016 リーダー決め
リーダー。それは仲間の命を預かるパーティの導き手。時に力で、時に知恵で仲間を先導するパーティの“強さ”の象徴的存在。ただ力が強いだけでは到底務まらないパーティの
下手なヤツには任せられない。
「ど、どうしようか? 僕は無理だと思うから二人に任せたいんだけど……」
「別に、あなたでも構わないけど?」
「ぼ、僕は無理だよ。度胸が無いし、皆の命に関わる選択に自信が持てないし。なにより、僕は弱すぎる。上層の浅い所のモンスターなら一人でやれるかもだけど……それ以上を倒す力が無いんだよ」
ゼノンが苦笑いしながら述べる。
「だから、二人のどちらかがリーダーに相応しいと思うな」
「……よし、なら俺はセララを推すぜ」
リーダーと聞いて一番最初に思い付いた人物を挙げる。
当の本人、ついでにゼノンの二人は俺の方を目を見開き驚いたように見ていた。
「あ? なんだよ」
なんだ? 不満があんのか?
「……驚いたわ。あなたは自分がリーダーになると言い出すと思ったのに」
「そ、そうだね。ラスカ君は『自分がリーダーだー!』って言うのかと思ったよ」
俺を何だと思ってるんだ。
「……俺じゃリーダーは無理だ。あぁ凹んでる訳じゃねーぞ? 英雄にだって向き不向きがあんだろ。そう言う話だ。俺がパーティを指揮したりってのは難しいだろ」
「そ、そうかな? 何やかんやラスカ君のお陰って場面が多かった気も……」
キメラとの戦いは、俺のやり方でやって失敗した。アレから一週間経った。振り返って思う。俺は何かを考えながら戦うのに向いてないんじゃないのか? 力と、直感に任せた方が強いんじゃ無いのか?
試してみないとわからない。だけど、どのみち俺にリーダーが向いてねーのは明らかだろ。俺は生粋の前衛だからな。
「んじゃ、セララがリーダーって事で良いな」
ふう。リーダー決め終了だ。早かったな。
俺たちのリーダーとなった女を見る。その赤い瞳と目があった。
「――悪いけど、私はリーダーにならないわ」
あ?
「何でだよ? お前は後衛だし、お前の判断で俺達全員無事に今生きてるだろ。セララが一番向いてんだって」
「いやよ」
はー? 何でコイツはムスッとした顔で拒んでくるんだ。
「良いじゃねーかリーダー。俺達をコキ使い放題だぜ?」
「あなた達みたいな英雄バカと爆弾バカが駒なんて嫌だわ」
おいおい、手が出るぞ?
「てか、お前は誰が良いんだよ。嫌だ嫌だだけじゃ無くて代替案をだな――――」
「ラスカ」
「あん?」
「あなたが良いわ。あなたが道を切り
そう来るのかよ。
「俺はセララがリーダーで良いって言ってるんだぞ」
「私はラスカがリーダーで良いと言ってるの」
セララの目を見る。本気っぽいな。
と、それまでの話を聞きながらウンウン頷いてた担任――レイレイが口を開く。
「まあー? リーダーは次学園来る時までに決めとけばいいからさー? それじゃ、私は用事があるから帰るねー」
今度こそレイレイが教室を飛び出して行った。
……と思ったら戻ってきた。
「言ったけ? 言ってないっけ? もう君達だけでもダンジョン上層なら入れるからねー? それだけーバイバイ」
ピューンと走り去って行った。
レイレイの消えた教室で三人話し合う。
「おい、ワガママ言うなよ。お前がリーダに合ってるんだよ」
「ワガママ言ってるのはどちらかしら?」
「あんだよ」
「何よ?」
「ち、ちょっと二人とも、喧嘩しないでドウドウ」
ゼノンが間に入ってくる。
「でもよ」
「このままじゃ平行線ね。話が決まらないわ」
セララの意思は固そうだ。もちろん、俺の意思もメチャクチャ固い。
「そ、そうだ!」
ゼノンが両手を叩いて立ち上がった。何か閃いたか?
「実際にダンジョンに潜ってみて決めない?」
――へぇ。
「良いなそれ。そうすればどっちも納得できるだろ。良いなセララも?」
「良いわよ。それで決めましょう」
こうして、俺達のセカンドダンジョンアタックが決まった。
***
翌日、俺達はダンジョン協会に集まっていた。
「よおラスカ?」「お、ダンジョンに入んのか?」
「あ? そうだぜ」
「おうそうか、気を付けろよ。って言っても、キメラ殺しには無用の心配かハハ」
「ちなみにイレギュラーが起きてる話は聞かねーから安心して暴れてこいや」
「おうサンキューな」
知らない罪人二人組に話しかけられた。
「え、ラスカ君知り合い?」
「あん? 知らねーよ。でもダチってヤツだ」
「は? あなたの交友関係はどうなってるの??」
知らない奴らに話しかけられるのは、割と俺の日常だ。街歩いててても話しかけられる。たまに殴り合いになるが気の良い奴らだ。喧嘩するほど仲が良いって言うしな!
「んな事どうでも良いから早く入ろうぜ。受付も済んだ事だし」
「……あまりどうでも良くは無いけど……まあ良いわ」
「い、行こうか」
「おし、頑張れよラスカ」
知らない罪人に見送られながら、俺達はダンジョンの中へと入って行った。
てか、アイツらこんな朝っぱらから酒飲んでるってどういう事だよ。だからキメラ倒せねーんだよ。はー、これだから罪人は……。
***
ダンジョンの中。薄暗い洞窟を、二人の男が歩いていた。一人は細身で、もう一人は大柄だ。大柄で筋肉質に見える方が前衛で、細身の方は後衛だろうか。
二人とも黒いローブに身を包んでいる。ローブには、自身の尾を喰らう蛇――ウロボロスの紋様が描かれていた。
「……よし、任務を開始するぞ」
細身の男が口を開いた。
「ア? ようやくかよ。どれだけ待たせる気なんダ」
独特なイントネーションで大柄の男が呟く。
「マァ、一人ヤルだけであの才能が手に入るンなら安いモンか?」
「だろうな。……作戦は分かっているな?」
「あたりまえダロ」
「なら良い。“英雄”の力を見せつけてやろう」
――二人は洞窟の奥へと消えて行った。
俺の前世は罪人A!?〜大罪人認定された俺はダンジョンを攻略して監獄都市から脱獄を目指す〜 七篠樫宮 @kashimiya_maverick
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