第2話「メガ盛りかき氷と皆勤賞」

2. メガ盛りかき氷と皆勤賞



 八月二日。夏休み七日目。


「いーちにーさーんしー」

「ごーろく、しーちはーち」

明るく爽やかな音楽と声が、アパートの部屋内に響き渡る。

 日にちと、スタートとゴールのマーク、スイカや風鈴といった夏休みを表すイラストが描かれたカードを片手に、紬はタオルで首元を拭う。

「今日でもう、夏休みも今日で一週間目かあ」

 カードの、今日の日にちの部分に可愛らしい犬のシールを貼る紬。僕はリアルなひまわりのシールをチョイスした。

 現在時刻は、午前六時四十分。ちょうど今日の分のラジオ体操が終わったところだ。朝とはいえども、もうすでに暑い。夏真っただ中である今の時期は、本当に暑い。外に出たら溶ける。焦げる。焼ける。ゆえに僕らは、これから一週間はなるべく外出をせずに夏を満喫しようと思う。

「今日はかき氷つくろうよ」

 幼なじみである紬が、氷を作る準備をしながら言う。

「いいよ。まあ昨日も食べたけどね」

「やった。だけどね碧人、今日作るかき氷は昨日とはわけが違います!」

 碧人というのは僕の名前である。

 そして、なにやら企んでいる様子の紬の手には、物凄い量の製氷皿が。

「つ、紬まさか、アレを作ろうっていうのか……!?」

「ふっふっふ、その通り! メガ盛りかき氷をつくりまーす!」

 はじけるような笑顔の紬。それとは対照的に、青白い顔の僕。

「また、あの悲劇を……?」

「ちゃんと気をつければ大丈夫だって」

 六年前、まだ僕らが小学生だった時にそれは起こった。

 その日も今と同じように紬が、「おおきいかき氷たべたい! つくりたい!」と言ったのがきっかけだった。大量の氷を使ってできたかき氷の高さは、なんと

四十センチメートル。しかもそれが二つ。親は出かけていたのでおらず、二人でがんばってそれを食べたのだが、一気に食べ過ぎたせいで頭もおなかも舌も痛くなり、かぜを引いて二日寝込んだ。

「あのとき、お母さんたちめちゃくちゃ驚いてたよね」

「呆れてたよな。かぜひいたのは自業自得よって苦笑しながら言われた」

「うちも」

 なのにまた、紬はそのかき氷を作ろうというのである。

「私たちだって、もう高校生だし。 あの時とは色々変わってるから大丈夫だよ!」

「……それ、フラグ立ってない?」

「気にしなーい、気にしなーい」

 底抜けに明るく、楽しそうな紬を見ていたら、「確かにな」という気持ちになり、メガ盛りかき氷作りを手伝った。

 四時間後、高さ五十センチのメガ盛りかき氷が爆誕した。もちろんそれが二つ。


 そして食べた結果、一日寝込んだ。

「まあ、寝込むのも一日になったしね、十分成長したよ。あははは……」

「……もうメガ盛りを作るのはやめよう紬」

「……そうだね碧人」

 一週間シールの連鎖がたちきられることなく続いていたラジオ体操カードだったが、ここにきてひとつの空白ができ、二人の皆勤賞の夢は潰えた。



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