第37話-死後:異世界転移。その真相は(黒幕)-

 誰かの声が聞こえる。

 失敗。2つの魂。ただの部品にはできない。誤算。元々の体と魂、元々の魂が優先されると思っていた。なのに、優先されたのは奪った魂。元々の魂が、杖になってしまうとは。

 方法は確立した。相性の良さそうな魂も、5つ確保できた。修正が必要だ。復活のための修正の時間が必要だ。同志は誰も理解してくれない。だが私は実行する。

 ただ復活するだけなど生温い。それでは根本的な解決にはならない。これは天命だ。私にしかできない使命だ。

 そのために、人類以外を滅ぼさなければならない。我らにこんな過酷な使命を与えたものどもを、一掃しなければならない。手始めに上位種族の長老でも全滅させてやろうか。あの生き字引どもを殺してやろう。奴らの恐怖する顔が目に浮かぶようだ。

 『全ては、人類の栄光のために』

 「何者だ?トキヒサ、よく見るんだ」

 「あ、ああ。わかった」

 誰の声なのか。テルペリオンに言われるがままに見えるはずのないものを見ようとする。見えたというより感じることができたのは、白く長いヒゲの老人。特徴的な長い杖を持っていて、どことなく風格があるというか威厳を感じる。

 「まさか、その姿は、だが何故」

 驚愕するテルペリオンの声を聞きながら、再びアレンの記憶が始まる。

 目覚めたのは、アレンが最期を迎えた場所、そしてトキヒサとしてこの世界で目覚めた場所。これは人間として復活したアレンの記憶であり、これはトキヒサとしても知っている記憶であり、これはアレンとトキヒサに共通している記憶である。だからこそ、これまで以上に混濁し混乱し混沌とする。

 「テルペリオン、ダメだ、わからなくなる」

 「ふむ。これをすると正確ではなくなるのだが、いたし方あるまい」

 助けを求めた直後から、視界がテルペリオンの手で満たされる。ドラゴンの形を模したオーラは失われ、代わりに丸いオーラで包まれる。

 「ありがとう」

 「構わん。それより、目を逸らさず最後まで見た方が良い」

 「そ、そうだね」

 見えてくる記憶は、トキヒサの記憶であり、アレンの記憶。

 その時のトキヒサは、戸惑っていた。見たこともない景色、未知で溢れた世界、初めて見る世界樹。

 その時のアレンは、戸惑っていた。もう見ることはないと思っていた景色、魔源樹としてずっと過ごしていた世界、また見ることが出来た世界樹。

 それからのトキヒサは、何をしていいのかわからなかった。体に違和感を感じながらも、適当にその辺のものを食べながら、当てもなく彷徨った。

 それからのアレンは、生かすために必死だった。食べてはいけないものを食べないように手引きし、一番近くの村へ向かうように誘導した。

 そしてトキヒサは、辿り着いた。期待に胸を膨らませながら初めて訪れた人の村。どこから来たのかとか一通り聞かれた後に、最後に聞かれた魔法を使えるのかという質問。正直に使えないと答え、まさかあんなことになるとは思わなかった。

 そしてアレンは、辿り着いた。やっと到着したと安堵しながら知っている顔がいないか村の人を見る。誰一人知っている人がおらず時の経過を感じながら、質問に的確に答えられるように導く。最後に聞かれた魔法を使えるのかという質問に、使えないと答えて問題ないと思ってしまった。でもそれは、大きな誤算。時の経過によって、魔法を使えないことの意味が大きく変わってしまっていることに気づけなかった。

 その後トキヒサは、犯罪者扱いされてしまった。ただ魔法を使えないというだけで、どうしてこうなってしまうのかわからず困惑してしまう。これからどうなってしまうのかわからず、不安な夜を過ごす。

 その後アレンは、焦っていた。魔源樹のことを、誰かに伝えなければならない。でもいつまでも意識に干渉するわけにはいかない。何故なら、長く干渉するほど乗っ取ってしまいかねない。これからどうしたらいいかわからず、不安な夜を過ごす。

 そうしているうちにトキヒサは、牢屋の中で絶望していた。頼れる人などいるわけがない。看守に聞いても何も教えてくれない。どんな処罰が待っているのか、全く想像が出来ない。持っていたものを取り上げられた気がしたが、そんなことはどうでもよかった。

 そうしているうちにアレンは、牢屋の中で苦悩していた。頼れる人どころか知っている人が全くいない。王族にも知り合いがいるのでなんとかなればと薄い期待をしていたが、予想通りいない。これからどうすればいいのか、全く想像ができない。なんとか見つからないでいたのに、ついに見つかってしまい取り上げられてしまった。

 それでトキヒサは、無我夢中で逃げ出した。わけのわからない状況から逃げ出すために、当てもなく走り出す。

 それでアレンは、旅立ちを決意するしかなかった。杖として一緒にいられないのなら、引き離されてしまっては、もう長く共にいることは出来ない。微かな望みにすがり、唯一頼れるかもしれないドラゴンがいるかもしれない場所へ出発する。

 そうしてトキヒサは、テルペリオンに遭遇した。自分の不運を呪った。逃げ出した先で鉢合わせてしまったのが、ドラゴンだなんて。

 そうしてアレンは、テルペリオンにまた会えた。自分の幸運を喜んだ。旅立った先に、今も変わらず居てくれただなんて。

 「テルペリオン様。変わらず居てくれたのですね。申し訳ありません。私は限界のようです。何も伝えることが出来ず、その時間も力も残っておらず。ですが、テルペリオン様ならきっと、全てを」

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