第38話-帰還:真相を知り-
「トキヒサ、それはアレンの想いだ。今、口にしている言葉はトキヒサのものではない」
「え?あ、ああ」
いつの間にか、アレンの気持ちを代弁してしまっていた。それだけ見ていた記憶はリアルだったが、自分の記憶と重複しているのだから当たり前ではある。
どうして忘れてしまっていたのか。それとも最初から意識すらしていなかったのか。いずれにしても自分に都合のいい記憶だけ残っていたことに変わりはない。
「俺は、最初から、自分の力で切り開いていたわけじゃなかったんだな」
改めて自分がいかに幸運だったのか実感する。もしアレンの手助けがなかったらと思うとゾッとする。
「見知らぬ土地に突然連れてこられたのだ。独りでどうにもできなくとも恥じることではない。行くぞ」
テルペリオンの励ましの言葉を聞きながら運ばれる。アレンの記憶はもう見終わっているのでこれ以上滞在する理由はない。
何もないはずの根の国を移動しながら、全ての始まりに思いを馳せる。あの時、あの3人が来たときから話が始まった気がしていた。実際は俺がこの世界に来てからなのだが、あまり実感がない。
「そういえば、あの3人は最期に魔源樹になったんだったな。もしかして、その時から気付いていたの?」
「予想の域を出なかったがな。前々から疑問だったというのもある。果たして、体ごと転移するなど出来るものなのかとな。トキヒサの寿命まで待ってもいいかと思っていたが、良い機会だったのは事実だ」
結局、あの3人については名前すら思い出せなかった。俺もその時に気づけたのかもしれない。でもそれも、今となっては意味のないことかもしれない。
「すぐに調べたいとは思わなかったの?」
「ん?思わんな。私は人間ほど短命ではない。たかだか数十年程度、何も問題がない」
「そ、そうか」
テルペリオンは一体何年生きているのだろうか。俺は何も理解していない。なんとなくだが、出口が近づいている気がする。
「やっぱり元の人間の意思で動いていたのかな?」
「最初のことか?そうだろうな。果ての地を目指すなど考えられん。近くに人の街があるのだからな」
「まぁね」
どうして果ての地へ向かったのか、もっと言えば目的地が存在するかのような行動をどうしてしたのか。それが盗賊3人組の意思であれば説明できる。ならば果ての地にはきっと、彼らが盗んだものの隠し場所があるのだろう。
であるならば、ヨシエさんがパトリックと出会ったのも偶然ではないのだろう。マコト達7人が、7体の悪魔をその身に宿すことになったのも偶然ではないはずだ。
テルペリオンが大きく羽ばたいたように感じた。もうすぐ根の国も見納めになるのだろうと、そう思うと寂しくはないが名残惜しいような。もう二度とできない経験だと思っているから、こんな不思議な気持ちになってしまうのだろう。
「それにしても根の国って、何にもないんだね」
「当然だ。私達は人の記憶を読み取っていたに過ぎん。それにしても、何もせずとも生きられる天国ではなく、何もすることがない地獄でしかないか。確かに、根の国で自我を保つというのはそういうことになるやもしれん。短命な人間にとっては、特に耐えがたいものだな」
魔源樹の言葉を思い出す。動機となった感情を想像する。子孫の手助けのために、古代語を唱えて魔法を与えていた魔源樹たち。何も無い根の国で、それだけが生きがいだったはずだ。だが、子孫がいなくなってしまえばそれもできない。
どうして人間として復活させようという結論になったのか。他にも選択肢はたくさんあるように思える。何者かの意思が介在しているのだろうか。
「記憶か。関係ないかもしれないけど、最後に見た白いおじいちゃんって誰だったんだろう?」
大きく揺れたように感じた。何気ない疑問だと思っていたのだが、案外そうでもないのかもしれない。
「少し軽く見てしまっていたのやもしれん。白の賢者が関わっていたとはな」
「白の賢者?」
「あの老人のことだ。話せば長くなる。今は普通の人間ではないと思えばいい。ドラゴンと同程度の魔力量を持つ存在だ」
そんな人間がいたのだろうか。イマイチ実感ができない。だが、そんな白の賢者が黒幕ということは、何を意味するのか。
「出るぞ」
それを話し合う時間はなく、根の国の出口へと差し掛かる。ケイ君はどうなったのだろうか。最後にそんなことを考えながら、根の国から脱出した。
◇
次回更新予定日は4/27(土)となります。
中編はこれにて終了となります。
引き続き後編となるのですが、
申し訳ありません。更新までしばらくお時間をいただければと思います。
物語としては一区切りしているように見えますが、
これからまだまだ展開していきますので、
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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