第26話-中年期:指名依頼-
「指名依頼?俺らにか?」
明くる日、ケイ君に名指しで依頼されたことを伝えると非常に驚いていた。その気持ちは俺も同じで、こんな中年男性コンビをわざわざ指名する意味が分からない。
「なんかあるんじゃねぇだろうな?」
「あのなぁ、こんなの訳アリに決まってるだろ」
疑っている様子のケイ君に対し、当たり前のように答えた。俺達は、もうとっくに全盛期を過ぎている。体力も筋力も衰えてしまっていて、アレンの技とケイの魔力量は健在と言えるがそれだけだ。とてもではないが現役の討伐屋に勝てない。
いつ引退してもおかしくないのに、まだ仕事を続けている。2人とも独身で、妻も子もいないので生活のために働いているが、それも終わりが近い。
そんな2人を名指しする依頼など、まともなものであるわけがない。
「断れなかったのか?」
「無理だ。なにせ貴族の依頼だったからな」
「はぁ?」
これが一般人からの依頼であったのなら、その場で断っていただろう。それをしなかったのは、いや出来なかったのは、貴族からの依頼であったから。依頼人にはまだ会っていないのだが、間違いないと言われれば断れるわけもない。
「断れるのか?」
「わからない。無謀すぎれば断れるはずだけど」
あくまで、無謀すぎるならば。ただし、貴族の依頼ということを考えると適正かどうなのかはきちんと調べてあるはずだ。
「どっちにしても、話は聞かないといけないのか」
「そうだな」
「はあぁ」
ケイ君は深いタメ息をこぼしている。胡散臭すぎる依頼をこなさなければならないのが憂鬱なのはよくわかる。正直言って、俺も気分は同じだ。
「おかしくねぇか?なんで仕事を選べねぇんだよ」
「いや、だからこれは」
「そうじゃなくってよ、そうじゃなくて。なんで、俺は、戦っているんだ?戦ってきたんだ?」
「お、おい。どうした?」
どうにも思っていたのと違うようだった。ケイ君は拳を握りながら、歯を食いしばりながら、とても悔しそうにしている。
「別に戦いが好きなわけでもないのによ。なんで、こんな、危険な仕事をしてきたんだ?」
「ま、まぁ。落ち着けって」
「おかしいだろ?仕事を選べないなんて。そりゃ、魔力の制御が苦手だからよ。魔物を倒す魔法しか使えないけどよ、なんでそれで道を閉ざされるんだよ」
それは、どちらのケイ君の焦燥なのか。わからないままに場面は進んでいく。お互いに無言のまま待ち合わせの場所へ向かった。指定されているのは、打ち合わせをすることが多い集会所の一室。いつも使っている部屋のはずなのに、なんだか入るのに気が重い。
「お待たせしました。あっ」
中に人がいる気配がしたので、最初から挨拶したのだがそこにいたのはアリシアと瓜二つの女性。まさか依頼者がアシュリーさんだとは思わず、逆に俺達が依頼先だとも思っていなかったようだった。お互いに少し面食らってしまう。
「なんだ、知り合いか」
「あのなぁ。覚えてないのか?」
「ふふっ。だいぶ飲んでいたようですし、しかたありませんよ」
酒場で声をかけられていたことを話すと、ケイ君も驚いていた。そのまま軽く謝っているが、アシュリーさんは気にしていない様子だ。すっかり萎縮してしまったケイ君に代わって、俺が話を主導する。
「本当、すみません。まさか、貴族の方があんな酒場にいるとは思わず」
なんとなく上品な印象はあって、小汚い酒場にいたのが不思議ではあったが、まさか本当に貴族だとは思いもしなかった。
「かまいませんよ?ああいう空気をたまに吸いたくなるんです」
「はぁ」
そういうものだろうか。よくわからないが、特に追求するようなことでもないのでそれ以上何も言わない。
「さて、では仕事の話でもしましょうか。お座り下さい」
「あ、はい」
3人とも立ったままだった。促されるままに席に座ると、早速アシュリーさんが仕事の説明をしてくれた。一体どんな訳ありなのか身構えてしまっていたが、それは相手にも伝わっているようだ。
「初めにですが、あまり警戒しないでいただきたいです。お2人に依頼する理由は、今回の魔物が力押しではどうにもならないからです」
「と、言うと?」
「端的に言えば、悪魔を相手にします。それも7体」
「そんなにですか?」
色々な意味で驚きがある。まず、悪魔は魔物の中でもかなり強い。正確に言えば、人間にとっては厄介極まりない。なにせ欲望という人間の宿命を増幅させてくるのだから、天敵といって差し支えない。力押しでどうにもならないのはそのためだ。
幸いなことに悪魔は個体数が少ない。一生出会わないことの方が多く、出会ってしまうのは不運だったと片付けられることの方が多い。それに基本的に1体だけ出現するので、特定の欲望が薄い人間を集めればなんとかならないこともない。
それが7体同時というのは、明らかに異常事態。なにかの間違いだと思いたいほどだ。数を揃えればなんとかなる問題でもない。一歩間違えれば国ごとというのは大げさかもしれないが、1つの街が滅んでもおかしくない。
「まことに勝手ながら、アレンさんの経歴を調べさせていただきました。大変な経験をされていたようで、そのような方に依頼したいのです」
アレンの経歴、いや人生そのもの。それは確かに、途中で自暴自棄になったとしてもおかしくないものだ。トキヒサとして、真似できる気がしない。
「それは、ありがとうございます。どうする?」
俺は、いやアレンはこの依頼を受けるつもりだ。でもケイ君はどうするのだろう。いや、記憶ではどうしたのだろうか。
「是非ともご一緒にお願いします。悪魔と戦う上で、信頼できるパートナーは有効です。私達が失敗した場合、上位種族の力をお借りして街ごと悪魔を滅ぼすことになっています。国を守るためにいたしかたないのですが、そのような結果にはしたくありません」
切実な訴えは、本心から言っていると信じられた。確実に悪魔を倒したいのであれば、上位種族に頼るのは正解だ。ただその場合、街の被害をどこまで考えてくれるのかわからない。
「トキヒサ、俺も行くぞ」
「よし。では早速準備しますので、これで失礼します」
「いえ、私も同行します」
てっきり俺達だけで対応するものと思っていたのだが、そういうわけではないらしい。少し驚きはするが、貴族としては正しい判断なのだろうとも思えた。
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