相談CASE5
―――こちら退魔課です。どうされましたか?
「オカルトの問題ってここであってるんですかね?」
―――はい、異種族とオカルトらしい問題に対応しています。悩みなどあれば、お話を伺うことは出来ます。
「分かりました…………最近、特に疲れているわけでもなく、眠気があるわけでもないのに、ふっと意識が遠のいて気が付くと布団の中だったりするんです」
―――続けてください。
「他にも起動した覚えのないパソコンで妙なサイトを見てたり、料理してる途中で目が覚めるように意識が戻ったり、まるで夢遊病みたいで…………」
―――なるほど。念のためにお聞きしますが、病院へ通院されたましたか?
「それはもちろん、病院で診てもらっても病気ではないみたいなんです。よくある睡眠障害とか、ナルコレプシー?ってやつですかね?」
―――可能性としては否定できませんが、その妙なサイトというのは?
「それが文字化けみたいな文字ばっかりしていて読めないんです…………読めないはずなんです」
―――と、いうと?
「なんか異国の言葉でも似たような文字と似ているならある程度の意味を知っていると分かるじゃないですか」
―――確かに。よくある事ではありますね。
「いくら調べてもその文字について全く分からないんです。でも、何故か知ってるような気がして、ずっとささやかれているような気がして…………」
―――なるほど。身に覚えのない言語を習得している気がすると。
「はい。そこでオカルト関係かも知れないから一度相談した方が良いと言われて…………」
―――相談した方が良い、というのは医師に言われたのですか?
「はい、そうで…………そうだっけ?」
―――どうされました?
「あれ、誰に言われたっけ?先生に言われたはず…………いや、『彼女』だったっけ?」
―――『彼女』とは?
「『彼女』は最近、家に上がり込んで…………なかったな。でもあのサイトをお勧めしたり料理手伝ってくれたし」
―――もしもし?大丈夫ですか?
「そうだ、確かに相談はここにしろって言われたけど。『彼女』がソレはしなくてイイって」
―――もしもし!聞こえるなら返事をしてください!
「ああ、ソウだ。医者さんに相談シタほうガイイッテ言ワレタガ、気ノセイダッタミタイダ、切リマスネ」
―――待って!話はまだ終わってない!『彼女』はそこに居るんですね!?
「《transparent》コノヒトハ、ワタシノモノダカラ《/transparent》」
―――もしもし!もしもし!探索班!今の電話を探知して!
「そうか、既にもぬけの殻だったか」
「はい、最後に開かれていたWebサイトは閉鎖済み。ですが、復元はしましたので追跡は可能かと」
「分かった、先発隊は誰が行く?」
「…………『あの男』が行くそうです」
「…………マジか」
「マジです」
退魔課追跡部門。ここは文字通り、通報があったが場所を特定できない場合、電話から逆探知して機動隊を派遣する部門である。
この日『も』追跡部門に仕事が回ってきたため全力で彼らは仕事をした。
これも一人でも異種族から人間を救うためである。稀に異種族からの相談があったりするが、人間に迷惑をかけず困っているなら手を差し伸べている。
先程、行方不明になった相談者がいそうな場所に目星を付けた追跡部門は機動隊に救出を依頼、そして今ここにいる二人は休憩時間となり間食をとっているところである。
「相談者を連れ去った奴もついてないな。よりによって『暴力の塊』のような男を敵に回すとは」
「精神攻撃仕掛けてくる相手には強いですからね。強固な精神と強固な肉体が釣り合ってる例は初めて見ました」
「あれは例外だ。人類から生まれたバグだって本人も言っている。自分は人から生まれたとは言え『人間』じゃないことを自覚してるんだ」
「それって…………なんだか辛いですよね」
「同情するなら予算を回せって『あの男』は言うさ」
「なんやかんや研究一筋ですもんね」
「あの人がいたおかげでパワードスーツの開発も進んでる。最終的に暴力に訴えることが多い現場だと大助かりって言ってるさ」
「現場も大変ですもんね。この前も怪我人が出たって言ってましたよ」
「力自慢を相手にする事も多々あるらしいからな。ま、俺達には関係ない話か」
そう言って彼はコーヒーを一口含んだ。
世界は回る。どこで何が起ころうと、問題が起きようと回り続ける。
だが、地上から命は減り続ける。
異種族との交流が浸透し始めた中、純粋な人間の人口は減り続けている。何故なら異種族が人間を拉致、監禁し行方不明になる事案が多発し続けているからである。
奴らからすれば、欲の発散の一環に弱小種族を使ってる程度に過ぎないのだろう。
だが、それから目を背けてはいけない。
いくら『バグ』の存在があろうとも、他が全員居なくなれば負けなのだ。
だから退魔課は戦い続ける。
真の意味で人間と異種族の融和が実現するように。
例え理解されなくとも、絶滅を免れるために戦い続けるしかないのだ。
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