/29フジ 歓迎



〔国の間 谷の底 廃棄渓谷 毒の集積 不要なものらの最終地点

はっぴーばーすでー きぼうのこ〕


最初に。まず語らなければならないことがある。よくよくと理解されているようで周知されていなくて納得できていなくて錯覚してしまう事実を改めて。


魔法の国の固有種と科学の国の固有種は全く別種である。別存在、といってもいい。見てくれこそほとんど一緒であってしまうがために根底の部分の理解が及んでいない節があるが、そも、まるで違う構造をしている。

魔法の国においては六臓六腑の機関で体内を循環させるが、そのうち晶臓と呼ばれる臓器はマナと呼ばれるエネルギーを生成する。これにより魔法と呼称される幻想じみた結果をもって現実を塗り替えるという非凡的特異能力を使役する。

科学の国においては六体五感によって身体を構成するが、そのうち瞳素と呼ばれる機関はエレメントと呼ばれるエネルギーを知覚生成する。これにより科学と定義される幻想じみた結果を現実実現させるという平凡的特異能力を使役する。


いちばんはじめの形が同じだったせいだろう。もちろん個体によって肌の色から始まり瞳、髪、体格、体質、個性と呼ばれる違いは同種にすら存在するが、この2つの種族はちゃんと違う生命構造をしている。

だってマナとエレメントは同じように其々のエネルギーと定義されるがニアリーイコールですらない。魔法道具にエレメントを用いても、科学発明にマナを用いても、けして代替えはできない。


なまじっか見てくれが似ていて、心理言動が似ていて、だから憎しみ合うし愛し合うことすらするけれど、全く違う構造の生き物であるということは忘れてはいけないのだ。



_____科学の国と魔法の国の其々固有種において、両者の血が流れる次世代はそもそもの着床率が低い。ようやく妊娠したとおもったら、今度は異なる種の血に母体が耐えられなくなるか、体内で子が拒絶反応を起こし始める。最早ないといってもいい。あまり気持ちのいい話ではない過程で過去,そういう事案が存在したらしいがやはり子供は生まれなかった。

悲しきかな。そうとも。気持ちのいい話ではなかった。なにせ両国はつい少し前までは戦争をしていたのだから!


もしかしたらこの事象についてロマンチストは愛の力だなんてことを口にするだろうか。果たして、それはそうなのかも知れない。執念じみた物を感じないでもないが、まぁ、それら全てひっくるめて愛でいいだろう。







さぁさぁうまれた。

新時代を担う小さな希望の子ども。

地平線を隔ててわかたれた、始まりだけが同じだったふたつの国。最早相容れず、守られることだけを求めた民たちの願いによって悲劇を産んだ。


形だけの和平など何するものぞ。

混迷を詰め込めた平和のひび割れの音を無視し続けた日常たちから捨てられた谷の底で、確かに生まれた子供こそ新時代の象徴だ。

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