第6話 逮捕から1夜明けて

「……今の所こちら側でお聞きしたいことはこれで全てですね。捜査の協力にお力とお時間を割いていただきありがとうございます」


「そうですか、分かりました。お仕事お疲れ様です」


 早朝、秋人あきとの住まいに警察官がやって来て、seasonシーズンメンバーの未成年淫行に関する捜査に協力してくれ、と情報提供を頼まれた。

 協力しない理由は無いので素直に知ってる事は全部伝え、15分くらい話を聞いた後無事に解放された。

 元メンバーなだけに彼にも淫行の疑惑があったが、話を聞くうちにそうではないのを分かってくれたようだ。




 seasonメンバーの逮捕から1夜が明け……。


「人気バンドメンバー、女子中高生に淫行の容疑で逮捕」


「音楽バンドリーダー、女子中学生を妊娠させた疑い」


 新聞やネットニュースにそんな字幕が踊り、


「次のニュースです。音楽バンド、seasonのメンバーが女子中学生や女子高生とわいせつな行為をしたとして、警察は先日彼らを未成年者淫行の容疑で逮捕しました。

 3人は容疑について「全く身に覚えがない濡れ衣ぬれぎぬだ」と否認しています。警察は余罪が多数あるとして調べを進めているとの事です」


 ニュース番組でも報道される。




「……あのバカ! だから止めろとあれほど言ったのに!」


 1歩間違えばスマホの画面が割れる勢いで拳を振り下ろすか、スマホを持ってる手をスマホが潰れそうなほどの力で拳を握るかのどちらかだった秋人は、ニュースサイトの報道を苦々しい思いで見ていた。

 だから言ったじゃないか! バレるって! 彼の予想が的中してしまった……しかも最悪な形で。こんな事ならもう少しバンド内にいて彼らを止めるよう圧力でもかけた方が良かったかもしれない。

 もう知らない! とは言ったものの、いざこうやって報道されるまでに事態が大きくなると、やはり意識してしまう。




「……秋人、こういう言い方は悪いと思うが『泥船』から逃げ出せたのは運がいいな。お前は何かを「持ってる」と思うぞ」


 パンセ×パンセのリーダーが慰めているのか、はたまた彼を励まそうとしているのか、多少的外れなセリフをかける。

 メンバーが言うにはリーダーは音楽の才能はあるがコミュニケーションは苦手で、あまり気の利いたことを言える身分じゃないそうだが、秋人はそれを加味して受け取っていた。


「……分かってたんですよ、あいつらはいつかこうなるって。でも、できればこうなる前に気づいてほしかった、っていうのはありますね。

 ロクでもない人間に成り下がってしまいましたけど、一応は4年間苦楽を共にしたメンバーでしたから。特にナツは結成当初のメンバーだったから思い出も色々あるんですよ」


「まぁ、その、なんだ……今回の事件は失恋みたいなものだよ。また新しい出会いがあるだろうからそれでやり直せばいい。実際俺たちにこうして会えただろ?」


 リーダーのセリフは不器用で無骨な物だったが、何とか元気を出してほしいと思っているのは分かる。




「……なんていうか、リーダーっぽい事言いますね」


「すまん、俺はこういうの苦手なんだ。何とか励まそうとしてるんだがやっぱり的外れだったか?」


「『当たらずといえども遠からず』だとは思いますね。そのお気持ちだけは受け取らせていただきます」


「そ、そうか。そうならよかったよ」


 秋人は人並み以上に苦労して精神的に大人に成長していたからなのか、リーダーの気持ちは十分くみ取っていた。




 その一方で朗報もあった。メンバーの残り2人がスタジオに着くなりそれを伝える。


「聞いてくれ! 今度の単独ライブ、700人のライブ会場が埋まったんだ! チケットがSOLD OUTしたぞ!」


 ライブのチケット売り上げ状況を見てパンセ×パンセのメンバーは「嬉しい」よりも「凄い」という感情を見せていた。

 元々「パンセ×パンセ」自体400人程のライブ会場なら単独で満員に出来る程の実力を持っている上に、

 秋人の固定ファンがseasonからパンセ×パンセにそのまま移ったので500人という大きな節目を余裕で超えられるくらいの人気が出ていた。




「700人が埋まるか……秋人のファンを加味しても凄い事なんじゃないのか?」


「ひょっとしたらこの噂聞いて音楽レーベルから連絡が来ても良いんじゃないのか?」


「これだけ多くのファンが駆け付けてくれるんだ、しっかり演奏して応えないとな。じゃあ全員揃ったところで練習するぞ。いいな?」


 700人ライブに向けての練習が始まった。

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