011 サントウリュウ
駆ける。駆ける。駆け抜ける。限界まで魔術を行使する。足を踏み抜く度、血が滲む。
俺の事はどうでもいい。ただ、ひたすらに願う。間に合ってくれ、と。
狭く、薄暗い洞窟を縦横無尽に駆け巡る。
遭遇したモンスター――ゴブリン共は片手で捻り殺した。あの剣を振るうよりも楽だった。幼馴染――リリアも言ってたっけか、俺は技を使うよりも、力でゴリ押した方が強いって。
今更になってそれを実感した。全てが遅すぎたが。
――長い長い洞窟道の先、あの広場へと飛び出す。
俺の目に飛び込んで来た光景は、最善とは言えなかった。けど、最悪でもなかった。
今にも襲い掛かろうとしているキメラの姿に、その前にへたり込む赤髪の少女――レトの後ろ姿。肌は焼けて赤く染まり、服は焼け
――どうすればいい?
剣を探す余裕はない。
――どうすれば救える?
それなら――俺が武器となればいい。
瞬間、全ての音が消えた。世界がスローモーションになる。
――両手両足に光の魔術を最大出力でかける。
この手足がどうなろうとも。
――強化された脚力で地面をぶち抜く。
足が血に染まった。
――レトとキメラの間に降り立つ。
痛い。痛い痛い痛い。
――喰らいつかんとする双頭を両手でぶち上げた。
痛い、けど、レトはもっと痛かったはずだ。
――右足を振り抜いた。
キメラがぶっ飛び、俺は俺の返り血で鮮血に染まった。
音が戻った。キメラが地面に激突した衝撃が洞窟中に鳴り響く。
後ろ、キョトンとこちらを見上げるレトに笑いかける――ちゃんと笑えたかは分からない。
「……悪りぃな。遅れちまった。全部俺のせいだ。ここを出たら幾らでも罵倒してくれ。けど、今は先に――――
キメラを見据える。フラフラと立ち上がろうとしているが上手くいってないのが見てとれる。
俺の肉体を代償に捧げた一撃は、確かに痛手を負わせれたようだ。なんならキメラ戦で一番の大打撃かもしれない。
今のうちにレトを端の方に持っていく。緊張が解けたのか、気絶しているようだ。ついでにレトの持ってた剣も回収した。
そうこうしてる間に立ち直ったキメラと相対する。
さて、どうしようか。一つだけコイツの倒し方を思いついたが、その為のピースが足りて無い。というか置いてきちまった。
キメラはこちらを見据え、唸りを上げている。その瞳に宿ってるのは怒りか、はたまた別の何かか。
相手のダメージは抜け切って無いように見える。ところどころ焦げ付いており、俺の打撃込みで負傷は十分。ほとんどレトの功績だ。
そうだ。レトの功績。レトはスゲェな。俺達三人合わせてもやれなかった相手に一人で立ち向かって。今日初めて会ったよく分からん二人を逃す為にだぜ。
キメラをここまで追い詰めれたんだ。一人で逃げるくらいならどうとでもなったはず。それなのに立ち向かった。
――なぁ、まるで、俺が焦がれた英雄みてーじゃねーか。
対して俺はどうだ?
今日は集中力が、思考が足りてねぇ。よく分からん凡ミスをするし、ご覧の有り様って訳よ。
自問自答する。
――こんなんで、英雄なんてなれるのか?
キメラが襲い掛かってくる。
――いいや、なれるわけがねぇよ。
キメラの突進を避けつつ、すれ違いざま右手の剣で斬撃を、左手で殴ってぶっ飛ばす。
――見えたな、攻略法が。
「ハハッゴリ押しだ。馬鹿野郎め」
俺の肉体と、お前の肉体の限界を比べてみようか。
けど、俺はもうボロボロなんだよ。
――だから、サッサと来てくれよラストピース。
右。左。今度は後ろに下がって蹴り飛ばせ。
キメラを捌き続ける。攻撃は当てれてる。けど、決定打が足りて無い。
キメラは攻撃する度、俺からのカウンターで削られて。
俺はカウンターする事で削られてる。最早、頭の悪い根比べだ。
集中力が切れた方が喰われ――――
「ラスカ君!!」
――来た。
左足を限界まで強化して、キメラをぶち抜く。コレで両足がアウトだ。もう蹴り技は使えねー。
吹っ飛んだキメラを無視し、声の主――ゼノンの下に駆け寄る。
「よく来てくれたな、ゼノン。手短に言うぞ。レトは無事……とは言えねーがあそこで生きてる。お前はレトの保護をしてくれ」
「……わ、分かった!」
「あと、爆弾くれよ。爆弾」
「えっ?」
「キメラをぶっ殺す。爆弾必要。OK?」
「お、おーけー」
ゼノンから爆弾を受け取る。ついでにレトの保護を頼んだ。
コレで――――
「ピースは揃ったぜ、キメラ野郎」
キメラも俺もフラフラだが、やってやる。ここらで幕引きといこうじゃねーか。
俺は思い返す。さっき気絶した時に見たよく分からん夢を。昔聞いた英雄譚か、それともキメラを倒す為に俺の脳みそが見せた幻か。毒を飲まそうと知恵を振り絞った英雄のように、俺も知恵を振り絞ろうか。
「考えたんだがよ」
キメラが飛びかかってくる。
「外が硬いんなら、中はどーなんだ?」
それを避けながらぶん殴る。
「体の中を鍛えられる生き物なんて聞いた事ねーよ」
だから、俺の作戦は単純。
「グギャァアアオォ」
大口開けたキメラの双頭――獅子と山羊の頭に、爆弾を放り投げた。
「ゴブリンくらいならぶっ飛ばせる爆弾。よーく召し上がりな。そう言えばお前、食事中だったしな!」
体の中から壊してやるよ。毒はねーから爆弾で勘弁な!
キメラの口に入り込んだ爆弾達が、炸裂した。俺の体にも震動が響いてくる。どんな威力だよ。
閃光が収まる。キメラの双頭は黒焦げになり、バタンとその巨体が倒れた。
「ハハッコレで俺の、俺達の勝ちだぜ……」
よし、レトはどうなってんのかな。ゼノンはやってくれたか。
――あん? 膝が、てか足が動かない。
俺はその場にへたり込んだ。
――ハハッ暴れすぎて身体がボロボロじゃねーか。緊張も解けちまったってか?
クラクラする頭の片隅で声がした気がした。
俺達が通った洞窟の道にゼノンが見える。なんか必死に声を上げて後ろを指し……後ろ?
「な、に?」
後ろ、信じられない光景が広がってた。
キメラが立っていた。黒焦げの双頭を持ち上げ、のそりと歩き去っていく。俺達が来たのとは別の道へと向かっていく。
頭にいろんな考えが浮かぶ。なぜ? 頭が破裂してんだぞ? そう言えばドロップアイテムがでてねーな? キメラはゴブリンとは違って塵にならなかったから?
そして、思い返す。学園で見せられた画像を。『キメラは獅子の頭と山羊の頭の双頭に、蛇の尾を持つ四足歩行生物』。この、蛇の尾が、『単なる装飾としての蛇の尻尾』ではなく、『蛇の頭を含めて尻尾になっている』という事だったら。
つまり、キメラが獅子と山羊と蛇の頭を持つ三頭流の生物だったのなら。
――歩き去るキメラの尻尾を見る。そこには蛇の頭がついていた。蛇はチロリと舌を出している。
――あの蛇は生きている。
なるほどなァ。
今日は何度限界を越えれば良いんだろう。もう動かないと訴える身体にムチを打ち、立ち上がる。
さて、相手は尻尾とはいえあのキメラの一部、単なる攻撃じゃ倒せない。爆弾はもう無理だろう。蛇の口にピンポイントに入れる自信も余力もない。
じゃあ、どうするか。
「どうせコレが最後だ。派手にいこうか」
俺には切り札がある。そんな大したモノじゃ無いが、幼馴染――リリア曰く『剣士にとって外道の技』なんだとか。
今からやるのは俺が自分自身にやったのと同じ事。
つまり魔術の限界重ね掛け。対象はこの
「ハァ……行くか」
駆ける。
俺の接近に気づいた蛇キメラ野郎が肉体の速度を上げた。
遅い。遅すぎる。ボロボロの俺ですら追いつける速度。既に相手は瀕死か。
「じゃあなキメラ野郎。『
その魔術の効果は単純、ただの性能強化。限界まで重ねられたその魔術は、たった一度の奇跡を許す。即ち、自身の武器の破壊と引き換えの絶大攻撃強化魔術。
――剣が崩れていく。
蛇の頭が飛んでいき、キメラの巨体が塵になっていく。
俺達を苦しめたモンスターは大きめの魔石と、ドロップアイテムに変わった。
ドロップアイテム――キメラの獅子の頭。何に使うんだよコレ。
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