相談CASE3


―――こちら退魔課です。どうされましたか?


「ここって怪奇現象についての相談もしてますか?」


―――もちろん。何か身の回りでありましたか?


「この前に神社に初詣に行って、安全祈願のお守りを買ったんです。家に戻ってきたら、ポケットの中に買った覚えのないお守りが出てきたんですよね」


―――続けてください。


「古そうで貴重品みたいなものだからそのまま捨てるのももったいなくて。来年のお焚き上げの時にどうにかしようとして、神棚に保管してたんです。それからというもの家の中でポルターガイストなどがよく発生するんですけれど…………」


―――もしかして、家に居ても視線を感じたりしませんか?


「はい。時折夜中に布団の中にも気配を感じます。もしかしなくても古びたお守りが原因ですよね?」


―――そうでしょうね。速やかに廃棄、というのは相手を刺激しかねません。何気ないふりをして退魔課に持って来て欲しい所存であります。


「えーっと、それだけ危険ということですか?」


―――もちろんです。もしかしたらマーキングされているかもしれません。


「マーキング?」


―――お守りを渡した時点で貴方に目をつけていたという訳です。おそらくですが、今でも監視を…………


―――そういえば布団の中にも気配を感じると?


「あ、はい。寝ている時にふと感じるんです。体を起こしたら消えてるんですけど…………」


―――体に変な痣のようなものはありませんか?


「痣ですか?風呂は毎日入っているんですけどそんなものなかったです」


―――貴方が目につかない場所についている場合もあります。前例から言うとお尻の割れ目にとか。


「しりっ…………!?そ、それは嘘でしょ」


―――『前例』がありますので。


「…………隅々まで確認しろと?」


―――可能であればそうして欲しいですね。ですが、痣があってもそれがマーキングの印なのか直接見なければ分からない可能性もあります。


「そうか、素人目だとわからないこともあると」


―――その通りです。できれば住所を教えていただけますか?有事以外には使用しません。ホームページにもある通り、我々には守秘義務が存在しますので。


「うちに来るってことですか?」


―――調査が必要ですので。特に、室内に気配とポルターガイストが発生している場合、不法侵入として相手を確保しなければなりませんので。


「待ってください、それって今もいるってことで…………」


―――現状だと可能性は否定できません。


「…………こんなところに居られるか」


―――落ち着いてください。下手な退出は相手を興奮させるだけです。


「正体も分からない奴に居座られてるなんて思いもしないだろ!さっさとお祓いにいかないと…………!」


―――待って下さい。先に住所を教えてください。


「お守り持ってお焚き上げすれば解決するはず…………」


『ガサゴソと高いところから物を取る音が聞こえる』


―――既にこの会話は聞かれている前提で話しています。だから、下手なことを言うのは


『どたどたと足音。ガチャガチャとドアノブを回す音が響く』


「あれ?ドアが開かない!?」


―――しまった、相手もかなり興奮しています!すぐ駆けつけますので住所を!


「どうしてだよ!なんだ、開け!開けよ!」


―――おちついて、どうか、落ち着い―――


 通話はここで途切れている。





























「な、なんだいありゃあ」


 とあるアパートの大家は思わずそう言ってしまった。


 それも当然、白装束の人間が大人数で駆けまわっていたのだから。


「そっちに反応はないか!?」


「無い!…………今あっちに反応アリ!」


「よし!でかした!行くぞ!」


 ドタドタと切羽詰まったように大家の方へ走り出してきた白装束に、思わず塀に背中をぶつけてでも道を譲ってしまった。


 まるで戦争でも始めたかのような雰囲気で走っていった白装束はあっという間に角を曲がって見えなくなっていった。


「わ、わからん連中がきたな。関わりたくない…………」


 また独り言を言ってしまったが、彼の目的は自身が所有するアパートに住む住人から別のところに引っ越しするための相談を受けてやってきたのだ。


 何か、怪奇現象が起きているのなんのと話が来たので直接見に来たのだ。


 自分のアパートで怪しい噂を立ててほしくない彼はうんざりしながら仕方なくアパートへと向かう。


 一応、信仰心はあるので神棚は用意しているし、下手なものを祀る馬鹿もいないだろうと、そう思っていた。


 歩いていくうちになにやら行き先が騒がしい。


 そこで彼が目にしたのは…………


「くそっ。やっぱりバールじゃ開かない!」


「ドリル持ってきた!予備電源もある!」


「でかした!」


 自身のアパートの二階にある一室のドアをこじ開けようとしている白装束だった。


「な、何しとるんだお前らぁ!?」


 破壊行動に思わず駆け足で寄るが、野次馬をさばいている白装束に止められる。


「すいません、今危ないですから離れてくださーい!」


「ここはワシのアパートだ!誰に断りを入れてこんなことを」


「通報があったんです。今、救出作業中ですので」


「通報!?救出!?何のことだ!」


「とにかく、今は非常事態ですので」


 彼と白装束との諍いを他所に、アパートの前では一悶着起きていた。


「くそっ、ドリルが刺さらない!」


「やはり結界か。物理遮断か?」


「応援を呼べ!時空を歪ませられる相手かもしれん!」


 はた目からしたら無理矢理扉を壊そうと試みて失敗している強盗団に見えるが、彼らは本気で救助活動をしているのだ。


 上も下も大騒ぎという所で、また白装束が別のところから走ってくる。


「応援到着ー!」


「待たせた!退魔の護符を持ってきたぞ!」


「でかした!」


 応援の白装束が持ってきた札をアパートの扉に貼り付ける。そこに釘とハンマーを取り出して何の躊躇いもなく扉に貼った札に打ち付けた。


 キィィィィィィンッ!という耳が痛くなるほど高い音が響き、そしてアパートの扉は白装束を巻き込んで外に吹き飛んだ。


「危ないっ!離れろー!」


「畜生、最後の抵抗ってやつか!」


「扉があいた!突入ーーー!」


「けが人はいないか!?一般人への被害は!」


 突然降ってきた扉は幸いにも一般人には当たらなかったが、釘を打ち込んだ白装束が吹き飛ばされた際にアパートの二階から落ち、落下の衝撃で動けなくなっていた。

 

 これはもうただ事ではない、何かの戦いが起きてしまってるのだというのが野次馬たちの頭で分かってしまった。


「な、なにが起きとるんや…………」


 突拍子もないことに安全とする彼。倒れた白装束の応急手当てで別の白装束が寄ってくるのを尻目に彼を止めていた白装束が言う。


「今現在、アパートに監禁された住人を救出中です。危ないので下がってください」


「か、監禁って…………少し前まであいつと電話しとったんだぞ!」


「その少し前に通報があったんです。安心してください、修繕とお祓いは我々が全部負担しますので」


 白装束はよくある事のように彼に行った。


「確保ーーー!」


 その一声が部屋から聞こえた時、白装束はほっと息を吐いた。


「どうやら無事…………かはどうか分かりませんが救出には成功したみたいです」


「…………な、中で何が起きてるんだ?」


「少なくとも、おぞましいことでしょう」


 白装束の物言いに彼はつぶやく。


「……………………わしのアパートが、いわくつきになってしもうた」


「大丈夫です。しっかりお祓いはしますから」


 そんな言葉が欲しかったんじゃない。彼はそう思いうなだれた。

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