7話 美術部①
「無理ですね。筋書きにもならない」
私の答えに水瀬先輩は瞬きもせずに「どうして?」と聞いてきた。
「わざわざ姿を消す理由がありません。学校でテスト中に失踪。しかし、テスト中といっても肝心のテストは全部解いてある、とすれば、さっき先輩が言っていたように何処かで絵を描いているって説のほうがよっぽど筋が通ります」
「水瀬先輩はどうです? 役者的にはこの条件下の行動は心情的に成立しますか?」
「するとも言えるし、しないとも言える。人間の行動ほど理屈があって不可解なものは無いからね」
「どういうことです?」
「たとえ脚本に矛盾があったとしても、セリフや行動の行間から、登場人物の心、その人の本質を読み解いて、一人の人間を成立させてしまうのが役者の仕事だからね」
「つまり、どんなこじつけも出来てしまうと言う訳ですね」
水瀬先輩はおどけて肩をすくめた。
「その通り。主観的なものはどうとでも弄れる。だから、客観的なシナリオが重要なのさ」
「さあ、葉月君。この失踪事件を成立させるのに必要な材料は何かな?」
一人の生徒が失踪し、同じクラスでもない生徒が行方不明を心配して泣いている。
その両者は美術部に所属しているーーとなれば、次の行動は決まっている。
「美術部に話を聞きに行きましょう」
私達は美術部のある本棟に向かって歩き出した。
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