第5話

目の前が暗い。

俺は死んだのか。

もう、朝は来ないんだな。

「…」

体が冷えて、暗くなって、固い床で…?

ほんのり暖かい。

前足を動かせば柔らかい、毛皮に触れた。

なんだ、これは?

ふみ、ふみ。

思わずでる母親に甘える動作。

目の前は相変わらず暗い。というか、黒い?


「にゃあ」

起きたか、と聞かれてびっくりした。

あんなに力がでなかった体がぴょんと跳ねた。

落ち着け、と額を舐められてつい喉をならしてしまう。

しばらくそうして毛繕いされると落ち着いた。

この黒猫は良いやつ。たぶん。

舐めてもらえたからか毛皮も乾いている。

「みい」

ありがとう、と言った声は寝起きで上擦っていた。もう、泣いてない。


そうか、と目の前の黒猫が答える。

大きな大人の雄猫だ。

向かって左の目だけが喧嘩傷で潰れていた。

俺はノワール。とその猫は言う。お前は?

俺はチャト。です。

ノワールはまた頷いて聞いた。


捨て猫か、迷子か。


俺は俯いた。認めたくなかった。

でも現実は厳しいのだ。

ノワールはまた頷いてそうか、と低く呟いた。

グルーミングされると勝手に喉が鳴った。

だって気持ちいい。

母親や兄弟と舐め合って以来だ。

うっとりと目を細めてなすがまま堪能した。

しばらくしてノワールが言う。

飼い猫に戻りたいか?

俺は…。


自由の楽しさ。捨てられた悲しみ。ひとりの寂しさ。心細くひもじい思いもして。

だけど。


俺は…野良猫だ。

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