第2話
「そういえば私と終の家ってどのくらい遠いんだっけ」
「意外と近いよ。6分くらい? だから此処らへんの道はよく分かるんだ」
へえと唸りながら、終の家へ向かう道中、話題は昔話になった。
「終は昔、好きな人とか……いたの? 」
禁断の質問。それでも現彼女として知る必要がある。
「居なかったかなあ。恋愛とか、始と出会う前はちっとも興味なかったから。でも一度だけ、告白された事はあるかも」
「ええ、誰から!?」
「1年生の時同じクラスだった佐々木くん。中学同じだったんだけど、卒業式の日に告白されたの」
「で、答えは? 」
「勿論断ったよ。それでも納得がいってなかったのか、高校生になるまで付き纏われたりしてたけどね」
「何それ怖」
「でもまあ、接触はなかったし、付き纏いもすぐ終わったから、ただ単純に諦めきれなかったんだろうねえ」
終の昔話はとても興味深かった。佐々木は今学校内でモテモテで、そんな彼の失恋は想像もできない。
そんな終の話と引き換えに、私も昔から男性を好きになれなかった事、終と出会って初めて自分が女性を恋人の対象としている事が分かった等、色々な話をした。
「着いたよ」
会話の途中、彼女が立ち止まった家は、建蔽率80%位の3階建RC造で、打ちっぱなしのコンクリートがオシャレな家であった。
私は恐る恐る家のインターフォンを鳴らす。
するとそこから「はーい」という声が聞こえ、玄関の鍵が開く。
遂に終との両親と初対面。玄関に出てきてくれたのは終のお母さんであった。
パーマのかかった長髪に顔にはほうれい線や皺が目立つ。
「あの、終さんの事件についてお聞きしたいんですけど……あ、1年の時、終さんと同じクラスだった始といいます」
同じクラスと聞いた途端、お母さんは警戒心を解いて話してくれた。
「あら、同じクラスの! 取り敢えず、外暑いから中へ入って」
終も一緒に中へ入る。どうやら彼女の姿はお母さんに見えていないらしい。
終のお母さんは私を畳敷の客間へと案内すると、お茶とちょっとしたお菓子まで出してくれた。
背の低い机を挟んで、終のお母さんと対面する形で話が始まる。
「まさか友達が来てくれるなんてねえ、終も喜ぶわ。それで、あの事件について、何か知りたいんだってね」
「はい。今訳あってその事件の事を詳しく調べてて。警察が公式に言ってたのは自殺、でしたよね」
「そうね。確かに自殺で処理されたわ。でも警察が言っていたんだけど、その日、その時間、駅のホームには誰も居なかったらしいの」
「誰も居なかった? 」
「誰も居なかったから現場を見た者はいない。指紋や防犯カメラなどの証拠もない。だから警察は自殺として処理したの」
「じゃあまだ他殺の可能性もあり得ると」
「そうよ。まずあの子が自殺なんかする訳ないじゃない! あの子は優しくて、活発で、私の自慢の1人娘なのよ? 」
終のお母さんは熱意のある口調で言う。
「他に警察から何か情報は貰っていませんか? 」
「残念ながら……本当に証拠がないらしいの」
「そうですか……」
「でも! 私はあの子が自殺なんかしてないと信じてるわ」
「私もそう思っています。何か分かったら、また連絡します」
「でも何故、貴方は今になってこの事件を追っているの? 」
「終さんの事が、男性より凄く好きだから、ですかね」
「あら、終も隅に置けないわね」
大分柔らかく同性の事が好きと伝えたが、お母さんは理解してくれたようだ。
そろそろ帰ろうかとその場を立ち去ろうとした時、終のお母さんが私を袖を掴んで引き止める。
「何でしょうか」
「い、いや……何故か近くに終が居るような気がして、気のせいよね」
「!!!!!!! 」
お母さんとの会話中、息を殺していた終も同時に驚く。
「お母さん、もし終さんとまた会えたら、何て言いますか? 」
「“愛してる”に決まってるわ。突然の別れで言えなかったけど。“この世に生まれて来てくれてありがとう”って、伝える」
「そう……ですか」
私にだけ聞こえる。いつも活発な少女が啜り泣く声が。
私は終のお母さんに別れを告げると、終に私のハンカチをそっと手渡した。
柄はイチゴ柄。花言葉は幸せな家庭。
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