最終話 2度目のメジャーデビュー

 音楽レーベル「サニーミュージックレーベルズ」がメジャーデビューしたい若者を募集するオーディションにパンセ×パンセの4人が臨んでいた。

 総勢80組以上の応募があり1次審査であるデモテープ審査、2次審査の面接を経てパンセ×パンセは最終審査であるライブ審査まで勝ち上がっており、全てが終わった後の最終結果が告げられる。


「グランプリに輝いたのは……『Flame』です! おめでとうございます!」


 会場から拍手が沸き起こるが、それはパンセ×パンセを祝福した物では無かった。




「あーあ。グランプリ、取りたかったなぁ」


「審査員特別賞は受賞出来たから良かっただろ? 今までは1次審査抜けがせいぜいだった俺たちが賞をもらえるだけでも大したもんだよ」


 パンセ×パンセはグランプリこそ逃したが審査員特別賞は受賞出来て、今後は特別審査員として参加していた音楽プロデューサーの指導を受ける事となった。

 以前では1次審査を抜ければいい方だった彼らからしたら大躍進だ。




 数日後、早速そのプロデューサーと音楽性について話し合いが行われた。


「うーむ……『売れる音楽』ですか。今までは『弾きたい音楽』を優先して作ってたんですけど結構難しいですねぇ」


「『自分が弾きたい音楽』を作りたいっていう気持ちは分かるけど、プロになるって事は稼がなくてはいけない、利益を出さなくてはいけないって事だ。

 人によっては一生慣れないかもしれないけど、そこがプロとアマの最大の違いだ。だから『売れれば何してもいいのか?』とよく言われるけど、

 法に触れるとか倫理的に問題になる事をしているわけでなければ『売れれば何をしてもいい』っていうのがプロって奴だ」


「……プロになるって思ってた以上に難しいんですね」


「そう思ってくれるだけでも優秀だな。これから『パンセ×パンセはプロになって大衆に媚びを売るバンドに成り下がってしまった』だなんて言われるだろうが、そこで折れちゃダメだ。

『プロは好きな事を好きなようにしてるだけなのに、お金も名誉も地位も手に入って周りからちやほやされるから、ストレスゼロで羨ましいですよね』っていうやっかみを入れる連中も、君たちが考えているよりもはるかに多いんだ。

 いくら売れてるプロでも『カネはあるけどヒット作は出せない! 俺たちの実力はこの程度なのか!?』って散々苦労しているし、中には悩みぬいた末に自殺までしてしまうバンドマンもいるからな」


 他にもメジャーデビューと言うと「ゴール」と思われがちだが実際には「2年以内に一定以上の成果を出さないとクビになるという新たなレースのスタート」でしかない。

 とも口を酸っぱくして言われており、つくづく夢と現実は違うものだと分からされていた。




秋人あきとは前にプロデビューしたこともあるから結構慣れてる感じか?」


「まぁな。似たようなことは前の担当から散々言われてたよ。特に『メジャーデビューはゴールではなく新たなレースのスタートに過ぎない』ってのは何回も言われたよ」


「プロになるって、思ってたのと違うなぁ」


「だろうな。それで辞めてくバンドマンの話は結構聞くよ。思ってたのと違う、って言いだしてな。カネの問題もインディーズの頃とは違ってかなりでかくなるし、カネの問題で揉めに揉めて解散。なんてこともあるからな」


 秋人は前のバンドでメジャーデビューしたので、その辺の問題をよく分かっていた。その教訓をパンセ×パンセのメンバーに伝えているが、彼らなら乗り越えられそうな雰囲気はあった。




 そして……オーディションから1ヵ月経ったパンセ×パンセのライブ……事前に「重大な発表がある」と予告していた物の本番がやって来た。


「今日はみんなに伝えたいことがある」


──ザワザワザワ……


 重大な発表とは何か? ファンが大いにざわめく。


「俺達「パンセ×パンセ」はメジャーデビューすることが決定したんだ!」


──オオオオオオオ!


 メジャーデビュー。その一言に会場を埋め尽くしたファンが沸く。


「みんなの応援でここまで来れたんだ! 盛り上がっていこうぜ!」


──ワアアアアア!!!!!


 メジャーデビューを記念したライブが始まった。

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