008 VSキメラ

 てな訳で、ダンジョンに入って早々ゴブリンに遭遇した俺達。無事、コレを殲滅して魔石を回収したところなんだが……、


「なあ、役割を決めよーぜ。敵に出会う度考えてたら面倒だろ。あと各自、何が出来るのかも知りたいな」


 そうだ。俺達は何も考えずにダンジョンに入った。ていうか、放り込まれた。特に何も決めていない。他の二人が何を出来るのかも知らない。

 今回はただのゴブリンだったが、ヤバいのが出てくる可能性も考えられる訳で。


「そうね。私は後衛かしら。出来る事は異能の行使。こうやって、焔を操る事が出来るわ」


 レトはそう言うと両手に炎を浮かばせて操り始めた。身体にまとっても肌や服が焼けたりしていない。完全に制御してるんだろうな。


「ぼ、僕は皆さんみたいな特殊能力は無いんですが、色んなものを作れます。特に爆弾を作るのが得意で……今もダンジョンに入る前に作ったのが幾つかあります。だから、後方支援とか、出来るかなぁと」


 そう言ってゼノンは懐から小さなお手玉みたいなのを出した。おそらく、この小さいのが爆弾なのだろう。衝撃で誤爆したらどーすんだ。


「俺は剣術が得意だ。あと、光の魔術を使えるんだよ。だからまあ、前衛って事になるな。前衛一人に後衛二人。後もう一人、索敵担当でもいると完璧なんだが、高望みか。よーし。俺が出会ったモンスターに斬りかかるからお前らは後方援護。そういう作戦でいこうぜ。あと――――」


「ゼ、ゼノン君は戦闘に関しては詳しいんだね……」


「ちょっと。さっきの戦闘音でモンスターが集まってくるかもでしょ。目的のヤツもまだ見つけてないんだから急いで離れるわよ」


 ――お、おう。俺の戦闘論はもういいのか? 良いのか。そうか。


 気を取り直して俺達はダンジョンを進んだ。

 今回のダンジョン探索には明確な目標がある。別に初回だからといって慣れる為〜なんて理由ではない。

 

 キメラ。このダンジョンの上層にいるモンスターの中でも中の上、或いは上の下に入るらしい危険な生物。一層目に限るなら最上位に位置する怪物。あの担任――レイレイが勘で測った俺達の力量でギリギリ倒せるらしい相手。

 

 初っ端からそんな危険な相手に挑ませるなと言いたいが、じっちゃんの英雄譚の英雄達は高い高い壁を乗り越えて実力を手に入れていた。そう考えると俺にとって最適な相手なのかもしれない。


 しかし、キメラか。ダンジョンに入る前に見せられた画像によると、獅子の頭と山羊の頭の双頭に、蛇の尾を持つ四足歩行生物のようだ。なんというか強そうだったけど、頭が二つあるとか不便なんじゃないだろうか。

 

 ちなみにレイレイから教えられたのはそれだけだ。何らかの特殊能力持ちかもしれないし、変身したりするかもしれない。つまり、俺達の未知に対する適応力が試される訳だな。


 ***


 ――道中出会ったゴブリンやら何やらを見敵即殺しながら進んだ先、広場のような場所にヤツはいた。


 広場の中心。獅子の頭は顔を赤く染め、一心不乱に足元にあるナニカを食らっていた。おそらくモンスターの死骸であろう、既に原型を留めてないソレを熱心に貪っている。そして、山羊の頭は周囲を見渡し、警戒をしている。


 ――キメラだなぁ。

 広場には戦闘痕がある。何処のどいつかは知らないが、キメラとやり合って負けてエサになったのがいるようだ。さしずめ、勝利の美酒を味わってる最中ってところか。

 てか、今山羊の目と合ったよね? それだけ食べる事に夢中って訳か? それとも――俺達なんか眼中に無いって訳か。ハハッ、バレてんなら仕方ねーよな?


「よお、お食事中失礼するぜ?」


「え、ちょっとラスカ君!?」「あなた何して!?」


「未来の英雄のお通りだ。ちょっと――」


 ――俺の糧になってくれよ。


 やはり、キメラは俺達に気づいついたのだろう。何の驚きも無さそうに、のそりと立ち上が――――なんか怒ってね? なんでだ? あっ、お食事中だからか。そら邪魔されたら怒るよな。俺ならキレてぶん殴ってるところだ。え、やっぱり後で戦います? ダメ? そうか――なら死に晒してくれよ!!


「グガァァァァアアアオオオォォ!!!!」

 

「ハハッ戦闘開始ー!! 突撃ィー!!!」


「ちょっと何してくれてんのよ!!」


「えぇ準備が、覚悟ができてないよぉぉお!」


 俺は光の魔術で身体能力を強化した。

 よし、ゴブリンみたく、三枚下ろしにしてやんよ!


 ***


 数分後。俺は地獄を見ていた。キメラコイツ、刃が通らねぇ。

 そらそうか。ゴブリン最弱と同じ硬さの訳がない。それに、キメラ自体の硬さもさることながら、俺が持ってる支給された剣自体の出来が悪い。魔術の通りが悪い。

 何だこのなまくら剣。ゴブリン位ならまだしも、キメラ相手に挑ませるなよ。あの担任――レイレイはそれも込みでキメラに挑ませてんのか?


 レトの炎も、ゼノンの爆弾も足止め代わりの牽制にしかなってねーし、キメラも段々学んできている。俺達に決定打がねー事に気付き出してる。

 その事は俺だけが気づいている訳じゃない。他の二人も薄々察してる。


「……ねぇ、このままだと負けるわよ」


 前衛は俺一人。限界は刻一刻と近づいている。俺の体力が、ではなく、剣の耐久の限界だ。


「だな。ここらで打撃を与えねーと」

 

 俺は飛び込んできたキメラの攻撃をいなしながら答える。あ、今ビキって言ったぞこの剣。素手でキメラとやり合う事になるのか……?


「ば、爆弾の数も少なくなってきてるよ! 一回下がらない? 撤退した方が良いよ!」


 撤退。その二文字が頭をよぎらなかった訳では無い。では、何故選ばないのか? 理由は2つある。

 

 一つ。キメラから逃げられるか分からないから。相手は食事を邪魔されて怒り心頭だ。おめおめと逃げさせてもらえるのかって話だ。あとはシンプルに俺以外の後衛二人の身体能力の問題。確実に追いつかれる。


 二つ。もしキメラを倒せずにダンジョンから出てきたら? あの担任は絶対に馬鹿にしてくる。『あれー? やっぱり負けちゃったかー。学園なんか無くて良いって言ってたのに負けちゃったかー。それともあれかな、私の見立てより君達が弱かったのかなー?』ってな感じで煽ってくる。あれはそういうタイプの女だ。根に持ちやがって。


 だから考えろラスカ・テリオン! どうすれば良い!? こんな英雄譚の序盤も序盤、プロローグすら始まってない所で負けんのか??


 俺は自分自身を鼓舞し、対策を考える。

 

 相手は双頭の獣、能力は不明! 今も襲ってきてはいるがキメラ野郎には余裕がある。本気じゃない。食前の運動程度の認識なんだろう。

 

 対して俺達はジリ貧。手札はレトの炎、ゼノンの爆弾、俺の剣術というか身体能力! 一応俺には切り札がある。効かなければ即敗北する類のギャンブルみたいのが。切るにしてもここぞというタイミングを身計らないといけないのが。

 炎は効かない。俺の剣術はこの剣じゃ万全に使えない。なら爆弾か? 爆弾をどうすりゃ良いんだ。

 キメラ。双頭。爆弾。炎。剣術。切り札。英雄――――


「「「あ」」」


 誰の声か、はたまた全員の声か。

 とりあえず、考え事をしてた俺は致命的なミスを犯した。

 言い訳だが戦闘にはリズムがある。相手がどう攻撃してくるかを読む技術とも言えるかもしれない。俺は相手のリズムを研究して戦うタイプだ。幼馴染――リリアの攻撃に反応する為に鍛え上げられた、俺が得意な戦闘術。

 故に、急激なリズムの変化に弱くなる。受け身にまわってしまう。

 キメラとの戦い、俺はリズムに慣れてきていた。いや、慣らされていた。

 

 結論を言おうか。キメラはわざと攻撃のリズムを崩して俺の隙を突いてきた。視界の端、あの獣の顔からは愉悦が溢れていた。

 キメラの突進で俺は吹き飛ばされ、洞窟の壁に激突し――――――気絶した。


 

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