第7話
「うわあ…すご」
ツキが目を丸くして言った。僕の通う高校は
「あんまり先生とかに見られたら困るし…とりあえず食堂行く?」
「うん」
ツキが頷いたので、早足でツキと並んで校内へ入るが、通りすがる生徒のほとんど全員がツキをじっと見て、かっこいいだの逆ナンしたいだの言うから、ツキは少し居心地が悪そうだった。
「あれ、優くんじゃん!」
廊下を歩いていたら後ろから声をかけられて、僕は思わず立ち止まった。振り向かなくても、声の主は分かった。
「ちょっとー、私、私!夏休みの間で忘れちゃった?レイナだよ」
僕の腕に抱きつくかのようにして僕の背後から現れたのは、高橋レイナという、クラスメイトの女子だった。
「…高橋、覚えてるから」
何故かツキの目が気になった。この光景をツキに見られたくないと思った。僕は高橋レイナの手をさりげなく解いて、真正面から彼女を見た。
「7月ぶり」
僕が笑顔を作ってそう言うと、彼女はにっこりと笑った。
「レイナで良いってば!ってか、ほんとそうだよ!連絡しても既読もしないし、寂しかったんだからぁ…っていうか、この人誰?」
今気づいたかのように高橋レイナは言った。僕がツキを見ると、ツキはいつものような分かりやすい表情ではなく、感情が読み取りにくい…でも、少し暗い表情を浮かべていた。
「友達。ごめん、急いでるんだ。また今度」
ツキが暗い顔をしているのが高橋レイナのせいなのだとしたら、僕は早く彼女からツキを引き離さなければならない。高橋レイナは、目線を下げた。
「せっかく久々に会えたのに…」
「ごめん。時間ないから、行くね」
彼女は、学校中で綺麗だと噂されている。でも僕にはそんなことはどうでも良かった。誰を見ても綺麗だとか綺麗じゃないとか思わないし、誰が美人で誰がそうじゃないかも分からない。それでもツキだけは違う。僕にとって唯一の『綺麗』はツキで、ツキが僕の美の象徴だ。容姿もだし、それ以外もそう。僕には、人間をツキかツキじゃないかでしか分けられない。
「もうー…」
まだ何か言っている高橋レイナを置いて、僕はツキの手を引っ張って食堂へ向かった。
「良かったの?あの子」
「え?…ああ、苦手なんだ。ああいうの」
「でも、俺がいつも優しい優にあんな態度とられたら普通に悲しいかも」
僕は、ツキの手首を掴んだまま歩き続けた。
「大丈夫だよ。僕、いつもあの子に優しくないから」
「嘘。俺には優しいよ?」
「みんなに対してツキに接するみたいにはしてない」
「あはは、そうなんだ。でも優は優しいよ。優しくない人は俺に水をくれなかった。おにぎりも」
最初、僕がツキに声をかけたのは偶然だ。でも、それ以外の僕がしたことは全てツキだからしたことだ。よく分からない感情も、全部ツキが僕に植え付けたのだ。それに従っただけの僕は優しくなんかない。本当は他人のことなんてどうでもいい、冷たい人間だ。
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