第5話

「なんか嬉しそうじゃん」


午後7時、仕事から帰ってきたお母さんが、夜ご飯を作りながら問う。


「あ、やっぱそう見えちゃう? 」


「まさか……彼氏!?」


「いや〜、違うけど(私の膝の上に乗っている終に顔を向けて)違くない」


「絶対そうだわ。早く紹介してよ。私が見極めてあげるから」


「見極めるって……まあでも、お母さんなら大丈夫かな」


丁度その時、玄関のドアが開き、中へ人が入ってきた。


「お父さん帰ってきたみたい」


そうして玄関から出てきたお父さんは、少しボーイッシュな女性。


「ただいま、お母さん、始」


やはり血は争えないようだ。


──その日から、私と終の夏が始まった。


最初は市内に行ってデートをした。そこでプリクラやボーリング、カラオケ等、一度はやってみたかった事を全てやった。


次の日にはお家デートをした。いつもと変わらない生活なのに、デートだと思うと少し緊張した。


好きな人との時間はあっという間に過ぎて、夏休みは残り1週間という所まで差し迫った。


そろそろ犯人探しを再開しないといけないという中で、ふとYahooでニュースを見ていると、ある記事に目を奪われた。


「花火大会……」


「はふぁみたいかいいくの? 」


終わりは扇風機の前でソーダ味のアイスを食べながら喋る。


「芦田川花火大会、今年もやるんだって」


芦田川花火大会は、毎年8月に開催され、中国地方最大級、16000発もの花火が打ち上げられる。


「ああ、小さい頃家族と1回だけ行ったことあるわ。で、日にちは? 」


「今日」


「行く? 」


「行こうじゃん」


─────────────────────


「──って事だから、お母さん宜しくね」


「あんたさては、彼氏と行くつもりじゃないでしょうね」


「違うって! 」


「じゃあ私達も連れて生きなさいよ〜」


と行くの」


「まあいいわ、どっちにしろ母さん達仕事だし。焼きそば買って来てくれたら許す」


「はいはい焼きそばね」


「あ──それと、私のお下がりになるんだけど、浴衣着る? 」


「着たいかも」


するとお母さんは2回へと上がり、物置部屋のタンスから1着の浴衣を出してくれた。


色は紫で、の柄が至る所に散りばめられている。


「綺麗……」


「綺麗でしょ。これでよくお父さんと祭りに出向いたもんよ。ほら、着付けてあげるからおいで」


突然行く事となった花火大会。それも好きな人と行くときたもんだ。


この夏で諦めていた事が立て続けに実現していった。


こんなに幸せになって良いものだろうかと思う事もある。


夢でも良いから、どうにか覚めないで欲しい。


「──はいっ、終わり」


「おおっ……」


一階に置いてある姿鏡で全身を映した。


服を着るだけでお淑やかな雰囲気を醸し出す。まるで別人のようだ。


「後これ巾着袋、花火楽しみな」


私は巾着に財布とスマホだけ入れて、玄関へと向かう。


勿論履き物は草履だ。これもお母さんに貸してもらった。


「いって来ます」


「いって来まーす! 」


終が私の真似をするように挨拶をする。


「行ってらっしゃい」



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