6話 校内放送③
「かやちゃんにもしものことがあったらっーー」
瀧口先輩は顔を覆ってしまった。
「落ち着いてください。あの人の性格上、何処かで絵を描いてるのかも」
水瀬先輩の場をとりなす言葉を遮って瀧口先輩が叫んだ。
「わかったようなことを言わないで!」
水瀬先輩の半歩後ろに控えていた私はその勢い押されて後ずさった。
ゆっくりと顔をあげた瀧口先輩は挑むように水瀬先輩を睨みつけた。
「皆が噂しているのは知っています。同じ美術部の人間ですら、かやちゃんは絵のことしか考えてない変人だって言う。でも、そんなことないってちょっと考えればわかるでしょ?」
「
「かやちゃんが苦しい思いをしてるのに、勝手な噂で茶化さないでください」
その後また泣き出した瀧口先輩を宥め、私と水瀬先輩は三年四組の教室を後にした。
詳しく話を聞こうにも、彼女はずっと嗚咽をあげるばかりで要領を得ないので、私は少々苛立っていた。
「どう思う?」
水瀬先輩が聞いてきた。
「あんなに心配で仕方ないなら、水瀬先輩に頼んだうえで自分も探し回ったらいいんじゃないですか?」
そんなつもりはなかったけど、私の口から飛び出した言葉には棘があった。
「あと、失礼でした。水瀬先輩のフォローの言葉にも噛みついてきて、挙げ句に泣いてこっちの話を聞きもしないし」
まるで悲劇のヒロインだ。泣くだけなら子どもでも出来る。
状況を変えられるのは自分だけだ。
演劇の経験もなく、右も左も分からない中で走り回った春季大会までの日々を思い出して、私の胸に黒いものが
「自分の労力を使うわけでもなく、教室でのんびり待ってるなんてーー」
「手厳しいね、葉月君」
利かん気の子どもをあやすように優しく、否定も肯定もしない言葉で水瀬先輩は微笑んだ。
私はばつが悪くなって、俯向いた。
いま、私は自分の感情を持て余して怒っている。それを知覚しながらも、何故かが分からない。小さくため息をついて、水瀬先輩に尋ねた。
「瀧口先輩の様子、水瀬先輩の目から見て、どう思いましたか?」
「泣いていたね。可哀想なくらい怯えていた」
「優しいんですね。私ならあんな態度の人のこと、心配出来ないです」
「ヤキモチかい? 葉月君」
「違います」
ニヤニヤと笑みを浮かべていた水瀬先輩は一つ咳払いをすると、真面目な顔になって言った。
「さて、この状況から君ならどんな筋書きを書く?」
今わかっていることを頭に浮かべて、私は考える。
・テスト終了間際に姿を消した木暮先輩。
・木暮先輩は成績に困っていた訳でもなく、画塾での評価も高い。
・木暮先輩は絵のこととなれば、場所も時間も
・消えた木暮先輩を心配して泣き続け、教室から動かない瀧口先輩。
・二人は美術部に在籍している。
自分の中で出た結論に躊躇う《ためら》気持ちはあったが、私は意を決して口を開いた。
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