第4章 神話 (3)移民船 vs 移民船 ①
惑星アセルファを出発して10日。
艦長のガセルが作業を続けるソリルの近くへ来ると、状況を尋ねてきた。
「作業の進み具合はどうかね?」
ソリルは艦長に気づくと、作業を中断して顔を上げた。
「問題ないぜ。
船の制御AIに割り込みを掛けて、いつでも最優先命令をできるように改造した。
後は最高権限の設定だけだ。
これが終われば、どんな命令でも拒否することなく実行される筈だ。例え、自爆命令でもな」
「そうか、良かった」
非常時でなければ、なんの変哲もない遣り取りだったが、話題としては、やはり重苦しい雰囲気に成らざるを得ない。
ソリルは取り繕うように艦長に質問した。
「艦長さんはなぜこの作戦に志願したんだい?」
ガセルは少し考える様にモニターを見つめると、作戦への参加理由を語り始めた。
「私の家族は地上の第3コロニーに住んでいたんだ。
この戦争が始まった時、最初の爆撃によって木っ端微塵になった。
息子も孫も・・・。
跡形も残らなかったよ。痛みを感じずに済んだであろう事が、せめてもの救いだな。
それ以来、私は天涯孤独の身だ。無駄に生きるより、残りの短い人生を他人の為に使おうと思っただけさ」
「・・・そうか、恨んでも良いんだぜ?
不作為とはいえ、俺があの悪魔を目覚めさせた事には変わりはないんだ・・・」
ソリルは単に事実を述べた。
重い覚悟を語る相手に、いつもの様に言い訳じみた話をする気にはなれなかった。
「気にはしていない・・・と言えば嘘になるな。
だが君の事情は分かっているつもりだ。私情は挟まん・・・。
ところで、今回の作戦で私も疑問に思っているところがあってな。
質問させてもらっていいかね」
「構わんよ、俺が分かる話であれば良いんだが」
ソリルはシートに座ったまま腕を組み直すと、ガセル艦長の話を聞いた。
「件のAIアルビタレイシオだが、このアドファネスと同じ移民船を乗っ取っておきながら、アセルファに直接殴り込みに来ないのが不思議なんだ。
向こうも反物質リアクターを搭載している。
アセルファまで来て自爆すれば、周辺の宙域は跡形もなく消滅して、あっという間に決着が付く筈だ。
何故、エイドラに籠城を続けているのか、全く理解できんのだ」
「それは簡単な理由さ・・・。
要するにアイツの目的は人類を根絶やしにすることだ。
もし自分が死んだら、結果を確認出来ないだろう?」
それを聞いたガセル艦長は、思いついた疑問を投げかけた。
「素人考えかも知れんが、自分と同じ複製を作れば問題なさそうに思えるが・・・」
首を振ってソリルが答える。
「それは無いな。
例えば、王者が二人いたら最後は喧嘩になるだろう?
それと同じさ。
奴は単純なAIと違って自我がある。複製があったら見かけ上の協調動作は可能かもしれんが、すぐに主導権について解決できない矛盾が生じて、やがてお互いを拒絶することで喧嘩が始まってしまう。
かつて母星タームを乗っ取ったディレクトールってヤツも、増殖したりしていないだろう?
そういう理由があったのさ。
同じ理由で、バックアップも基本的には自分で作るようなことは無いはずだ。開発者が予め用意していたというのなら、分からんがね」
「なるほど。では我々は心置きなくアルビタレイシオを破壊出来るな」
少し腑に落ちた様子の艦長に、今度はソリルが思っていた疑問をぶつけた。
「それと艦長。
俺にも質問させてもらっていいかな?」
「ああ、構わんよ」
「俺はハッカーだから科学的な事は良く分からん。
ただ何となく分かるのは、ヤツを破壊しても放射線やらでアセルファが焼かれたりしないのかって事だ」
反物質リアクターが暴走した際の結末は、素人でも容易に想像が付く。
瞬間的に発生した放射線で、周辺の惑星は大きなダメージを受けるだろう。
「それは心配しなくていい。
アセルファに残った二隻の移民船が、何とかしてくれる手筈になっている。
本来軍事機密なのだが、最早隠すことでもあるまい。
元々移民船は資源採集用の船だ。まず発掘した資源採集用のスレーブアンカーをアセルファに降下させる。
二隻の反物質リアクターから発生させた強力なエネルギーをスレーブアンカーに送って、惑星の地殻内で局所的な核融合を発生させ、マントルの対流を強制的に加速させる。
対流が加速されたマントルは巨大な発電機となって、強力な磁場を発生させる仕組みだ。
発生した磁力線は、惑星アセルファを包むバリアーとなって、降りそそぐ放射線から地表の生命を守るというわけだ」
「話を聞いていると、なんだかアセルファが壊れそうだな」
ソリルは事の大きさに結果を想像出来なかったが、率直な感想を述べた。
「人命に影響はない。
ただし、科学者の見解は割れているが、何十万年か先にはアセルファの磁場が狂うか、あるいは失われる可能性が有るそうだ。
2隻の移民船も
「ずいぶん大げさな話だが、それなら安心してヤツを破壊できそうだな」
二人は顔を見合わせると不敵な笑みを浮かべた。
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