1話 くじ引き①
「ーーじゃあ各自、ペアになった役者と話し合って頑張ってください」
一学期末のテスト最終日、演劇部の部室に集められた私たちに、神田部長は夏の青空に負けないほど晴れやかな笑顔で告げた。
呼び出された部員の内訳は、一年生が一人、二年生が三人の四人だった。
二年生は演出と演出サブの経験者で、一年生は先日の春季大会の演出サブーー私だった。
この集会は、来たるべき秋季大会の演出を決めるにあたっての説明会だった。
演劇において演出とは、軍隊の総司令官にあたる。このポジションの人選を誤れば、舞台製作は破綻し、諍いが絶えず起こり、部員は一人、また一人と突然姿を消していき、最悪の場合は部が消滅する。
そもそも演劇部に来る人間は、舞台の上に上がる役者はもちろん、照明や音響に衣装、大道具、小道具に関わる裏方までもれなく我が強い。
そんな集団をまとめ上げる演出は、やる気だけでは務まらないのだ。
誰が見ても納得できる形で己の実力を示し、公正に選ばれなければならない。
その為に行われるのが、演出希望者と役者とで作るオムニバス公演というものらしい。
各自持ち時間は、五分から十分の独り芝居をする。
公演日は終業式前日。そして、我が丸山女子高等学校のオープンキャンパスの日である。
観客は演劇部員とオープンキャンパスに来てくれた未来の後輩たち、公演チラシを見た酔狂な在校生らしい。
その後、観劇アンケートの集計をとって次の秋季大会の演出を決めるーーというのが、部長から受けた説明だった。
「ーーでは、公演のペアを決めますので、こちらの箱からクジを引いてください」
クジ入りの箱を手にして、副部長の三崎先輩が言った。
「誰からでもいいぞ」神田部長が言い放つと同時に、二年生の先輩方が立ち上がり、我先にと三崎副部長の前に横並びになった。
「あらあら」全然困ってなさそうに三崎副部長が首を傾げた。背の高い彼女は二年生たちよりも頭一つ分以上高い。
「お前ら、やる気があるのは結構だが、殺気立つのは止めろ」神田部長がため息をついた。
「そうね、一年生がびっくりしてるわ」
そう言って三崎副部長はチラリと私を見ると、釣られるように二年生の先輩方がパッとこちらを振り返った。四対の目と視線が合って、私は小さく会釈した。
……気まずい。
「大人げないよな。こういうのは、後輩に譲るのが良き先輩なんじゃないか?」
煽るように神田部長が言った。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
二年生の先輩方はオロオロしたり、バツが悪そうに俯いたりして、神田部長の言葉に翻弄されている。
(いやいや、止めて。クジなんだから、引く順番なんて関係ないし!)
「いえ、私はーー」
『最後でいいんです。残り物には福があるって言いますし!』そう言おうと思っていたのに、「ーーそうね。じゃあ、はい」三崎副部長の声に私の声は遮られ、目の前にクジ箱を差し出した。
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