第27話-中年期:7体の悪魔-
「ケイさん、大丈夫ですか?」
「ええ、まぁ」
悪魔のいるという場所へ向かう道中で、ケイ君の様子がどんどんおかしくなっていく。本人は否定しているが、なにかに怯えているように見える。悪魔と戦うことを怖がっているのかと初めは思ったが、そういうことでは無いようにも思えた。
「心をしっかりしてくださいね。申し訳ありませんが、無理そうであれば置いていかざるをえないです」
アシュリーさんは厳しいことを言っているようだが、悪魔と戦うのであれば大事なことだ。心が弱っていれば、欲望につけこまれる可能性が高くなってしまう。
「いや、それには及ばない、です」
「左様ですか?」
「アシュリーさん。悪魔がいるのはまだ先ですよね?もっと事情を聞いてもいいですか?」
ケイ君を見て心配になる気持ちはわかるのだが、それで好転するとは思えなかった。目的地までまだ距離があったので、話題を悪魔にすることで場の空気を変えようと思った。
「それもそうですね。まず悪魔を発見した経緯ですが、王族と貴族による魔物討伐が例年実施されております。お2人も参加されていましたよね」
「まぁ、参加というか、護衛というか」
一緒に魔物と戦っているわけではないので参加しているかと言われれば微妙なところだ。でも皇太子には気に入られたようで、数年前までは護衛として同行はしていた。記憶がある。でも流石に俺達自身が歳を重ねすぎたことと、そもそも皇太子も中年になっていることから魔物討伐に参加しなくなったので、お役御免にはなっている。
「護衛であっても、同じ討伐隊の同志ではないですか?あっ、悪魔の話でしたね。その魔物討伐を実施する場所を貴族で調査するのですが、その際に発見した次第です」
「なる、ほど。しかし、7体もいたのによく逃げられましたね」
「撤退に関してはプロですので。もちろん、良い意味でですよ」
「俺も、それが悪いとは思いませんよ」
人には、得手不得手がある。だから、俺もケイ君と一緒に仕事をしている。撤退するための魔法というのが、どういうものなのか知らないし見栄えは悪いかもしれない。もしかしたら、見下すような人もいるかもしれないが俺は違う。
「ふふっ、そうですよね。ちなみに、私も直接戦うよりも支援する方が得意なんです。逃げ足も速いので、安心してくださいね」
「あっ、はい」
突然見せた笑顔に思わず見惚れてしまった。そこまで喜ばれるようなことを言った覚えはないので、知らないところで何かがあったのかもしれない。そう思えるほど素敵な笑顔。
「もしもーし。いい感じになっているのに悪いけど、話を続けてもらっていいか?あっ、いいでしょうか?」
「あっ、失礼しました。お加減は良いのですか?」
「おかげさまで、大丈夫です」
いつの間にか復活していたケイ君が割り込んでくる。言葉遣いに苦労しているようだが、アシュリーさんは受け入れているようなので俺からは何も言わない。
「それは良かったです。あとは何を話しましょうか。そうですねぇ。悪魔の名前はもう決まっていますよ」
そして伝えられた悪魔の名は、トキヒサとして既に知っていた名。ルシファー、サタン、レヴィアタン、ベルフェゴール、マモン、ベルゼブブ、アスモデウス。同級生たちの体と、アレンの記憶の中の人々が関連しているのではないかと、いよいよ確信出来るほどだ。
「能力とかはわからないのか、ですか?」
「残念ながら。発見した時点で半分は撤退、半分は残留したそうです。もちろん能力を突き止めるために残留したんですよ。でも戻れたのは撤退組だけでした」
つまり、悪魔にやられてしまったと考えるべきだろう。居心地が悪くなってしまったケイ君に、アシュリーさんはやさしくしてくれている。
そんな様子を見ながら、悪魔が発見されたという場所に近づいてきた。だが残念ながら日が暮れてしまっていて、今から戦いに行くのは難しい。
「この近くに、調査に使うための拠点があるんです。無事なはずなので、今日はそこで休みましょう」
アシュリーさんの案内で、一晩過ごすための場所へ向かう。拠点といっても建物が建っているわけではなく、野営に必要なもの一式が備蓄されているだけの物置でしかなかった。そんなものを見ると、貴族というより軍人なのではないかと思ってしまう。
「どうかしましたか?」
「いや、こんなものを使っているんだなと」
用意されていたテントを2つ張ってみたのだが、ハッキリ言ってみすぼらしい。毎年使っていることを考えれば不思議というわけでもないのだが、ここまでするのかと思ってしまう。
「いや、苦労しているんだなって」
「ふーん」
「な、なんですか?」
「お優しいんだなと。我々貴族は、一般の方の犠牲の上で多量の魔力をもらっていますから。こんなの当然って言う方は多いんですよ?」
「はぁ」
アシュリーさんが言うには、特に婚姻関係でトラブルとなることが多いらしい。魔力を濃縮するために、1人っ子が好まれる社会で、男女問わず強引に結婚相手を決められることは珍しくないらしい。特に一般人にとっては、本人や両親の魔力が高まるわけでもないので、反感を買うことも多いそうだ。
そんな話を聞きながら、ケイ君の顔が曇っていく。調子が悪いわけではないようだが、とても不機嫌だ。その理由を、アシュリーさんは勘違いしているようだが、俺はきちんとわかっているはずだ。
トランスジェンダーのケイ君にとって、いやトランスジェンダーだからという考え方は良くない。自由恋愛の世の中に生きてきたケイ君にとって、結婚を勝手に決められたりというのは不快なのだろう。ヨシエさんがそうだったのと同じことだ。
「でも残念ですね。もう少し若ければ、プロポーズしたくなっちゃったかもしれませんよ」
「いや、それは」
「あっ、でも6人目の夫なんですよね。どっちにしても断られちゃったかもしれないですね」
「あ、あはは」
無邪気に笑いながら話しているアシュリーさんは、可愛いのだがやめて欲しいと思ってしまった。
当たり前のように一妻多夫であることを話すアシュリーさんを見ながら、ケイ君は何を思っているのだろうか。ますます顔をしかめてしまっている様子を見ながら、楽しそうなアシュリーさんが気づく前に、それぞれのテントに入り夜が明けるのを待った。
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