第31話 肝試し
6月、プーさんときららの子供達が花を咲かせた。その中から色、形、香りの良い物を選んでピンチして鉢植えにした。この後秋頃に二回目の花を咲かせる。上手く咲けば成功だ。綺麗に咲いた鉢植えをスーちゃんにプレゼントしたい。成功するかどうかまだわからないのでスーちゃんにはまだ秘密。上手くいきますように。神様に祈った。
高木としょっちゅう会うようになった俺は、スーちゃん、あゆむちゃんと一緒に、高木の家である「龍間寺」の子供向け行事を手伝う事にした。今回は夏祭り。出店、紙芝居、祭りの後片付けなどなど。
秦野も誘いたかったが受験勉強の邪魔になるのでやめておいた。秦野は夏休みは夏期講習に行っている。本気でがんばっていた。
祭りが無事に終わり、中の水を捨てた風船釣り用のビニールプールを乾かすため、物干しに掛けながら高木に声を掛けた。
「梅は高校どこに行くん?」
出店で使っていたテントの支柱をまとめながら高木が
「さあ……わからん」
と返事をした。やっぱり梅とあまり話をしていないようだ。二人はどうなっているのか聞いてみようとしたところに、スーちゃんとあゆむちゃんがやって来た。
「焼きそばの鉄板、片付け終わったよー」
高木は梅の話題を避けたいのか
「ありがとう。冷たいもん持って来るから縁側で座っといて」
と母屋へと走り去ってしまった。聞かれたくないのかもな、まあそうだろう。もう梅の話はしないでおこうと決めた。
そのあと高木のおばさんが、今日のお礼だと夕食を作ってくれた。ご馳走が並んだテーブルを囲んで四人でわいわいと食事をする。
「龍太、この後お墓地の見回り頼むわな」
おばさんの言葉に高木が「わかった……」と嫌そうに答えた。
「お墓地の見回りって?」
おばさんが「ゆっくり食べていってね」と席を外してから高木に聞いてみる。
「あー お盆時期やからお墓にお供えもんが多いやろ。だからイタチとか狸とかが荒らしに来たりすんねん。食べ物とかは置きっぱなしにしないで下さいって注意書きしてんねんけどなぁ。だから食べ物回収したり動物に荒らされてないかを見に行くねん」
「一人で?!」
スーちゃんが驚いた顔で叫ぶ。
「うん、まあ……」
「ここのお墓地広いのに、大変やん!一緒にやろう」
スーちゃんの言葉に俺もあゆむちゃんも頷いた。
「女の子はちょっと怖いかもよ」
高木が心配そうにスーちゃんとあゆむちゃんを見る。
「夏やし、肝試し大会みたいで面白いやん」
スーちゃんが楽しそうに言いながら
「あゆむちゃんは怖い?」
とあゆむちゃんに尋ねる。
「ううん。面白そうです」
あゆむちゃんはにっこり笑って答えた。俺は正直ちょっと怖いけど……女の子って度胸あるなぁ、強いよなぁ……
「やっぱ女の子の方が根性あるよな」
俺と同じように思っているのか、高木が俺にだけ聞こえるようにささやいた。
夕食後四人で寺の墓地に向かった。本物の肝試しだ。マジで怖いかも……
「二手に分かれよか。その方が効率ええし」
高木の言葉で、俺とスーちゃん、高木とあゆむちゃんのペアに分かれた。懐中電灯を持ってそれぞれ左右に分かれて進み出す。
「夜のお墓ってやっぱり何か怖いな」
スーちゃんは言葉とはうらはらに楽しそうだ。
「とりあえず食べ物あったらこの袋に入れてな」
手に持ったビニール袋を持ち上げてスーちゃんに見せた。
「うん。お酒はいいんかな?」
蓋の開いたワンカップがチラホラ見受けられる。
「虫が来そうやな。でもお酒ぐらいは飲みたいんちゃう?お墓の人も」
「そうやなー 匂い嗅ぐだけとか余計飲みたくなるやんな」
スーちゃんは飲んべえみたいな事をいいながら懐中電灯で次々とお墓を照らして行く。急にスーちゃんが立ち止まった。
「何?」
「しっ!」
スーちゃんが人差し指を自分の唇に当てて振り返った。
「何か居てる……」
小さい声でスーちゃんが囁く。
「えっ!どこ?!」
俺も声をひそめた。
懐中電灯の光が届かない先に何か大きな影が動くのがわかった。動物?いやもっと大きい。幽霊にしてはごそごそし過ぎだ。墓参りに来た人だろうか?でもこんな遅くに?!
ゆっくり近づいた。俺が前に行こうと思うのにスーちゃんはそのまま進んでいく。後をついて行く形で影の方に近づいた。
いきなり影が立ち上がった。
「うああああぁぁぁ」
スーちゃんが雄叫びのような声で叫んだ。
「わあぁぁぁぁぁぁ」
影も叫ぶ。男の声。慌ててスーちゃんの肩を掴んで引き寄せた。そのままスーちゃんの前に回り込んで影との間に立つ。スーちゃんが後ろから懐中電灯を影に当てた。
作業着のような服を着たおじさんだった。手にはワンカップの瓶。おそらくお供え物のお酒を飲みに忍び込んだんだろう。
叫び声を聞きつけて高木達も走って来た。
「……すいません」
おじさんが嗄れた声で謝った。
「ダメですよっ!!」
突然スーちゃんが叫んだ。
「こんな暑いとこにずっと置きっぱなしやったお酒なんか飲んだら!お腹壊すじゃないですかっ!!変な味しませんでした?!もしかしたら後から気持ち悪くなるかも知れん、お薬持ってますか?!」
おじさんは一瞬固まった。スーちゃんが高木を見つけて更に続けた。
「もしお腹痛くなったら飲むお薬ない?渡しといてあげた方がいいかも知れん」
おじさんは小さくなってすいません、すいませんと謝り続けた。
結局スーちゃんに子供のように説教されておじさんは帰って行った。
大人に言わなくても良いのかな、と思ったが、もうスーちゃんが怒ってくれたのでこれ以上は何だかおじさんが可哀想だった。
お腹が痛くなったらすぐに救急車を呼べと、くどくどおじさんに言いながらスーちゃんは寺の外の自動販売機で買ってきたお茶を
「お酒じゃないけど、代わりにこれで我慢して下さい」
とおじさんに渡した。
「ホンマにお薬渡さんで大丈夫かな……」
最後まで心配しているスーちゃん。
「びっくりしたけど、おじさんの方が驚いてたな。怖がらせてもうた、私声デカいからなぁ……」
反省したように呟くのがスーちゃんらしくて何だか可笑しいし、スゴく可愛かった。
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