004 俺の前世が罪人Aな件について
扉の先、暗闇を進む。前後左右も分からない。前に進んでるのか、後ろに進んでるのか。もしくは同じ場所をグルグルしているのか。
何も知覚できない道をただ歩む。
数分にも、十数分にも感じる時間の中進み続けると、急に視界が広がった。明るい。暗闇に慣れたせいで目を開きにくい。
目を細めて、数瞬待つ。
――そこは白い空間だった。
どこまでも広がっているようにも思えるし、とても狭いようにも思える不思議な場所だった。
そして、部屋の中心には石板が浮かんでいる。何も書かれていない黒い石板。
俺はどうすれば良いのか分からず立ちすくんでいた。
【進め。石板に手を】
どこからか声がした。子供の様にも、老人の様にも、青年の様にも、男とも女ともとれる声。
頭がボーッとしてくる。
俺は何も考えられず、ただ足を動かしていた。
浮かぶ石板の前に立ち、片手をその上に置く。
【汝の名を答えよ】
――名前。リリアから貰ったソレと、昨日一晩中考えたあの名前……。
「俺の名前は……、ラスカ・テリオン。英雄になる男の名前、だ……」
【そうか。ラスカ・テリオン。汝の前世を、その功罪を教えよう】
俺の前世……。頭が働かない。モヤがかかったかの様に動かない。
石板が黒く光っている。
【汝の前世、は……な、なん、ji蜑堺ク繧「】
「……は?」
頭のモヤが一瞬で晴れた。何だこれ。壊れやがったぞ。
【繝ォ繝?繧ェウ】
「どーすりゃ良いんだ」
老若男女を一つにまとめたかの様な声は、よく分からない言葉を喋り続けていた。頭に直接響く感じで、とても気持ちが悪い。
「てか、石板から手が離れねぇ」
さっきから試しているが、手が石板にくっついて離れない。イレギュラーか? イレギュラーだよな、これ。
「あ?」
足音が聞こえる。一人じゃない、複数の足音だ。
――おいおいおい、どうなってるんだ。敵か? 片手で戦えって事か?
「やっぱりか」「そうだと思った」「どうしようか」「決まってる」
「な、に?」
気付いたら俺の周囲に四人の白頭巾が立っていた。
それだけでもいつの間に? って感じだが、それ以上に気になるのは、俺が扉の中に入る前に話しかけてきた
分身ってやつか? じっちゃんの英雄譚にも出てきた気がする。
【蜑ク悶?繝ォ翫?繝Μ繧ェウ】
「なぁ、これどーなってんだよ。壊れてるぞ」
「壊れてはない」「だね」「つまり正常」「異常は君だけ」
――何言ってんだコイツら?
白頭巾共は互いを見やり、頷くと俺の方をジッと見てきた。頭に頭巾を被っていて顔は見えない、視線も分からない。そのはずなのに見られている感じがした。
「とりあえず」「君は」「眠ると」「良い」
「あ」
……何、だよ、これ。眠くなってくる。意識が保てない。クラクラとしてくる。催眠術ってやつか? いや、そんなもんじゃない。もっと凄いや、つ……。
【蜑悶?繧――自己修復完了、ラスカ・テリオン。汝の前世は罪人A】
――意識が落ちる寸前、俺の前世が判明した。罪人Aって何だよ……。
***
――ガタンゴトンと、身体が揺られている感じがする。アレだ、じっちゃんの車に乗っている時と同じ雰囲気だ。
閉じていた目を開く。魔動車の中だろうか。窓から見える景色がグングンと後ずさって行く。俺は後ろの席に座らされていた。
――少しずつ思い出してきたぞ。あの白頭巾共め、なんかしやがったな。
「あ? 起きた?」
白頭巾への恨みを心に刻んでいると、話しかけられた。後部座席には俺しかいない。つまり話しかけてきたのは前に座ってる
「あ? 誰だよお前。俺を連れてどこに行く気だ?」
気持ち強気に出る。こういう時は舐められたら負けだってじっちゃんも言っていた。
あと、今気づいたが手が座席に固定されていて動かせない。何だこれ。まるで――――
「あー、やっぱり命名式で暴れた口かー。君はね、罪人的前世保持者として認定されたんだよ」
罪人。俺が?
「待て待て待て、俺は英雄になる男だぞ。罪人な訳ないだろ」
「いや、罪人なんだって。そんで、君はこれから監獄都市に送られる所なの」
監獄都市? 何だソレは。
「監獄都市って何だよ」
運転手は前を向いていて顔を見る事はできないが、呆れたような雰囲気を俺に向けていた。
「え? そこから? ……世間知らずにも程があるでしょ〜。監獄都市ラライバ。君みたいに前世が罪人って認定された人がいく都市だよ」
「ララバイ?」
「
――なるほど?
俺の前世は罪人A。まあ、罪人と言われればそうなんだろう。んで、これから向かうのは罪人認定された奴らが暮らす街で? そこで前世の罪に応じた刑期を過ごすまで出られない? そうか。まあ、仕方ないな。監獄都市で頑張ってやる――――
「ってなるか!? サッサと俺を降ろせよ! てか出られないって何だ?? じっちゃんにもリリアにも会えねーって事か? あん??」
「こら、暴れない暴れない。じっちゃん? 家族かなんか? それこそ刑期をゼロにすればまた会えるし、英雄的前世保持者の中には監獄都市の出入りが自由な人も居るらしいし。あ、家族が英雄だったりする?」
なんだこの、こなれた対応。気に食わん。
「サッサと降ろせってんだ! 手が出せないと思ったら大間違いだぞ」
――何だって俺には光の魔術があるんだからな!
「あーあーうるさいな〜。あ、このボタンだっけ。ポチ」
「グガガガ」
――し、痺れる。何しやがった、コイツ。
「着くまで寝ててよ。着いたら起こしたげるから」
――意識が落ちて行く。本日二度目だ。またかよ。ふざけんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます