014 罪人談義
「ハハハッ、そんでな? キメラの尻尾をぶった斬ってやった訳よ!?」
「おおぉ!」「スゲェじゃねーか」「そんであんなにボロボロになったんだな」
知らない罪人共によって酒場に連れ込まれ、俺は酒を飲みながらキメラ討伐戦の事を語っていた。初めて飲んだけど酒ウメェな!
「でもなぁ、俺だけの成果じゃねーんだよ。俺の仲間がすごくてな、一人はキメラを丸焼きにして、もう一人はキメラの頭をぶっ飛ばせる爆弾使いだぜ? これがまたスゲェんだよ」
「お前、ソレばっかじゃねーか」「仲間の事好きすぎだろ笑う」「もう酔ってんじゃねーかぁ??」
うるせぇ! 酔ってないやい。
「でも、お前みたいな前衛がいたら相当戦いが楽だと思うぜ。お前のパンチ、めっちゃ効いたもん」
そう語るのは俺の本気殴りを受けた『新人潰し』のおっちゃんだ。復活して一緒に酒飲んでる。気のいいヤツだぜ。
「そうかぁ? そうかもな! なんだって俺は英雄になる男だからな!」
「おおう、その意気だぁ!」「英雄になったら教えてくれよな!」「英雄サマと酒飲んだって自慢するわ!」
あー気分が良い。今ならキメラ野郎もクソ担任教師も片手で
「しっかしよぉ、『新人潰し』」「情けねぇ、これで何敗目だよ」「良い加減勝てよー? お前の前世が泣いてるぜぇ?」
「俺の前世は詐欺師だぜ? 存分に泣いてくれってな!」
「おん? おっちゃんは詐欺師なのか? あの覇気で?」
どんな詐欺師だよ。騙す相手はモンスターってかぁ?
「そうだよ。出来るのは雰囲気を変えるぐらい。騙して脅す為の技術だぜ。モンスター相手にはクソの役にも立たねぇ」
「あ? なんでだよ。あの覇気だったらモンスター逃げ出すだろ」
「あん? ……あぁ、お前まだモンスターについて良く知らねぇのか。アイツら血眼になって襲ってくるんだよ。誰が相手でもな?」
「そうだぜぇラスカ」「めんどくせぇったらありゃしねー」
「だから気を付けろよ。あ、お前の前世は何なんだよ? キメラ殺せるんなら歴戦の傭兵とかか?」
俺の前世だ?
「聞いて驚け、俺の前世は…………」
「「「「ゴクリ」」」」
「罪人Aでーす! ハハハッなんだよソレってなぁ!」
「「「「……」」」」
あ? おい。笑いどころだろ。笑えよ。
罪人共はお互い顔を見合わせている。神妙な表情だ。なんだよ。
「罪人A……?」「判別不能って事か?」「珍しいな」「でも、たまーに居るよな?」「居るな」「レアキャラだ」「レア」「レアラスカ」「レァスカだ」
「なんだよ。なんかあんのか? 俺の前世に」
「ごく稀に居るんだよ。前世がよく分からんヤツが」
「大抵ロクなヤツじゃねーな。英雄でも罪人でもどっかネジが外れてるヤツに多い」
「でもラスカは普通のヤツに見えるよな。お年頃ってヤツだ」
なんだコイツら。急に真面目な顔で話しだして。酔っ払ってんのか知らねーけど受付のねーちゃん見て鼻の下伸ばしてたの知ってるんだぞ。
「よーし、ラスカの前世はどうでも良いや。分からん。以上!」
「えぇ。お前らが聞いてきたんだろ」
「だって分かんないもん。それよりキメラの話しよーぜ!」
おっさんが可愛こぶってもキモいだけだぞ。
「てかさ、一層にキメラってあり得なくね?」「それな」「キメラって……えーと、何層だ?」「五層じゃね」「いや十層あたりだろ」「上層が十層までなんだから、そこら辺にいたはずだ」
そんな下にキメラ居るのかよ。なんで一層目になんか上がってきたんだ。
「イレギュラーってヤツだな。たまに、下の方にいるモンスターが上に上がってくるんだよ。んで、それに釣られてモンスターの大移動が起こって地上にまでモンスターが出てくるのがスタンピードってヤツだ」
「地上に出てくんのか? モンスターが?」
「そうだぜ。そうなったら戦えるヤツは全員駆り出されんだよ」
て事はあれか? いつモンスターが溢れるかもしらない場所で俺達は暮らしてる訳か。怖っ。
「でも、イレギュラーにしてはおかしいだろ」「なんでキメラだけが一層まで来たんだ?」「誰かがやったとか……な?」
「誰かって誰だよ」
「そりゃあなぁ?」「英雄旅団だろ」「最近噂が多いよな」「この前の放火事件もアイツらの仕業って話だぜ」
――英雄旅団? なんだその心踊りそうな言葉は。
「おいラスカ。目ぇ輝かせてるとこ悪いが英雄旅団は罪人の集団だぜ? 知らねーのか?」
「は? 罪人? 知らねーよ」
英雄旅団なのに罪人の集団なのかよ。
「常識無さすぎだぜラスカァ? 英雄旅団は世界中を荒らしてる罪人の集団でな、この監獄都市にソイツらが潜伏してるっつー噂があるんだよ」
「へぇ」
「キメラを一層にやったのもソイツらじゃねって話だ」「割とあり得そーだよな」「普通にやると思うぜ」「今、有力な罪人パーティはほとんど出払ってるしな」
罪人共は真剣な顔で話あっている。忙しないヤツらだな。
そんな罪人共を尻目に俺は一つ、気になった事があった。
「なあ」
「あんだよ」
「キメラって上層に出てくんだよな? 上層に出るくらいの強さって事はベテランなら誰でも倒せるんじゃないのか?」
キメラは強かった。上層でも上の下に位置すると言うのも納得だった。でも、だ。俺がちゃんとした武器を持って、仲間を引き連れたら倒せそうな強さでもあった。
第一、上層での強い、だ。もっと下の層に潜ってるヤツなら簡単に倒せるんじゃないか? それこそ
「あー、そこら辺も知らねーのか。」
「なんか理由があるのか?」
「シンプルにキメラは強いんだよ。倒すのには十層を越えれるパーティが必要だ。で、上層を抜ける最初の関門、十層を超えれるダンジョン探索者はこの監獄都市の探索者人口の半分くらい、いや、もっと居るか? まあ、数がいねーんだ。そんだけ、ダンジョン攻略ってのは難しいし、才能に左右されちまうモンなんだよ」
――何だと?
「ハハッ! 今酒場にいるヤツは上層の浅い所を潜ってその日暮らし。この監獄から出る気もねーヤツらだぜ。もちろん、俺も含めてな」
知らない罪人が疲れ果てた表情で俺に語る。この監獄都市の仕組みを。
「おおい? お前と同じにすんなよぉ?」「俺は一旗あげて故郷に帰るんだよ!」「そうだそうだ!」「この腰抜けが!」
「うっせーよ! どうせ俺とお前ら全員仲良く監獄都市で暮らしてくんだよバーカ!」
「あん? やんのか!?」「バカって言った方がバカ何だよバーカ」「バカはてめーだこのアホ」
知らない罪人共の喧嘩が始まった。
俺は我関せず、『新人潰し』のおっちゃんと酒を飲んでいた。ウメェ。
「初めて飲んだがウメェなこの酒ってヤツは!」
「おいおいラスカ、そろそろ辞めたほうが良いんじゃねーか? 酔ってるだろ」
酔ってねーの! まだまだイケるぜおりゃあ!
「ハッハッハッ……、ガッ」
イッテェ。
「あ、悪いなラスカ」「ボヤッとしてるおめーも悪い」「おい、今殴りやがったなぁ!?」
――ハッ。
「てめぇら全員やったらぁ! キメラをぶっ飛ばした俺の神の腕、試してやんよ!?」
俺は知らない罪人と殴り合った。コイツら弱い。いつしか俺対知らない罪人共(追加でドンドン湧いてくる)の構図になっていた。
「コイツ、強い……!」「これがキメラ殺し……最新の英雄!」「……いやマジで強いんだが?」「誰か止めろよ」
「ハッハッハッ! かかってこいや!?」
たのしい。
「なにぃしてるんですかぁ?」
「あん? 次はお前か?」
振り返る。そこにいたのはデカい乳……ではなく、俺を監獄都市に案内したあの女だ。あの時は髪の色が翡翠だったが、今は青っぽくなっている。見る角度によって髪色が変わるってヤツかぁ?
「ヤベェ、ニャルだ」「逃げろ」「倒れてるの叩き起こすか?」「ほっとけそんなの!」「ラスカも早くしろよ!」
知らない罪人共が蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。なんだ? やっぱりヤバいのかこの女。不気味なヤツだとは思うが、逃げ惑うほどか?
よし、俺も逃げ――――
「待ってくださいよぉ」
――れない。
「そう言えば〜、自己紹介がまだぁでしたねぇ?」
「あの、自己紹介とか良いんで帰っても?」
「私はぁ、ニャル・レリイエと申しますぅ」
無視ですか。
「こんなに酒場で大はしゃぎして〜? どれだけ苦情がきたとおもってるんでぇ?」
酔いが覚めた。
ヤバいぞ。おっちゃんの覇気が子供の
「お、し、お、き、でぇす」
――俺は深い海に包まれてた。と言っても、海ってのを俺は話でしか聞いた事がない。なんかとてもデッカい水溜まりなのだとか。
けど、感覚で分かる。これが、ここが海なんだ。
俺は広い、深い、蒼い海を一人で漂っていた。
いや、一人じゃなかった。
無数のナニカが俺を見つめて――――
***
目が覚める。
「あー、確か昨日は……」
酒場に行ったんだ。知らない罪人共と仲良くなって。そんで……そんで、何、したっけ。思い出せねぇ。てか、頭が痛い。グラグラする。これが二日酔いってヤツか?
今日は休もう。鍛えるのはその後でいいや。俺の知ってる英雄も休む事は大事だって言ってたからな。吐きそう。
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