けているということを本人は知らない。

 それを教えてもいいのか、教えるとしてどう伝えればいいのか。そういえば全く考えられていなかった。下手をすると、ケイ君と同じ様にサナギとなってしまうかもしれない。

 「あのさ、色々大変だと思うんだけど、手伝えることがあったら言ってね」

 「ああ、ありがとう」

 ヨシエさんは、どこまで知っているのだろうか。何も出来ていない不甲斐なさを感じる。最後になるかもしれないと考えつつ、終わった後のことを結局テルペリオンに丸投げしようとしてしまっていたということか。

 「なぁ、それよりさ。持ってきたあの大きいものってなんだ?」

 「あのねぇ、それは今聞くことなの?」

 「いいじゃんかよ。というか、気にならないの?」

 「それは」

 いつの間にか近付いてきていたマコトが無邪気に聞いてくる。あれがケイ君という同級生だとは夢にも思わなかったのだろう。もっと言えば、数えきれないほどの同級生がトレントとなり、そのまま俺が消滅させたとは想像しえないはずだ。

 「悪いな、色々ありすぎて、どこから説明すればいいのかわからないんだ」

 「らしいな。まぁ、俺らが余計なことしちゃったみたいだしな」

 「また落ち着いたら説明するよ」

 「りょーかぃ」

 「え~、またそれぇ?」

 マコトが話を続けようとしたところで、カノンさんが割り込んできた。やや頬を膨らませていて、かなり不満が溜まっているようだった。

 「ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃん」

 「おい、やめろって」

 「む~」

 ダイスケが止めようとしてくれているが、止まらない。

 「誰も、何も教えてくれないんだもん。エルフ様達は親切だけどさ、肝心なことを教えてくれないんだよね。テルペリオン様が全部決めることだって、そればっかりなんだよ?」

 「そのエルフ様から聞いてるだろ?今は外が大変だって」

 「やだ」

 引き続き止めようとしてくれているのだが、どうにもならなそうにない。それに、ヨシエさんとマコトの協力するか迷っている様子を見ると、本心は同じなのかもしれない。そんなことを考えていると、ヨシエさんが一歩前に出てくる。

 「ごめんね。九十九君が大変なのはわかっているの。でも、やっぱりみんな地球に帰りたがっていて」

 「ああ、うん。そうだね」

 その言葉で旅の目的をどう説明していたのか思い出した。忘れてはいけないことだったが、転移の真実を突き止めようと考えていた俺やテルペリオンと、地球へ帰る方法を突き止めようと考えていた同級生たちの、元々の認識のズレが露呈したように思える。

 地球に帰る方法は、見つかるどころか最初から存在しないとわかっていたことだ。そんなこと正直に言えるわけがない。少なくとも今は言えない。

 答えを待っているのか、俺のことを見ながらみんな黙ってしまった。ジッと見られて、ついケイ君のサナギを見てしまう。他人の体ということを憂い、最後には地球へ帰ろうとして、その果ての姿。

 「なんだ?あれがどうかしたのか?」

 「まぁ、うん。マコトは海老沢敬子さんって覚えてる?」

 「海老沢さん?そりゃ知ってるけど、あんまり話したことは、って、え?」

 全員立ち止まってサナギを凝視している。いきなり個人名を出されれば、誰でも察してしまうだろう。

 「話すと長くなるんだけど、地球に帰ろうとして、ああなっちゃったんだ」

 「それって」

 「マジか」

 「えぇ?」

 4人とも想像はしていたはずだが、それでも直接言われるとショックを感じたらしい。さっきまでより、さらに空気が重くなる。

 「なぁ、俺らもああなるかもしれないってことか?」

 1人だけ無言だったダイスケから質問される。同級生の中で唯一、この体が本来の自分たちのものではないと知っているダイスケにとって衝撃はさらに大きいものになるだろう。

 「地球に帰ろうとしない限りは問題ない。テルペリオンとルーサさんも同じ見解だから、絶対大丈夫だ」

 ここまで、嘘は言っていない。なのだが、肝心な部分を隠していることに変わりはなく、罪悪感を感じないわけではない。それでも言い出せないのは、ケイ君のことがあるから。全ての真実を知った後に、どうなるか予想は出来たはずなのに杖に導かれてあんなことになってしまったのだから。

 「それでな、説明して欲しいって言うのはわかるんだけど、ごめん。知っていると思うけど、今は余裕がないんだ」

 みんな黙ってしまった。口には出さないが、納得しているわけではないだろうが、それでも時間がないことは理解してくれたようだった。

 「悪いな」

 半ば強引に振り払うように言った後に、歩き始める。みんな言いたいことはいくらでもあるようだったが、それでも道案内の役目は果たしてくれた。

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