第7話
あの後無事花火大会は終わり、箱詰め状態の電車に揺られながら私達は帰路についた。
ちゃんと焼きそばを買い忘れた事でお母さんに少し叱られたが、疲れもあってか家に帰ってからの事を殆ど覚えていない。
花火大会が終わった日から、私達は犯人探しする事なく、自由な時間を過ごした。
夏休みという幸せな時間は一瞬にして過ぎ、今日は夏休み明け最初の登校日。
夏休みで崩れた生活リズムのせいで、気分の悪い中、重い足取りで学校へと向かっていた。
「終、どこ行っちゃったんだろ……」
夏休み最後だった昨日、終は突然、用事ができたと家を出て行った。
すぐ帰るとは言っていたものの、かれこれ1日が経とうとしている。
彼女から外に出ようとしたのは初めての事だ。
「まさか、これが今生の別な訳ないよね」
私は上の空のまま、学校へと向かった。
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学校では夏休みの思い出話が飛び交っており、クラスメイトの大半が肌を焦がしている。
私がその中に参加することはなく、頭の中は終で大半が埋め尽くされていた。
強いて興味を持った事は佐々木が休みだったくらい。
それでも数秒後には忘れ、私はぼーっとしながら最初の授業を迎えた。
時間割は夏休みの課題提出から始まり、国語、数学と授業が続いていく。
初日ということもあり授業は簡単だったが、記憶はほぼない。
(帰ったら終いるだろうか。いなかったら探しに出なきゃ)
帰りのチャイムが鳴ると、私は気の抜けたように風早駅まで急ぐ。
早く終にあって、抱きしめたい。
小走りで風早駅まで着くと、切符を買って直ぐに改札を抜ける。
ホームには珍しく、2人の人が立っていた。
ホームの後ろ側にはフードを深く被って顔のよく見えない男性。
そして手前側には、終が立っていた。
あの髪型、あの顔、青の背丈。間違いない。
しかし彼女の様子がいつもと違う。
スクールバッグを肩にかけ、足には靴下と靴を履いている。
まるで死ぬ前の彼女がそのまま現れたみたいに。
その時、私は何かを感じ取った。
まさか。
私はその場で走り出す。タイミングのいいことに、ホームに電車が入ろうとしている。
「終! 」
私が叫びながら手を伸ばすも、思いは届かず。
私の予想通り、電車が丁度終の前を通過しようとした瞬間、後ろで立っていたフードの男が終の背中を思いっきり押した。
終はその場でバランスを崩し、ホームから飛び出す。
大きな警笛音。しかし突然の出来事で、電車は止まることができない。
彼女の体が半分程電車の影に飲み込まれた頃、ある事が起こった。
今さっきまでホームを見ていた私の目線は突然切り替わりる。
臓器が浮かび上がる感覚、横目には電車が目と鼻の先に見えた。
そして目の前には、フードを深く被った佐々木の姿が。
そういう事か。そうだったそうだった。
私は終を殺した犯人を見つける事ができたが、罰する事はできなかった訳だ。
今まで見て来たものは全て、私の走馬灯。
人は死に直面した時、何とか生きようと頭をフル回転させ記憶を巡らす。
走馬灯は過去の記憶を思い出させる。しかし私の見た走馬灯には、死んだはずの終が確かに生きていて、私の脳に新しい記憶を埋め込んだ。
あの終は一体何だったのか。それは今後走馬灯を研究する科学者達に委ねよう。
さて、そろそろこの長い走馬灯に幕を下ろそうか。
ゆっくりと流れていた時間は動き出し、電車に私の体が触れる。
「……終わった」
この夏の始まり、この夏の終わり。 ニュートランス @daich237
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