第6話

「この浴衣、どうかな」


「めっっちゃかわいいよ。でもそんなに可愛いと、男にナンパされそうで嫌だよお」


「大丈夫。もし私に触れた男が居たらぶん殴ってやる」


「あら、頼もしい」


花火大会には前乗った安芸津駅から、福山駅で降りて直ぐ。


私達が安芸津駅に着くと、花火を見る客が多いのか、駅のホームがいつもより混んでいた。


電車に入ると座れる席もなく、長掛け椅子の1箇所だけスペースが空いていた。


「1人しか座れなさそうだね」


「始が座りなよ。私幽霊だし、立っとく」


「いいの? 」


私は彼女の言葉に甘えて、空いていた場所に腰を掛ける。


「草履が擦れて痛かったんだよね」


隣に人がいるので私は小声で終に話す。


終は背が低く、吊り革を掴むのに苦戦していた。


そんな事情を電車が知ることもなく、いつも通り揺れまくる。


案の定、電車に少し大きな揺れが生じた瞬間、彼女はバランスを崩して、私の背もたれに手を付く形で倒れた。


「「!!!!! 」」


終の顔が寸前まで近づく。後数センチ近づけば唇が当たるくらいに。


「ご、ごめん! 」


「全然、気にしてないから……」


気まずい空気のまま、電車に揺られること1時間半。目的の福山駅へと着いていた。


駅を出ると、花火大会を見るために来た人がごったがいしている。


「人多いね」


「逸れないように、手」


終はそうやって手を差し出す。


「うん」


私達は手を繋ぎながら、人混みの中に潜った。


─────────────────────


今は15時45分。花火は19時からだからまだ時間がある。


花火の上がる芦田川に近づくにつれて、人が多く、露店も増えていった。


「始、あれ食べよ」


そう終が指を刺した先は、りんご飴の屋台。


「分かった」


私は行き交う人を押し除けながら、何とか店の前まで行く。


「りんご飴以外にもブドウとかあるけど、どれにする? 」


「やっぱりんごがいいなあ」


「了解」


私はお母さんからもらった巾着袋から財布を取り出し、代金と引き換えにりんご飴を1つ貰った。


「はいこれ」


「ありがと〜! 一緒に食べよ」


りんご飴を交互に食べ進めながら、次に向かう屋台は射的屋。


「あのぬいぐるみ取って! 」


終が求めるのは台の一番上に置いてある、明らかに落ちなさそうな熊のぬいぐるみだった。


「任せて」


それでも、私に取れないような物ではない。


コルク型の弾は5個。私はボルトアクション式の銃に弾を詰め、ぬいぐるみの右上端を正確に撃ち抜いた。


「──ダメだったねえ」


「全弾当たったんだけどね……」


「始が本気で取ろうとしてくれた気持ちだけで、私は嬉しいよ」


明らかにテンションは下がったが、それからも露店を回って楽しんだ。


橋巻きやたこ焼き、ベビーカステラなどを買って食べ歩く。


気付けば辺りも暗くなり、午後18時半。


私達は花火の打ち上がる芦田川近くまで来ていた。


30分前なのに人が多い。花火に近い所は有料席なので、私達は少し遠くから、立って見ることにした。


「花火楽しみだね」


「本当、夢のようだよ。まさか終と花火が見れる日が来るなんて」


終始無言の間が続く。その間にも私達は手の指を絡ませる。


「夏休み、もう終わるね」


「明日から犯人探し再開しないと……」


「もう良いんじゃない? 犯人探しは」


「ダメだよ。終を殺した犯人を探す事が、終が蘇った理由だから」


「蘇った理由くらい、始に会いたかったからじゃだめなの? 」


「それは……」


「私も何で蘇ったのか分からなけど、私は始とこの夏を過ごせて、幸せだったよ」


俯く私に、彼女は話す。


「この状態がいつまでも続くとは思わないけど、その日が来るまで、一緒に居よう」


終はそう言って、私の唇に優しく口付けをした。


「うん……」


その瞬間タイミングを見計らったように、花火が打ち上がり始める。


有名なクラシック音楽と共に海上で打ち上がるスターマイン。花火の形には飴や人の顔など様々だ。


大きな音と共に花火は開花し、萎れて次の花火がまた咲き誇る。


それは人の人生の始まりから終わりを見ているようで。


私達は肩を寄せ合いながら花火を眺めたのだった。











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