015 上層ダンジョン講義

 酒場に行って知らない罪人共とはしゃいだり、寮の近くの空き地で剣の訓練をしたり、そんな事をしてる間に一週間が経過していた。


 セララに大見栄を張った手前、何か大きな事でもやらなくちゃとも考えた。が、やっぱり普通に鍛えるのが一番なんだよな。変な事してもあんま意味ない。


 そんなこんなで俺は監獄都市に来て鈍った勘を取り戻したわけだ。


 そして、一週間が経過したという事は、学園が再開するという事でもあり……学園の教室に入った俺は珍妙なモノに遭遇した。


 チビ女が教卓の上に座って頭を下げていた。そう、言わずもがなクソ担任教師レイレイである。


 これには次、レイレイに会ったら張っ倒すと決めていた俺も威勢が削がれた。ちなみにセララとゼノンは既に着席してレイレイを呆れた目で見ていた。


「……よお、レイレイ。なにしてんだ?」


「……これはねー? 『土下座』っていう最上位の謝罪行動だよ。知り合いに教えてもらったんだー」


 間伸びした喋り方はそのまま、真剣な声で語り出すレイレイ。


 とりあえず衝撃から立ち直った俺はレイレイに近づき、ぶん殴――――


「オラッ――――――ガハッ」


「……もー暴力はんたーい!」


 ――れずにぶっ飛ばされた。何だこれ、コレもレイレイの魔法の一種か?

 レイレイは教卓から降りて腰に手を当てて怒ってるポーズをする。


「真剣に謝ってる人を殴るなんてー? どんな神経してるのかなー?」


 あ?


「……どこがだよ。どうせ本心じゃねーくせに」


「あれー? なんか言いましたー??」


「何でもねーよバーカ」


 それより早く魔法を解けよ。立てないんだが?


「よーし、それじゃあ授業を始める前にー、君たちにお詫びでーす」


 え、俺このままなの? ずっと床ペロ状態? あ、なおった。


「詫びって何だよ。こっちは死にかけたんだぞ?」


「んー私も悪いとは思ってるけどー? 君たちならキメラくらい簡単に倒せるはずだったのになーと」


 またそれかよ。レイレイは残念そうに俺達を見渡している。


「その根拠は何だよ? お前が俺達の何を知ってんだよ」


「何も? でも、私の勘が君達ならイケるってさー。次キメラとやったら勝てるでしょー?」


 む。次やったら多分負ける事はないと思う。アレの強みは硬い毛皮と、肉体性能と、三頭流である事くらいだ。気を付ける所は分かってる。俺達三人が揃えばヤレる事も。


「ま、そういう事でお詫びを配りまーす。結構良い値段したからねー」


 そう言うとレイレイは何処からか物を取り出した。剣と指輪と箱だ。


「まずはこの指輪。効果は炎耐性だね。それも強力なヤツ。レトちゃんにあげまーす」


「あ、ありがとう」


「そして、この箱の中には爆弾岩っていうダンジョン産のアイテムが入ってまーす。これはゼノン君にどうぞー」


「わあ、ありがとうございます!」


「最後にこのロングソード。モンスターのドロップ品で作られてるんだけど、とにかく頑丈です。学園支給のヤツとは比べものにならないよー? これはラスカ君だねー」

 

 レイレイが剣を差し出してくる。鈍色に剣身が光っている。少なくとも、俺が振るってきたどの剣よりも凄そうな感じがする。


「……ありがとよ」


 実を言うと、とても嬉しい。何処かで剣は調達しなければと思っていたのだ。キメラ戦で改めて認識したが武器は大事だ。それ次第で戦闘力がいくらでも上下する。


「じゃ、和解も済んだ事でー? ダンジョン講義を開始しまーす。これが終われば君達もダンジョンに入るのが自由になるよー。まあ最初は上層のみだけどね」


 物で釣られた気もしないでもないが、実際に他二人も満足しているようなので無理に突く必要もあるまい。

 俺も剣片手に椅子に腰掛け、授業を聞く事にした。そうしないとダンジョンに入れない→刑期が減らない→罪人のまま英雄になれないってな訳だからな。



 とりあえず、ダンジョンに関する基本的な内容はこの前教えられたのと同じだった。

 この前と異なる、と言うより理解が深まったのは、上層にいるモンスターやダンジョン産の異界の資源についてだろうか。どこら辺の層に、どんなモンスターが生息しているのか、どんな資源を持ち帰るべきか等を頭に叩き込まれた。

 俺は覚えきれなかったので出会ったモンスターは全部倒す。とりあえずアイテムは拾っとけば良いと覚えた。

 

 今回教えられたのはそれくらいか。あぁ、あとはダンジョンの正規ルートについてだ。

 ダンジョンは複雑で、迷宮とも呼ばれている。そんな所に入って帰る為には地形の把握が必要な訳だ。そこで登場するのが正規ルート。長年のダンジョンアタックで判明した出口までの道標。

 正規ルートを覚えてなくても、一層目くらいであれば自力で戻って来れるが、層を重ねるとたちまち迷子になるらしい。

 とりあえず上層の正規ルートを教わった。俺は覚えきれなかった。後で生徒手帳にも送られるそうなのでそれで覚えようと思う。


「これくらいかなー? 上層ダンジョン講義しゅうりょー」


 説明を終えたレイレイはそそくさと帰ろうとする。


「なあ、訓練とかはいらねーのか?」


「えー? 君達は要らないよ。剣の振り方は分かるでしょー? 異能の使い方も爆弾の作り方も分かるじゃーん。なら良いよ。上層攻略できる最低限の実力はあるんだから」


 えぇ、そんなモンなのかよ。


「それに、必要だと思ったら勝手に訓練強制するし。学園に来る日は生徒手帳が教えてくれるからさー、君達は別の事を考えるべきだよー」


「べ、別の事ですか?」

「何かあるの?」


「リーダー決めだよ。学園の仕事を受けるには代表リーダーが必要なのでーす。仕事受けないとー、刑期減らないからねー?」


 リーダー。ダンジョン攻略パーティにもリーダーが必要だと聴くな。どうするか。

 俺達、新入り罪人三人は顔を見合わせた――――。

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