2:Interlude

「ごめんなさい」

 危うく人にぶつかりそうになったぼくは、すんでのところでそれを躱して小声で謝罪をする。

 しかしすぐに、それが不要だったことを思い出した。

 ぼくはいま、

 そう。ぼくは透明人間だ。

 突拍子もない話に聞こえるだろう。寿司屋に行ったはずなのに急にラーメンが出てきたような感覚。


 ――いや、そういうのは結構あるか。


 でも事実として、ぼくは透明になったんだ。

 しかも、ただ透明になっただけじゃない。

 物体をすり抜けられる。その点で言えば、フィクションでよく見る透明化能力よりも自由度が高い。

 壁を抜ける際に扉を開ける必要がなく、例えば女子更衣室なんかを覗くのも容易である。

 まあ、ぼくにはユズがいるので他の人の着替えを覗いたりなんかしないけれど。


 能力が発現したときのことはよく覚えていない。

 いつの間にかこの異能が目覚めていたし、使い方もなぜかスッと理解していた。

 でも、使い方はわかっても使いどころがわからないというのが正直な感想で、先述の通りぼくにはあまりいやらしい使い方をする予定がないので持て余している。

 絶対にバレないとはいえ、普通に犯罪だし。


 あとは、例えば映画館に無料で入ることができる。

 言ってみたものの、これも犯罪だ。あと、映画鑑賞中は絶対にコーラを飲みたい人間なので、コーラが持てないのは大変困る。

 

 学生の頃ならテストの前日に答案を盗み見ていたかもしれない。


 でも今はもう社会人だ。

 基本的には、仕事に答えはない。

 他社の内部を覗いて企業秘密を持って帰ってくることはできるかもしれないけれど、それも普通に犯罪だ。(カンニングは犯罪じゃないとする)


 とまあ、せっかくの異能を持て余していて、どうやって使おうかしばらく考えていると、ぼくはあるものを目撃した。



――――そこで、ぼくは思い出した。

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