第7話

ああ、こいつ、新入りだ。アンさんちょっと気をつけてやってくれないか。

新入り。俺のことだ。緊張で毛が逆立つ。

ほら、チャト。

はいっ。

ノワールに促されてひっくり返る声で絞り出す。

「みいみい」

はっはじめまして、チャトでしっ。よろしくお願いしみゃあす!

噛み噛みの挨拶にその猫は笑わず頷いてくれた。

ああ、あたしも兄貴に助けられたことがるんだよ。よろしくね。

ひゃあいっ。

鼻をちょんとくっつける。猫同士の挨拶。


「こんにちはー、猫ちゃんたち。今日のご飯だよう」

「あらま、見かけない子がいるよ。ほらほら」

「あっほんと!」

大きな声が聞こえて俺はぴょんと飛び上がりノワールと銀猫アンおばちゃんの後ろに隠れた。

「ああ、驚かせちゃったよ。ごめんね」

「さあどうぞ、お食べ」

すぐに声は抑えられ、良い匂いのする皿が置かれる。

餌だ。


緊張と警戒で体はぶるぶる震えたけれど、ノワールとアンおばちゃんが動じないので、そろそろと近付いた。

いい匂い。

美味しそうな匂いだ。

餌だ。

餌だ。

餌だ!


夢中になってその餌を貪った。初めて固い餌を食べた。気がつくと食べながらみいみいないていた。


「頑張ったね…」


誰かの声がした。


にゃあ。

じゃあ俺はパトロールして帰るよ。ノワールは言った。俺は食べるのを止めて振り返る。

俺は野良から飼い猫になったんだ。外にはこうして出ているがたまに帰らないと飼い主が待っているから、と最後はぼそぼそ言って帰っていった。

そうなんだ…。羨ましくなんてない。ないんだ。

なあん。

独り立ちするまでは一緒に過ごそう。アンおばちゃんは俺の顔についたカリカリを食べて言った。野良猫の生き方を教えてあげよう。

あい。よろしくお願いします。

アンおばちゃんは野良母猫から生まれた生粋の野良猫らしい。

時々散歩に来るノワールにも色々なことを聞いて学ぶこととなった。



こうして俺は野良猫チャトになったのだ。




俺、野良になる。おわり

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箱入り坊ちゃんのらねこになる。 翔馬 @nyumnyum

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