第7話 解決策

「そうか。お前がそうしたいと望むことなら、叶えてやりたくはある。だが、俺も譲るわけにはいかない。お前が俺の側から居なくなること、それだけは、けして許せない」


ジルが私を強く抱きしめて、そのままベッドに倒れこんだ。


「そして、お前は俺の妻、俺のものだ。望まないことを強要すれば、お前は俺を嫌うだろう。それでも構わない。どんなに俺を嫌おうと、お前はここから出られない。お前の国を滅ぼすと言えば、死ぬことも出来なくなる。……そうすれば、お前が俺に笑いかけてくれることは、無くなるだろう。だが、お前が死ぬよりは、良い」


絞り出すような声だった。きっと、彼はずっと、ここに居てくれたのだろう。目を開けたときに居た老人も、彼が私を生かすためだけに、連れてきてくれたに違いない。


(それは、愛、なのかもしれない)


私が、頷くだけ。受け入れるだけ。それで彼は幸せになれる。大事にしてもらえるのは、確かだ。でも、大切なのはそこじゃない。


「…………ねえ。ジルは、私が素直な女の子になったら、嬉しいの?」


問いかけたら、ジルは目を丸くして、そしてとても複雑そうな顔になった。


「それは、……ソフィが、そうしたいのなら。俺としては、そうだな。楽しくは、ない」


「そっか。じゃあ、ダメだね。素直な女の子には、なれないや。でも、ジルがそう言ってくれて良かった。……ありがとう。素直じゃない私、そのままの私を大事にしてくれるのは、とても嬉しい」


私は、そう言って、心からの笑顔を見せた。ジルは、さっきより驚いていたけれど、すぐに笑顔を見せてくれた。今まで見た中でも、とびきりの表情。その顔を見て、やっぱり私は間違っていなかったんだと、思うことができた。


――――


「…………ねえ。ジルは、私が素直な女の子になったら、嬉しいの?」


その問いかけは、ジルヴェストにとっては、予想外のものだった。素直なソフィア、自分の言葉を全て受け入れて、望みのままに振る舞ってくれる彼女。


「それは、……ソフィが、そうしたいのなら。俺としては、そうだな。楽しくは、ない」


言葉が先で、思考は後からついてきた。こんなことは初めてだ。体温が上昇して、鼓動が早くなる。


「そっか。じゃあ、ダメだね。素直な女の子には、なれないや。でも、ジルがそう言ってくれて良かった。……ありがとう。素直じゃない私、そのままの私を大事にしてくれるのは、とても嬉しい」


彼女が笑っている。とても、眩しく感じる。目眩がして、思考がうまくまとまらない。


「……ソフィ。そうか。お前が嬉しいのなら、それでいい」


自分の意思ではない言葉。そんなものを発したことは、1度も無かった。けれど、発した途端に、それは真実になった。


「それでね、ジル。あなたが心配してくれているのも分かっているから、シェリル様に相談してみるわ。それまでは、部屋から出ない。それなら、あなたも納得できるでしょ? シェリル様なら、きっとここに来て、相談に乗ってくださるわ。ね、それでいい?」


「ソフィ……。ああ、構わない。俺からも、シェリルに伝えておこう」


自分は、明らかにおかしくなっている。少女の声が、とても柔らかくて、優しいからだろうか。


「大丈夫よ。ジルが伝えたら、それは王命と同義でしょ。そうじゃなくて、友達としてお願いしたいの。それに、ジルにそこまでしてもらうのも、良くないと思うし……。私ね、愛してるって言われたこと自体は、嬉しかったのよ。だから尚更、あなたの気持ちを利用するようなことは、したくないの」


それとも、彼女がずっと、真っ直ぐに。こうして、自分を気遣ってくれるから、だろうか。次代の王として生まれてから、ジルヴェストが見てきた人間たち。シェリルのように、良い王として在ることだけを求める者たちと、親しくなって利益を得ようとする者たち。どちらも、悪人ではない。人には欲があり、望みがある。王であるジルヴェストには無かったものが。目の前にいる少女にも、それはあるだろう。けれど、彼女はそれを大切に持ちながら、こちらを気遣うことができる。そんな彼女だからこそ、自分は必要としているのかもしれないと。ジルヴェストは、そう思った。

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