コトリバコ

@Suzakusuyama

コトリバコ

 東京都港区○△×○○マンション1501号室にてコトリバコの開封を確認。

 中身は15年もののA.Kさん41歳女性、の眼球2つ。

 「まだ年数は浅いな…」

 俺が手袋を手にはめる。

 ただ、今回の開封で面倒なのはそこじゃない。

 今回のコトリバコは遅延性の呪い。

 俺は呪いの状態を見、場合によっては開封者を殺害しなければいけない。

 「無音」

 俺が呟き、音もなしにドアを開けた。

 そしてドアのすぐ前にないやらうずくまっている青年がいることに気がつく。

 年は20頃で、長髪に金髪。

 優しそうなタレ目は恐怖からか大きく見開かれていた。

 そして俺を見るなり、

 「助けて…」

 と弱々しくいった。

 見たところ呪いのタイプは怨毒型。怨嗟型じゃないから感染の可能性は低そうだ。

 「お前は、ここから逃げろ」

 俺が言うと、

 「逃げれないんです……」

 と青年が言う。

 「このドア、入ると、もう二度と…もう二度と逃げれないんですぅ…!」

 声は抑えているが、ガクガクと震え、泣き出す。

 「そうか」

 俺は呟き、 

 「後は任せろ」

 と言って対象のところに歩き出した。 

 対象は、リビングの台所でなにか作業をしている。

 そして俺を見るなり、

 「あらぁ」

 とエコーのかかったような、喉を大きく鳴らしたような声を出した。

 「おかえりなさいぃぃ、きょうちゃん」

 きょうちゃんというのは生前の息子の名前だろうか。

 息子に呪われたか、はたまた別のなにかか…コトリバコは中の人に罪がある可能性は極めて低い。寧ろ被害者と言ってもいい。

 「ごめんな」

 俺はコトリバコの中身、通称呪体に手を向ける。

 そして

 「脚力強化」

 と呟き、床を蹴った。

 俺等言霊師は呪体に札を貼り、「成仏」と唱えることで呪体を祓う。

 そして、言霊師は口にした言葉を実現するという能力を持っている。

 俺は呪体に近づき、額に札を貼ろうとする。

 しかし、呪体はスラリと俺の動きを避け、俺の腹をぶん殴った。

 「アガッ」

 呻きながらぶっ飛ばされる。

 そして窓ガラスを割りながら外へ飛ばされた。

 呪体はゆっくりと俺の方へ歩いてくる。

 意を決した俺は柵を乗り越え、ベランダから落下した。

 「軽くなる」

 落下する瞬間、体重を軽くし、少しゆっくりと落下する。

 しかし、呪体は阿呆のように15階から落下した。

 地面に落下すると同時に地面が凹み、下半身がぐちゃぐちゃになる。

 「馬鹿が」

 俺は内蔵を踏み潰しながらすぐ近くまで行き、額に札をはった。

 「成仏しろ」

 俺が言うと、呪体は動かなくなった。

 そこで周りの人たちがこちらを見ていることに気がつく。

 「あ、やっべ」 

 テヘペロ、と舌を出し頭コツンと殴った。

 すると、後ろから頭をガッチリ掴まれる。 

 「高梨くーん?????」

 やべぇ、この声は…

 「ちょっと、お話しよっか」

 





 3時間後、俺はぐったりとしながら帰路についていた。

 「結局同じような内容のことを、三時間…三時間………」

 怒られたことよりも、三時間が取られたことがショックだった。

 派手にやり過ぎとか、近隣住民に被害が出たらどうするとか、報告はマメにとか全部くだらね。

 俺は俺の好きなようにやって……あれ?

 どっかであったことあるようなないような顔。

 いや、違う。思い出した。今日のコトリバコの開封者だ。

 確か呪いはもう解けているはず。しかし、様子がおかしかった。

 何故か寒そうに両腕をさすっていて、時々ビクッと肩を震わしている。

 それはもう、完全にアテられていた。

 呪いを、受けていた。

 「チッ」

 またどっかで開封しやがったか?いや、だとしたら開封確認がされるはず。

 つまり、馬鹿みてぇに強いコトリバコに近づいて、呪いを受けやがった可能性がある。

 俺はついさっき手に入れた報連相をする。

 「やべぇ呪いを受けたやつを確認、処理に当たる」

 電話をかけて通話状態で待機。

 そしてターゲットを尾行した。

 ターゲットは人通りが多い道を選び、恐らくこいつの家と思われるマンションに進んでいく。

 (チッ、怨嗟型だったらどうすんだよ…)

 内心で舌打ちをする。

 でもどうやら怨嗟型ではなく怨毒型のようだ。

 俺は慎重に尾行し、15階までは気合で登る。

 ターゲットが家の中に入って、ドアが閉まった瞬間、1501号室のドアに耳をつけ、中の様子を探る。 

 「よく聞こえる」

 俺が言うと、よくよく声が聞こえた。

 「ただいまあ」

 ターゲットが言う。

 「おかえりなさい」

 この声は…俺が驚愕する。

 俺が祓ったはずのコトリバコの声だ。

 「ただいま、母さん」

 ターゲットが言った。

 明らかにおかしい、こいつはあんなにビビっていたはずなのに、だというのに…

 俺が入るのを躊躇っていると、

 「この箱を開ければいいんだね?」

 「うん、そうよぉ」

 やばい、コトリバコが開封されてしまう。

 「待て!!」

 俺がドアを開けたとき、コトリバコはすでに開封されていた。

 通話中のイヤホンから音声が聞こえる。

 「コトリバコの開封を確認、150年物、内容物、心臓」

 10倍じゃねぇかクソが!!

 目の前の風景には、小さな箱に詰まった心臓。

 手遅れだった。でも、やるしかない。

 「動くな!!!」

 俺が叫ぶと、独りと呪体が動きを止めた。 

 青年の方はもうダメだ、きっと死んでいる。

 俺は呪体の額に札を貼り付けた。

 そして

 「じょうb」

 顔面をぶん殴られる。

 そして俺はそのままドアに叩きつけられた。

 「クソっ」

 一連の動きだけでわかった、俺じゃ処理できない。

 呪体が額についた御札を剥がした。

 「おかえりなさい」

 優しくエコーのかかった声。

 俺はドアをぶち壊し、外へ出ようとする。

 しかし、ドアが壊れない。

 「壊れろ」

 言霊を使っても無理だった。

 クソっ、そういえばなんか家から出られないとか言ってたな、それか。

 「チッ」

 舌打ちをして呪体と向かい合う。

 俺が逃げる方法は一つ、ベランダからの脱出だ。

 俺は

 「邪魔だ、どけ」

 と言い、

 「俺は疾風」

 とかけ、全力でベランダの方へダッシュする。

 しかし、ベランダへの窓は空いているのに俺はなにかに弾かれた。

 なるほど、さっきまでのは不完全だったってことね。

 「さてと、どうすっか…」

 言った瞬間、俺は顔を掴まれ、思いっきり叩きつけられる。

 こりゃ、ダメだな…

 奥にコトリバコが見えた。













 コトリバコの開封を確認。

 260年物、歯形。

 

 





 

 

 

 

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