相談CASE7
―――はい、こちら退魔課です。どうされましたか?
「すみません、私、『非公開』植物園の『個人情報のため非公開』です。少し気になった事を相談されたので、申し訳ありませんが対応をしていただきたいんです」
―――分かりました。具体的にはどういったご相談を受けましたか?
「それがネット通販で買った鉢植えから唸る蔦が生えて」
―――今すぐその相談者の住所を教えてください
「ですよね!私でも知ってますよ、唸る蔦なんて一般に出回らないことは!聞いておいて正解だった…………『個人情報のため非公開』です」
―――今からその方へ職員が向かいます。他に何か相談者は言っていましたか?
「そうですね、甘い香りがするのと…………美人に見えるとか」
―――アルラウネですね
「私の知識もそう告げています。どうか、『手遅れ』になる前にお願いします」
―――もちろん、全力で当たらせていただきます
「最近増えてきたな、魔界からの輸出品」
「ネット通販が便利なのは認めますけど、それに異物を紛れ込ませるのはやめてほしいですなぁ」
ここは退魔課が異界から持ち込まれた危険な道具を集める倉庫。ここにはブロックごとに持ち込まれた危険物を仕分けており、ここで会話している彼らは職員兼尋問官である。
「この前もまたアルラウネの種が運び込まれたって話ですよぉ」
「不法入国する手段として流行ってるんだろう」
「問題なのがぁ、どこで混入させたかですよぉ」
「…………でかい山があるな」
今、見張っているのは植木鉢に植えられた一本の苗。成長途中でまだ意識が芽生えていないアルラウネである。
ここで、この種類のアルラウネについて説明しておこう。
まず、アルラウネは貴方がたが知るモンスター種で間違いない。一言付け加えるなら美人な雌花しかいないということだ。
そんな彼女達がどう繁殖するかというと、他種族から『種』を分けてもらうのである。その分けてもらう行為に同意があるかは別として、と注釈が入るが。
そんな雌花しかいない彼女達だが、何故難儀な繁殖方法をしているのに絶滅していないか?
それは一定期間生殖しない、もしくは任意で『種子化』という、いわば究極の若返り方法で死までの時間を遥か後に伸ばすことができるのだ。
この種子化の便利なところは小さくなって運びやすいことだけでなく、若干の魅了効果で鳥などに食べられ、生物が多い地域まで運んでもらい、土壌が整っていて雄を感知したら本能的に成長し始めるのだ。
まさしく植物と生物が混ざった特異な種族と言えるだろう。
「野生動物に運ばれたって線はないですかなぁ?」
「だったらこの摘発数はなんだ?異界からのゲートが開けば即座に対応される。『天文台』がそれを見逃すはずがない」
「ですがねぇ、彼らも人でありますよぉ?ミスの一つや二つはあり得ないでしょぉ?」
「そもそも、コレを購入した者は室内でのみ育てていた。窓際の日がよく当たるところでな。どうやって他の動物が種を落とす?」
「ごもっともですなぁ」
のほほんとした雰囲気を醸し出し油断しているように見えるが、この男もプロである。
数々の現場を経験し、怪我をして前線を退いたとはいえ、笑っている顔でも目は笑っていない。
「最近、何かしらの仲介業者が介入してるのは明白ですなぁ」
「奴らの欲を持った異種族を利用して対価を得る。そのために他は犠牲になってもいいって訳か?」
「主に性欲ではあるんですけどねぇ。それを制御しきれていない異種族をターゲットに、人間を斡旋するという組織は年々増えてますからね」
「異界の貴重な素材を対価に、特に麻薬の類は需要がありますからなぁ」
基本的に異界からの輸入品には厳しい規制がかけられている。
いたって普通の嗜好品もあれば人体に大きな影響を及ぼす危ない薬まである。後者に至っては、人間を超越する非常に危険なものまで…………
「こういうのを瀬戸際で止めるのが我々の仕事です」
「そうですねぇ。おや、そろそろ目が覚めたみたいですよぉ」
蔦が一つの塊になるように絡まっていく。アルラウネが幼体から成体へ移行するときの現象である。
これに移行するということは身体の成熟が完成し、ようやくしっかりとした意思疎通ができるようになることを意味している。
そして、繁殖行動がとれるということも。
「コンニチワ、育テテクレテアリガ…………」
「どうも、退魔課の者です。今からお時間をいただきます。理由はお分かりですね?」
「……………………ぴえん」
今、アルラウネの目に映ったのはガスマスクと防護服に着替えた職員だった。しかも火炎放射らしき機械製の触手のようなものがちろちろと火を出して威嚇している。
自身の目論見が出待ちかつ対策されて詰んだことを理解してアルラウネは涙目になった。
これで23件目である。
こちら退魔課です。どうされましたか? 蓮太郎 @hastar0
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